TOPICS 2022.09.06 │ 12:00

ストーリー原案・アサウラが明かす
『リコリス・リコイル』の始まりと変遷①

いよいよクライマックスを迎えるTVアニメ『リコリス・リコイル』。監督、キャラクターデザインに続き、3人目のキーパーソンとなるストーリー原案・アサウラへのインタビュー。前編では、企画が立ち上がった当初の様子と、物語の骨格ができあがるまでを語ってもらった。

取材・文/岡本大介

最初のプロットは「テレビで流せない」と返された

――アサウラさんは本作の立ち上げから参加しているそうですが、どのようなきっかけで企画が動き始めたのですか?
アサウラ 偶然なんですけど、別作品の打ち合わせでA-1 Picturesの柏田(真一郎)プロデューサーと僕の担当編集が話す機会があったんです。その柏田プロデューサーが僕の『デスニードラウンド』という作品を読んでいて「これを書いた作家はいかれている」と思ってくれていたそうで(笑)。そんな流れで担当編集経由で僕に「企画を考えてくれ」と話がきたのが最初ですね。

――『デスニードラウンド』は、女子高生の主人公が傭兵家業で生きていくガンアクションですね。
アサウラ そう、我ながら法律ギリギリの作品を書いてしまったなと思っていたんですけど、でもそれを読んでくれたことで声をかけていただいて、そのうえで「自由に書いてほしい」と言われたので、本当に自由にプロットを書かせてもらったんですよ。そして意気揚々と提出したら「こんなのテレビで流せるわけないだろ!」と言われまして(笑)。

――当初の企画は今よりもハードでシリアスだったと聞いていますが、それほどだったんですね。
アサウラ 学園要素があったり、女の子たちが普段は日常ものよろしく楽しくやっているものの、銃を持つとハードになる感じです。そうした全体の世界観や雰囲気もそうなんですけど、とくに致命的だったのはクライマックスで、主人公たちが六本木のど真ん中で逃げ惑う一般人もろとも敵を血の池地獄に沈めるというオチでした(笑)。

――……え? それはどういう言葉のアヤですか?
アサウラ いや、そのまま文字通りです(笑)。すべてを犠牲にしてもいちばん守りたいものだけは絶対に……という感じでした。そもそもターゲット層とか作品のテーマだとか、そういうことはいっさい考えず、「とりあえずやってみるか」というノリで書かせてもらったので、まあこうなりますよね、と。

足立監督の参加で一気に内容が固まっていった

――自由に好きなものを書いた結果、倫理を置き去りにしていたと。
アサウラ 『デスニードラウンド』も売り上げや倫理、アニメ化を狙うなどといったことはまったく考えずに書いた作品なので、僕としてはそれを踏襲してプロットを作ったんですけど、さすがにダメだったようです。僕の性分なのか、どう頑張ってもメジャーな展開は作れないんですよね(笑)。ただ、『リコリス・リコイル』に関しては、足立(慎吾)さんの影響がとても大きいですね。初期案がダメだ、となって、心機一転で今の千束(ちさと)たちリコリコメンバーを作ったあとも、どこかしらシビアな要素が残っていたんですが、足立さんが参加してから一気に作品が明るくなりましたから。僕の初期案のままだったら、とてもここまで多くの人に受け入れてもらえなかったと思います。

――足立監督は作品にどのような影響を与えたのでしょうか?
アサウラ いちばん大きいのは、千束のキャラクター性ですね。足立さん参加前の僕のプロットでは千束はもっとツンケンしたギャルで、フキに近い性格だったんです。それが足立さんの提案によって、今のようにすごく前向きで明るいキャラクターになりましたし、作品全体もグンと明るくなりました。それに足立さんと話し合ううちに、地上波のTVアニメでやっていいことと悪いことというのもわかってきたんです。それまでどこかふんわりとしていた企画が一気に現実味を帯びてきて、そこで初めて「本当にアニメ化されるんじゃないか?」と思いました。

打ち合わせで「真島のほうが正論言ってない?」

――DAという組織も足立監督が参加してから固まっていったんですよね。
アサウラ そうです。当初はもっと規模の小さな秘密組織、必殺仕事人的なイメージだったんですが、足立さんから何らかの公的な後ろ盾があるべきだろう、との提案がありまして。そうした部分をキチンと説明するための設定として今のDAを作り、それによって真島という敵キャラも明確に立ち上がってきました。いつだったかの打ち合わせで誰かが「これ、真島のほうが正論言ってない?」と言って、みんなで「たしかに」とうなずいた記憶があります(笑)。

――そうだったんですね。物語の中心となっているのは東京の下町です。この場所を選んだのはどういう理由だったのでしょう?
アサウラ 東京を舞台としたドラマを展開するなら、ランドマークを画面に入れたいと思ったのがひとつ。もうひとつは、僕自身が以前、下町に住んでいて、当時はよく錦糸町周辺のカフェで編集者と打ち合わせをしていたんですよね。あのあたりには和カフェも多くて、喫茶リコリコを和カフェにしようと思ったのも、当時の思い出が大きいです。直接的なモデルとなっているわけではありませんが、できあがった映像の雰囲気を見ると、当時よく利用していたとある喫茶店に似ているなと思いました。endmark

アサウラ
北海道出身。小説家。『黄色い花の紅』で第5回スーパーダッシュ小説新人賞・大賞を受賞し、2006年に作家デビュー。主な著作に『ベン・トー』『小説シドニアの騎士 きっとありふれた恋』など。近年は『Phantom in the Twilight』や『revisions リヴィジョンズ』などのアニメ脚本も手がける。
作品情報


『リコリス・リコイル』
毎週土曜23:30~ TOKYO MXほか各局にて放送中!

  • ©Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11