TOPICS 2022.03.17 │ 12:00

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『王様ランキング』は単なる「感動の押し売り」じゃない!

「泣けるファンタジー」として話題のWebマンガをWIT STUDIOが映像化したアニメ『王様ランキング』。2021年10月から2クール連続で放送中の本作も、残すところあと少し。「泣けるファンタジー」から「号泣系ファンタジー」へと昇華したアニメの魅力について、あらためて考察してみたい。

文/岡本大介

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

多彩な泣きのバリエーションに隠された緻密な演出

ここまでアニメを追いかけている視聴者であればおわかりだと思うが、本作の登場キャラクターはみな、とても涙もろい。主人公のボッジやカゲはもちろん、その両親や臣下たちも、敵でさえ大声で泣きわめく。よって、『王様ランキング』最大の特徴は「泣き」であり「涙」であることは間違いないだろう。じつは原作に比べて、アニメでは泣きのシーンを意図的にグレードアップして演出している。たとえば、初めてボッジが涙を流す第一話(「裸の王子」)。まわりからバカにされていることを我慢していたボッジが、堪えきれず人知れず涙を流す。このシーンは原作では涙を流すボッジを正面から描いているが、アニメでは泣く顔そのものは見せず、こぼれ落ちる大粒の涙と背中でボッジの辛い心情を表している。

そして、ここでの抑制が、第二話(「王子とカゲ」)のラストシーンへの見事な布石となっている。カゲが「俺は、これからどんなことがあっても、お前の味方になりたいんだ」と宣言するこのシーンは、原作ではボッジの身体は治癒済みであり、比較的タンパクな描写にとどまっている。しかし、アニメではこれを改編し、ダイダとの決闘に破れた直後、包帯で全身を包まれた状態のボッジに対して、このセリフが投げかけられる。人前で泣くことを恥として、必死に涙を堪えていたボッジだが、涙を止められず、片目を覆う包帯は大きく滲んでいく。一瞬のうちにさまざまな感情が交錯したボッジは、涙でくしゃくしゃになった笑顔とともに、言葉にならない声を返す。これは第一話での泣きのシーンを、あえて抑制することで生まれた屈指の名場面である。

他にも第五話(「からみあう陰謀」)でカゲと再会した際には声をあげて笑いながら涙を流し、第十話「王子の剣」では自らの臆病さに憤り、泣きながら自分を殴るなど、泣きのバリエーションはじつに多彩。そのどれもが緻密に演出されており、細かな表情芝居やキャストの芝居も含めて、制作陣の泣き芝居へのこだわりを感じられる。

ここでふと疑問に感じるのは、ここまで明白な演出をされると「感動の押し売り」的な抵抗感が生まれてもおかしくないものだが、不思議と本作からはいっさい感じないことだ。なぜか? それはあたたかい絵柄と寓話的なストーリーによるものだろう。これがもし、リアル系の絵柄であれば受け止め方はまったく違うものになるし、まして実写であれば正視に耐えないかもしれない。それほどデフォルメ絵と涙の相性は抜群なのだ。そして本作は、キャラクターもストーリーも見事なまでに寓話的である。現実にはカゲのように無条件に応援してくれる友達はいないし、ちょっとの修行で世界最強に成長することはない。少年マンガと比べるとその違いは明らかだ。人生における本質的な教訓をファンタジーというオブラートに包み込み、ギュッと凝縮した寓話だからこそ、泣かせられることに抵抗がない。ボッジの涙のシーンとともに教訓が脳裏に焼きつく、これはそういう作品だ。気軽に泣ける単なる涙活作品として受け止めるには、かなりもったいない。endmark

作品情報

『王様ランキング』
好評放送・配信中
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  • © 十日草輔・KADOKAWA刊/アニメ「王様ランキング」製作委員会