作家にとっての即売会の意味
即売会がなくても、通販という形で作家とファンがうまく結びついている……と思っていた同人誌ジャンル。ところが即売会が縮小したことで、とても大きな問題が出てきたのです。「今は、即売会がなくなったことで、サークル様の新刊の絶対数が減っています」と、とらのあな・佐藤さん。その理由を同人作家・ハルカさんに聞いてみました。「通販が主体になったときに、どれくらい刷ればいいかまったく予測ができなくなってしまいました。あるジャンルではオンラインイベントが盛況だったために、本も通販サイトのランキングに載るぐらいの勢いで頒布できました。ところがあるジャンルでは、オンラインだとまったく売れなかったんです……。本ごとに売れゆきに差があり、在庫を抱えるリスクが怖いので、本を刷りにくくなりました」(ハルカさん)。そして、もっとも難しいのが「新作を書くこと」。「即売会がなくなったときは『同人誌を書くこと』自体のモチベーションが下がってしまいました。即売会に申し込むこと=『原稿の締切』につながるので、締切がないとそもそも書かなくなってしまうんです」(ハルカさん)。締切がなくなると、新刊を出さなくなる……! じつは私もそのひとりです。私はコミックマーケットの「評論」ジャンルで同人誌を頒布していましたが、コミケが3回延期になったことで、2020年9月以降、一度も同人誌を書いていないのでした……。
写真提供 渡辺由美子
作家と同人誌市場を支援するためのアイデア
印刷しづらい状況にある作家さんの支援は、とらのあなさんでも力を入れているそうです。「同人誌の委託料を減らすキャンペーンのほかに『ゼロ円印刷』を始めました。やっぱり同人誌は『印刷する』ことが最初の大きなリスクです。それが難しい作家さんも多いので、最初に印刷費用を弊社で持ち、販売した売上げで相殺する。そうしたサービスを提携する印刷所さんと一緒に始めました」(野田さん) とらのあなさんによると、「印刷所と提携する」ことに意味があるそうです。「同人誌をお金が流れる“市場”として見ると、これまでは、同人作家→印刷所→即売会→同人作家という循環でうまく回っていました。けれども即売会が縮小したことで、作家さんが本を出すことを控え、市場のサイクルが止まってしまったのです。結果、即売会さんだけでなく、印刷所さんも大きな打撃を被っています。だから弊社としても、できるだけ作家さんを支援して、“市場”に貢献したいと思っています」(野田さん)