今の『ガンダム』作品としてキャラクターに違和感がないように
――40年前の絵柄に合わせて現在の芝居をするのは難しいと思いますが、キャラクターに寄り添うという感覚はどう反映されているのでしょうか?
潘 当時の感覚を懐かしんでくださるファンの方々は、それを求めている部分もあると思いますから蔑(ないがし)ろにはできません。現在の主流がリアルな芝居にあるとしても、そこは作品が求める演技や共演者の皆さんとのやり取りで生まれる自然な雰囲気を大事にしたいと思っていますね。
古谷 僕の場合で言うと、これまでいろいろなキャリアを積んできた上で、今の自分があるわけですよね。僕も40年前の自分の演技に近づけたいとは思うけれど、絶対に当時の自分と同じにはできないわけだから、それよりも今の『ガンダム』作品としてキャラクターに違和感がないように演じたいというのがいちばんにあります。だから、めぐみちゃんのセイラへの取り組みにも近い部分があるのかもしれない。彼女の演じるセイラに違和感がなかったのは、もちろんめぐみちゃんがセイラというキャラクターを把握しているからなんだけど、それと似たようなことを僕も40年前から続けているようにも思えるんだよね。
潘 私自身としてはうまくできているとは思っていなくて……。もちろん、演じているときは100パーセントの力を出し切ろうと頑張るんですけれど、やっぱり後に自分の演技を見ると反省点はいろいろあります。『ガンダム』は自分が小さいときからずっとそばにあった作品ですから、皆さんのお声や作品の世界観、音楽、効果音、作画の雰囲気といった印象が強すぎるのかもしれません。私の中にそれらが染み込んでいるからこそ、その中で「浮かないように」という意識をしたことは逆にないかもしれないです。
©創通・サンライズ
――古谷さんは単独での収録だったとのことですが、潘さんはどうでしたか?
潘 私の場合はスレッガーさん(池添朋文氏)と一緒の収録でしたけど、あらかじめ収録された古谷さんや古川登志夫さんの声を聞かせていただきながら収録に臨みました。掛け合いのシーンでは音声を聞きながら芝居ができたので、その部分ではとても助かりました。本当は相手がいなくてもきちんとした芝居ができなければいけないのですが、掛け合いがあったほうがどうしてもやりやすいんですよね。
古谷 僕なんかドアンの声を誰がやるのかも知らなかったからね(笑)。でも、安彦監督や音響監督の藤野貞義さんが作品をしっかり把握されていたし、僕にも自分なりのイメージがあったからこそ単独でも収録できたわけです。たとえば、ドアンは昔の徳丸完さんの声のドアンとは違う、今回の新しいビジュアルから想像するイメージを頭の中に構築して演じるというようなことですね。
――役を引き継ぐという意味では、ホワイトベースのクルーはほとんどの声優さんが刷新されていますね。
潘 収録現場でご一緒する機会がなかったので、お話することはなかったんです。でも、公開後の舞台挨拶などでは、ブライト役の成田剣さんと「お邪魔するかたちで、緊張しますね……」なんて話をしていました。役を演じているときは「ともに戦ってきた仲間(クルー)」として考えているので、そういった雰囲気はないのですが、イベントなどではどうしても緊張感が出てしまいます。
古谷 成田くんは地声からして鈴置洋孝さんにそっくりなんだよね。あとは彼も『ガンダム』を見てきた世代だから、そういう意味では演じやすいというかキャラクターを把握しているとも言えるんだろうね。僕だって『巨人の星』のオーディションを受けるときに、星飛雄馬を演じることに何の迷いもなかったから、きっとそれと同じなんだろうな。原作マンガの大ファンで「飛雄馬は絶対にこうやってしゃべる!」と頭の中で出来上がっていたから。
堂々とウソをつく(?)セイラ
――潘さんから見て、アムロ・レイはどういう人物だと捉えていますか? 小説版を除いて、じつはアムロとセイラはそこまで密接な関係でもないという印象もありますが。
潘 たしかに映像を見ている限りでは、恋人関係であるような描写はありませんよね。宿命のライバルであるシャアの妹という部分でアムロと関係があったという印象です。戦場ではアムロとシャアの関係性が強すぎて、セイラは蚊帳の外という感じでしたよね。兄であるシャアに対しては「なぜ?」という感情があったと思いますが、アムロに対しては「そのままでいてほしい」という気持ちがあったのではないかと私自身は解釈しています。戦いに対する疑問を持ち続けてほしいというか、素直なままでいてほしい。その上でセイラとして手助けできる部分では助けたいし、叱るべきときは叱るというのか……。
古谷 めぐみちゃんの中では、セイラはアムロのお姉さん的な立ち位置なんだね。
潘 そうかもしれないです。どこかで、親とともに暮らしてきたアムロは自分とは違うと思っているようなところがあるんじゃないかなと。セイラは早くに両親を亡くして、自分の素性も隠して各地を転々としてきたわけですから、アムロよりひと足先に修羅場を潜り抜けてきた経験を踏まえた上でのお姉さん目線はあるのかもしれないですね。
古谷 アムロの能力はホワイトベースにとって必要だから、一生懸命おだてたりして戦わせようとしていたよね。
潘 アムロにはそんなセイラの本心は見透かされていたし、カイにも見透かされていましたよね。それがウソやおだてているだけと見透かされていても、それを最後まで貫き通すのがセイラなのかなと思います。ある意味で堂々とウソをつくというか(笑)、それが大人というものだと考えている。そういう点で、アムロたちとは差別化できますよね。
- 古谷徹
- ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。
- 潘めぐみ
- はんめぐみ 6月3日、東京都生まれ。『櫻の園』(2008年)で女優デビューしたのち、『HUNTER×HUNTER』(2011年)の主人公、ゴン=フリークス役で本格的に声優デビュー。『ハピネスチャージプリキュア!』(2014年)で白雪ひめ/キュアプリンセスなどに出演。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(2015年)でアルテイシア・ソム・ダイクン、『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』(2022年)などでセイラ・マスも演じている。