TOPICS 2023.05.31 │ 12:01

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第11回(後編)

第11回 古谷徹(アムロ・レイ)×潘めぐみ(セイラ・マス)

潘めぐみさんとの特別対談の最終回は、『機動戦士ガンダム』に登場するニュータイプの少女ララァ・スンを演じた母、潘恵子さんとの関係、そして声優になると決心したきっかけについて語ってもらった。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

母の話は人づてで聞くことが多い

古谷 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』以降、セイラ・マスをめぐみちゃんが演じることになったわけだけど、それに対してのお母さん(潘恵子さん)の反応ってどんな感じなの?
 最初は試写会も一緒に行っていたんですけど、それで何かお芝居について言われたことはないですね。演じる前も作品を見たあとも「あなたのやりたいように自由に演じなさいな」という感じで、良い悪いという評価をされたことはないです。母の言ったことで私の芝居を左右することになるのは良くないと考えているらしい、というお話をキャスバル兄さん(池田秀一氏)から聞きました(笑)。
古谷 池田さんから聞いたんだ(笑)。
 母の話は人づてで聞くことが多いんですよ。デビュー当初はすべてがわからなかったので母にいろいろと教わることが多かったのですが、独立して生活をするようになってからはお互いの距離感がわかるようになったということなんでしょうね。昔は反発しながらも、母の言うことも一理あると受け入れようとした部分が多かったんです。でも、そのままでは自分自身の芝居ができなくなってしまうこともわかってきたというか。
古谷 それはもう、めぐみちゃんをプロとして完全に認めているということだよね。
 そうなんでしょうか。親としての感情を職場に持ち込んではいけないという考えはあったと思うので、私も親子の関係を職場に持ち込まないようにすべきだとは思っているんですけど。
古谷 でも、もしかしたらもう親を超えているんじゃないの?
 えええっ!? ぜんぜん超えてはおりませんよ~。

©創通・サンライズ

――潘恵子さんといえば、ララァ・スンだけでなく、関わった男の運命を狂わせる役を多く演じていますから、その壁はなかなか厚く高いかと……。
古谷 ファン目線はさすがに厳しい(笑)。たしかに共演した作品ではお母さんを命がけで守る役が多かったな。
 人ならざる存在というか、運命を見通しているような役が多いですよね。そこもまた母に似ている印象ですけど。でも、母のことはこうして誰かから聞くことが多いんですよ。直接話すことが対立を生むと母も察しているようで、然るべきときに娘の耳に入ればいいと考えているようです。必要なときに人づてで母の意見を聞くことで、落ち着いて受け入れられるというか。デビュー当時は母から演技について直接言われることは幸運な状況だと思っていたんですけど、それが続いていくうちにお互いに良くないと思うところもありましたから、こうして間接的に聞くほうがお互いにとって良い状況なんだと思えるようになりましたね。
古谷 それが親心というものかもしれないね。
 そうなのかもしれません。母は占いもやっているので、よく人から「めぐみちゃんは占ってもらわないの?」と聞かれるんですね。私が生まれた時間もわかっているのでホロスコープも出そうと思えばできるのですが、途中でやめたそうです。というのも、やっぱり私の決断を左右したくなかったからみたいです。自分の運命が知りたかったら、自分で学ぶか誰かに占ってもらいなさい、と。母はそういう教育方針なんでしょうね。
古谷 でも、めぐみちゃんが小さい頃から、潘(恵子さん)ちゃんが業界のいろいろな場所に連れてきていたのは僕もよくおぼえているよ。娘の進む道のために少しでも役に立とうとされていたんじゃないかと思っていたんだけど。
 女手ひとつで育ててくれたので、それも大きかったとは思います。でも、子供の頃に母がスタジオでマイクの前に立っている姿は一度も見たことがなかったし、家で自分の仕事をチェックしている姿も見たことがないんですよ。
古谷 そうなんだ! 家庭に仕事を持ち込まなかったんだね。それがめぐみちゃんの選択に影響しないように気を使っていたのかな。
 だから、母には守ってきてもらった感覚のほうが大きいんです。

――潘さんの幼少期の話を聞くと、どことなくアルテイシア風味を感じます。
古谷 アルテイシア風味って(笑)。出版社のパーティーに来ていたところなんかは、たしかに幼少期から大人の社会と関わりを持っていたという点で近いと言えるかもしれないね。