TOPICS 2023.05.31 │ 12:01

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第11回(後編)

第11回 古谷徹(アムロ・レイ)×潘めぐみ(セイラ・マス)

潘めぐみさんとの特別対談の最終回は、『機動戦士ガンダム』に登場するニュータイプの少女ララァ・スンを演じた母、潘恵子さんとの関係、そして声優になると決心したきっかけについて語ってもらった。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

やりたいことをやるのが感性をキープするのにはとても大事

――演技者としての大先輩である古谷さんに、何か聞いてみたいことはありますか?
 仕事だけでなく日課を継続していくための秘訣というか、重要なことは何でしょうか?
古谷 あまり意識したことはないけれど、この仕事に関していえば、声の維持はもちろん大事ですよね。でも、それよりも僕の場合は40年経っても15歳の役を演じなければならないことがあるわけです。その感性というか、感受性を維持していくことや再現することがいちばん難しいし、もっとも重要なことなんじゃないかと思う。

――40年前の15歳と現在の15歳では感性が大きく違いますよね。その場合、今の少年たちを知らなければならないと思うのですが。
古谷 たしかにその通りだね。僕が恵まれていると思えるのは、ファンの方たちの年齢層が幅広いことなんです。小学生からファンレターをいただいたりすることで、今の若い人たちはこう感じているんだなと情報をアップデートすることができる。感想を送ってきてくださることで、今の感受性を知ることができるわけです。それは本当に恵まれていると思うし、大切にしていきたいつながりでもありますね。あとはそうだな……人によるとは思うけど、僕の場合は子役出身ということもあって15歳の頃はすごくマセていたんだよね(笑)。だから今の15歳は子供っぽいと思うし、アムロですらも子供っぽいと感じる。そういうズレを認識できるかどうかは重要だと思いますね。

――ファンレター以外で感受性を維持する方法はありますか?
古谷 あとはやっぱり遊ぶことだね。僕の遊びはアウトドアのジャンルになるけれど、無心になれることですよ。好きなことを無心になってやると、その瞬間だけは子供に戻れる気がする。僕は子役時代にずっとスタジオで仕事をしてきて、それこそ小学校の友達とキャッチボールもできなかったし外で遊ぶこともなかった。その反動があるのかもしれないけど、プロになって自分で自由な時間を作れるようになってからは仕事を断ってでもやりたいことをやるのが感性をキープするのに必要だと思うんだよね。あと声を出すというのはエネルギーを使うことでもあるから、フィジカル面でも身体を動かす遊びをするのはいいと思う。
 遊びはやっぱり大事ということを実感しました。私もどちらかというとアウトドア派なのですが、最近大好きなアーティストのライブに行ったんですね。そこで発散もして、ライブでいろいろなものを受け取ることもできたので、そういう時間は大切なんだなという実感もありました。

©創通・サンライズ

古谷 もうね、わがままでいいと思うんですよ。やりたい仕事だけやればいいの。僕が仕事を選べるようになったのは30歳を過ぎたくらいだったかな、それこそアニメの仕事がほとんどなくなってしまって、半年くらいスケジュールがぽっかり空いたときがあった。「この先やっていけるんだろうか……」とすごく不安で悩んだけど、でも結局仕事がなかったのはその半年だけだったんだ。その頃からナレーションの仕事が入るようになって、声優はキャラクターを演じるだけじゃないということに気づいた。それからは仕事の内容に関してある程度わがままになってもいいんじゃないか、という考え方ができるようになったんだよね。健全な精神で良い仕事をするためには、むしろプライベートを充実させたほうがいいと思うようになった。じつは僕は60歳で引退しようと思っていたんだけど、誰も許してくれなかった(笑)。
 それは皆さん放っておきませんよ。

セイラを演じるコツ

――最後に、セイラ・マスを演じるコツを潘さんにお聞きしたいのですが。
 難しいですけど……そうですね、ずっとセイラを演じさせていただくことになったとしても、セイラは戦いの中に身を置いていることが多いと思うんです。だから、戦い続けるという気持ちを持つことがセイラを演じる上で重要なポイントじゃないかと思います。精神論のようでわかりにくいですけど、戦争が終わったとしても人生は戦いの連続ですから。セイラが医者になっても患者を救うための戦いがあるし、誰かの命を背負いながら生きていくと思うんです。セイラは自分自身のために戦う人というよりも、救うべき人のために自分の身を呈して戦うのかなと思います。気の緩みを見せないというか、彼女自身がセイラ・マスという人格を演じているとも言えるんじゃないかなというのが、私の中でのセイラ像ですね。発声として声を作っているということではなくて、気持ちの部分でセイラを演じる意識を持つのがコツなのかもしれません。endmark

古谷徹
ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。
潘めぐみ
はんめぐみ 6月3日、東京都生まれ。『櫻の園』(2008年)で女優デビューしたのち、『HUNTER×HUNTER』(2011年)の主人公、ゴン=フリークス役で本格的に声優デビュー。『ハピネスチャージプリキュア!』(2014年)で白雪ひめ/キュアプリンセスなどに出演。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(2015年)でアルテイシア・ソム・ダイクン、『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』(2022年)などでセイラ・マスも演じている。