劇場版『機動戦士Ζガンダム』当時の面白エピソード続編
- 劇場版の第2作となる『機動戦士ΖガンダムII A New Translation -恋人たち-』(2005年)はその副題の通り、キャラクターたちの恋愛模様が多く描かれる。アムロの登場シーンがもっとも多いため、古谷徹氏に当時のアフレコ台本を持ってきてもらった。そのメモ書きについてのエピソードを、前回に引き続きお送りしよう。
――「動体視力を保持するのにブルーベリーがいい/川村万梨阿」とありますね。
古谷 そういうことが言われ始めた時期だったのかな(笑)。ブルーベリーを収録現場に持ってきてくれていたのはおぼえています。「ベルトーチカとフォウは、最初の収録では緊張していた」というメモもある。『恋人たち』という副題にもある通り、この作品では女性たちが重要だから富野監督の演技指導も熱かったんでしょうね。それに関連するメモとしては「時間経過があるにもかかわらず、戦いを引きずってしまい日常会話もオーバーになる」というのがあります。戦闘シーンのテンションを日常会話に持ち込んでしまうということですが、本作のような総集編はどうしても場面転換が多いので、前のシーンを引きずってしまうことがあるんです。あとはそうだな……「カミーユとフォウのキスシーンは息をのんだ」「生唾飲んだ鈴置」というのがあるね(笑)。みんなが引き込まれる演技をしていたのに、鈴置ちゃんはそういうことを言って笑わせてくるんですよ。うらやましかったんだろうね、たぶん(笑)。
――「第三部は老人たち」というのは?
古谷 池田さんが「第二部の副題が『恋人たち』っていうなら次は『老人たち』だな」って(笑)。出演者がみんな年を取っているからそう言ったんだろうけど、ブルーベリーの話といい面白いよね、こういう冗談が出てくるのは。
――「右にゆかな、左に万梨阿でいい匂いだった」とあります(笑)。
古谷 アフレコスタジオの長椅子で、僕がふたりに挟まれるかたちになったことがあるんですよ。ゆかなさんとは13年ぶりくらいに再会したのかな。収録のときの服装が黒のセーターに裾の広がったパンツスタイルで、それがサイコ・ガンダムみたいだと書いてあるね(笑)。失礼な話だけど、シルエットが似ていたとかではなくて色味の話だと思います。それと「シーン571-2やる気が出てきた万梨阿」とメモにあるけれど、アムロとベルトーチカの関係性はTVシリーズよりも明確に描かれていますよね。恋人たちとしてのふたりの距離感や関係がはっきりしているので、僕としてもこのときのアムロにきちんと向き合うことができたのは本当によかったと思っています。
――「クラシックな日本語をあえて使っています。ゴメン現代用語ではない/富野」というのは監督からのコメントですか。
古谷 富野監督のセリフには特徴があるというか、いわゆる富野節と呼ばれる独特な言い回しを意識されてのことなのかな。読みにくいとか口語では使わないような言い回しもあるので、そういう場面もあるということを言いたかったんでしょうね。セリフのことで言うと、僕のセリフに映像の口パクを合わせていただいたシーンがあるんです。シーン674の「いや、アーガマの動きもわかっているようだ」というセリフで、瀕死のフォウがカミーユを宇宙に打ち上げようとする名場面です。メモによると「芝居が完璧だった。絵のブレスタイミングが悪い!」って書いてあるね。飛田も賛同って(笑)。このときは収録が先行していたこともあって、作画のほうを合わせてくれることになったようですね。こういうメモ書きが残っているのも、アムロが主役ではなくて出番が飛び飛びだったからなんですよ。僕としても、いろいろな出演者や富野監督を観察する余裕があったんでしょうね。