TOPICS 2022.09.22 │ 12:45

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第5回(前編)

第5回 古谷徹(アムロ・レイ)×飛田展男(カミーユ・ビダン)

『機動戦士Ζガンダム』で新世代の主人公を演じた飛田展男氏。戦いに疲弊したかつての英雄アムロ・レイと、地球連邦軍の内部に身を潜めるシャア・アズナブルといった主要キャラクターたちとの共演はどうだったのか。当時の思い出や新訳となった劇場版での演技について語ってもらった。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

飛田展男とカミーユの共通点

『機動戦士Ζガンダム』(1985年)において、世間に対して拗ねた態度をとるアムロ・レイにはまったく感情移入ができなかったと古谷徹は言った。その一方で、新世代の主人公であるカミーユ・ビダンと、それを演じる飛田展男氏の演技については、ある種の驚きと自分自身にはない才能を強く感じていたという。アムロ・レイとカミーユ・ビダン、その出会いとはどのようなものだったのだろうか。

古谷 僕は『機動戦士Ζガンダム』については前回で話しつくしたんですよ。
飛田 え、そうなんですか。じゃあ、今回はどういう感じで……?
古谷 もう飛(とび)ちゃんとカミーユについてのお話ですよ。僕はベルトーチカというキャラクターが嫌いだったっていう話をしたの。
飛田 それは当時からおっしゃっていましたよね。「僕はどうもねえ」って(笑)。
古谷 あ、やっぱり? ところで今日は当時のアフレコ台本を持ってきてくれたんですね。『機動戦士Ζガンダム』の台本は僕も持っていないから、これは貴重だよね。
飛田 全話を通して出演していたのは僕と小杉十郎太さんだけでしたから、全話を保管しているのはたぶん僕だけじゃないかなと思います。十郎太さんは……。
古谷 ああ、彼はたぶん捨てているな(笑)。でも、50話分の台本を保管するのも大変だよね。置き場所も必要だし、あと虫よけもしないとならないから。
飛田 そうなんですよね。今回は中でも変な落書きをしていないものを選んで持ってきました。メモ書き程度はありますけど、大したことは書いていないです。
古谷 人の台本ってあまり見る機会ないから興味深いな。ちょっと見ていい?……あ、主題歌が載っているんだ。これは珍しいよね。あとキャストも名前が載っている。当時は、かなり先行してアフレコ台本を作成していたのかもしれないね。
飛田 主題歌が歌詞を含めて掲載されているのはかなり珍しいですよね。
古谷 TVシリーズ第1話の台本にはちゃんと日付も書いてあるね。昭和60年1月28日午前10時から午後3時半……昼食タイムあり(笑)。
飛田 最初だったのでちゃんとメモしてありますね。初回ということもあって収録時間が長めでしたから、昼食も用意されていたんでしょうね。たぶん、第2話以降は昼食休憩がなかったように思います。
古谷 収録時間だけで考えると、昼食タイムを取るのは当時としては普通だったかもしれない。今はもっと早く終わるから。
飛田 事前に映像をチェックすることもできますからね。当時はその場で映写されるものを見るのが最初でしたから、やはりどうしても時間はかかってしまいますよね。

――メインキャストはかなり前段階で決定していたのでしょうか?
飛田 そうです。もちろん、オーディションがあって課題のセリフをひと通りしゃべって収録するんですけど、その現場には富野監督も音響監督の藤野貞義さんもいらっしゃらず、音響スタッフの千田啓子(※編注:キャスティングマネージャーを担当)さんだけでした。それと当時のオーディションとしては珍しいんですけど、課題のセリフのあとにフリートークの時間というのがあって、1分間くらい好きにしゃべっていいというものでした。
古谷 それは珍しいというか、僕は聞いたことないな。
飛田 そこで、よせばいいのに僕はとんでもないやらかしをしてしまって、そのフリートークで番組批判をやったんです。
古谷 え、どういう批判? 『機動戦士ガンダム』について?
飛田 僕は『機動戦士ガンダム』という作品が大好きで、TVシリーズも劇場版もあんなに素晴らしい終わり方をしているのに、なぜ続編なんか作るんですかと(笑)。
古谷 アハハハ! 僕と同じ感想を持っていたんだね。
飛田 なんでオーディションの現場であんなことを口走ったのか自分でもよくわからないのですが、とにかく続編なんか作るべきじゃないと大批判してしまったわけです。普通、そういうネガティブなことを言ったら「その内容では何だから一応録り直しておこう」とか言ってくれそうなものですが、そのときは何も言われずにそのまま通ってしまって。
古谷 でも、初めての主人公なんだから、絶対やりたかったはずでしょう? なんでそんなこと言っちゃったの(笑)。
飛田 いや、本当に自分でもよくわからないんです。衝動的に出てしまった。あとで主役に決まったと聞いたときに、あのコメントを監督たちは聞いていないんだろうと思ったんです。さすがにあれを聞いていたら主人公には抜擢されないだろうと。そして番組のアフレコが始まる前に出演者や制作スタッフとのミーティングがあったんですけど、その場で富野監督が作品に対する思い入れをとうとうと語ってくださったんです。それこそ業界の裏事情から、どうして『機動戦士ガンダム』の続編を作ることになったのかについてのあれこれを包み隠さず全部お話ししてくださった。で、ひと通り話し終わったところでクルリと僕のほうに振り向いて「あなた、納得しましたか!?」って目を見て言われました(笑)。
古谷 ちゃんと聞いていたんだ(笑)。でも、その話を聞いて飛ちゃんは納得できた?
飛田 そうですね。裏事情からご自身の気持ちまで全部お話ししていただきましたから、それはもう十分に納得できました。

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