ブライトとアムロの関係は、鈴置さんとの関係に近い
――現場でのセリフ修正はかなり多かったのでしょうか? また、いわゆる「富野節(とみのぶし)」と呼ばれる難解な言い回しも多いと思いますが、言い回しで苦労したことはありますか?
古谷 細かい修正は多かったですね。TVシリーズの作品ではあまりないのですが、劇場作品だと上映時間も限られますし、セリフの細かい修正をしてテンポ良く見せるように配慮していたのかもしれません。あと、セリフの言い回しというか、そういう部分で苦労したことはアムロに関してはほとんどないかな。他の作品だと、自分の役はこういう言い回しはしないよな、と考えてセリフを変更することもありましたが、アムロはそういう違和感はなかったです。でも、その富野節がキャラクター性を表すこともあるわけで、つまり、そういう言い回しがあることで演技の方向性が決まる場合もあると思います。だからある意味では迷わずに済むかもしれないから、特徴的な言い回しのセリフが多いことが演技の壁になるというわけではないと思いますよ。とはいえ、アムロではそういうことがなかったから、僕が言うのは説得力がないかもしれない(笑)。ともかく、シャアやブライトほど難解な言い回しはなかったですね。
――ブライトといえば、アムロがタメ口で話しているのがショックでした。
古谷 ショックだったんだ(笑)。たしかに10代の頃はブライトとアムロは先輩後輩みたいな関係性だったもんね。でも、大人になると2~3歳の差なんて問題にもならないわけで、ふたりともアラサーで付き合いも長い間柄となると、そういう意識が会話にも出てくるんでしょうね。
――ブライトを演じた鈴置洋孝さんと古谷さんも同じように近い関係だったのでしょうか?
古谷 そうですね。この時期は『ドラゴンボール』でも『聖闘士星矢』でも共演していたから一緒にいる時間も長かったし、週に何度も会っていました。当時、『ドラゴンボール』の収録が終わると近くのビリヤード場にふたりで通っていましたね。僕は趣味がビリヤードだったから。他の共演者とは行ったことがないけど、鈴置ちゃんとはそういう遊びもしていたので、ブライトとアムロみたいな関係だったと言えるかもしれない。それとこの時期になると、ほんの少しだけお酒を飲み始めたんですよ。僕はそれまでずっとお酒が飲めないというか飲まなかったんですけど、『聖闘士星矢』の出演者がみんなお酒好きだったから、少しずつ慣らしていったというか。アフレコのあとに青銅聖闘士(ブロンズセイント)のメンバーで飲みに行ったり(笑)。僕はお酒の味がおいしいとは思わなかったし、仕事の終わりに飲みに行くと、お酒の席で仕事の営業をする人もいたんですよね。僕はそういうのが嫌いだったし、実父がお酒で身体を壊して早逝したこともあって、酒飲み自体が嫌いということもありました。でも、実父が亡くなった29歳を超えて、少しずつ変化していったところもあった。実際に『聖闘士星矢』の出演者の皆さんと飲みに行くと純粋に楽しいんですよね。スタッフに営業する人なんていなかったし、ただ純粋にお酒を飲んで話をするのを楽しんでいた。そういう雰囲気があったからこそ、僕もお酒の席を好きになれたんだと思う。
――青銅聖闘士が集まると、お酒の席ではどんな話題になるのでしょうか?
古谷 声優同士だと演技論みたいなことを話す人もいたでしょうけど、『聖闘士星矢』のときはそんなことを話す人は誰もいなかったな。趣味の話とか女性の話とか(笑)、普通の日常会話ですよ。音響スタッフが一緒に飲むときもあったけど、そういうときは演技の相談をすることもありました。アフレコ現場では他の演者さんもいるから、そういう技術的な話をスタッフとする機会が意外とないんですよ。だから技術的な相談だったり質問だったり、あるいは「あそこの星矢の声が立ってなかったよ!」なんて文句を言ったりとか(笑)。親しい音響スタッフとの飲み会だと、ついそういう技術的な話になりがちですよね。