TOPICS 2022.10.26 │ 12:00

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第6回(中編)

第6回 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のアムロ・レイ

古谷徹が語る『逆襲のシャア』における「アムロ・レイの演じかた」。中編となる今回は印象的なシーンについて、ご自身のアフレコ台本に残されたメモを参考に解説していただいた。アムロのセリフについての新しい解釈も!?

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

僕自身もアムロも、とにかくチェーンが好き

――チェーンとの会話では「チェーンがチャーミングすぎるからさ」というデレデレなアムロのセリフがあります。チェーンとアムロの会話には恋人感があふれていますね。
古谷 チェーンがアムロの言葉尻に乗っかって「そうよ、ダメよ」というシーン、これカワイイよね~(笑)。でも、女性に対して「チャーミングすぎるからさ」なんて、アムロは大人になったよね。あんな気の利いた返しができるようになったわけで、15歳のときのしどろもどろだったアムロとはやっぱり違うんですよ。チェーンに対するセリフにはアフレコ台本にもハートマークを書いていたくらいだから、優しさや愛情のようなものは演技でも意識していたと思います。

――その後、レズン率いるMS部隊との戦闘で、νガンダムが初登場します。
古谷 スマートな登場シーンですよね。ビームだけが先行して飛んできて、そのあとにνガンダムが飛んでくるわけだけど、すでにレズンたちは撤退している。その引き際に感心しながらも、違和感を察知して「なんだ……?」というセリフで終わっている。ここはアフレコ台本には「クェスの存在」というメモがあるから、最後の「なんだ」はクェスを察知しているんだろうね。

――あのセリフはレズンたちのあっけない撤退に対する疑問かと思っていましたが、クェスの存在を感知していたことの「なんだ」だったんですね。
古谷 そうですね。ただ、アムロはクェスという少女を明確に察知はできていないから、そのあとで出会うシーンでもとくに気にかける様子はない。あの戦場にニュータイプ的な存在がいたという感覚しかなかったのかもしれないし、サイコ・フレームの機能なのかもしれない。映画だとわかりにくいけど、台本のメモによるとクェスに対して発せられたセリフだということがわかりますね。

――その直後、ララァの夢をまた見始めるということと、クェスを察知したことはつながっているとも受け取れますね。
古谷 たしかに「また同じ夢を見るようになっちまった」と言っているから、それまではララァの夢を見ることはなかったんだろうと思います。それが急に意識の表面に出てくるということは、クェスの影響があったのかもしれない。ララァに似たニュータイプの少女を察知したということが、アムロの中の記憶を呼び起こしたとも考えられるけれど、台本や映像からはそこまでは断言できないですね。僕自身、そういう考え方は今までしていなかったから、ちょっと新しい発見で面白いね。

――ララァに対するアムロの態度がかつてとは少し異なっていると思いますが、アムロの心情としては変化があったということなのでしょうか?
古谷 まず『機動戦士Ζガンダム』までのアムロには、ララァに対する負い目があったと思うんです。最大の理解者を自分の手にかけてしまったという自責の念から、当時も同じララァの夢を見ていたんだろうと思います。実際、ララァに会うのが怖くて宇宙に行けなかったわけだし。それが6年の時間が経過して、どうにか乗り越えることができたのでしょう。宇宙にも出ることができたし、チェーンというパートナーを得たことで吹っ切れたと思っていたのに、また同じ夢を見てしまう。その呪縛というか、ララァの記憶を捨てきれないことへの苛立ちとも思えます。クェスという少女も、アムロとシャアのあいだで揺れ動くし、ハサウェイの未来に影響を及ぼしてしまうという意味では、ララァと共通点の多いキャラクターですよね。endmark

古谷徹
ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。