TOPICS 2023.07.28 │ 12:00

心の機微を大切に描く
TVアニメ『スキップとローファー』出合小都美監督インタビュー②

TVアニメ『スキップとローファー』の出合小都美監督インタビューの後編。全12話を走り終えたばかりの出合監督に、作品を通しての思いや印象的だった話数を聞いた。

取材・文/青柳美帆子

志摩の変化から始まり、志摩の変化で終わる

――全12話を完走して、今はどんなことを感じていますか?
出合 個人的なことで言えば、反省点はけっこう出てきてしまうのですが、作品全体で見ると、スタッフの皆さんが一生懸命に丁寧に作業していただいたこともあって、自分が思っていたよりもまとまりのある、いいものになったのではないかと思っています。

――全体として実写の映像作品を見ているような感覚があったように思います。
出合 そうですね。『スキップとローファー』は、年齢や性別を問わず、いろいろな人が見て楽しんでいただける作品だと思っていました。ふだん、アニメを見慣れていない人にも見やすい感じにしたかったので、ルックは試行錯誤しましたね。

――出合監督はシリーズ構成も担当していますが、全体の展開や構成はどのように決まったのでしょうか?
出合 文化祭(原作4巻のエピソード)を最終話にしようというのは、すっと決まりました。原作は今も続いていますが、アニメだけを見る視聴者にとってしっくりくる終わりにすることを考えると、核になるのは「志摩の変化」だろうと。志摩が美津未に感化される第1話から始まって、途中にいろいろなキャラクターの掘り下げがあるけれど、最終的には志摩が自分の気持ちに気づいて動き出す……というところに収束していくのが、収まりがいいのかなと考えました。

――『スキップとローファー』は美津未の青春の日々ではあるけれど、同時に志摩が美津未との出会いによって一歩踏み出せるようになる物語なんだなあ……としみじみ感じていました。
出合 私自身、視聴者の気持ちで放送を見て気づいたことなのですが、第6話までと第7話以降でガラッとフォーカスする部分が変わっているんですよ。言うならば、第7話から”志摩攻略ターン”に入っている。ただ、今「攻略」という言葉を使いましたが、「恋愛に振りすぎるのは違うよね」とスタッフみんなの共通認識がありましたね。原作のこの時点で美津未と志摩が抱いている感情を大切に描きたいと思っていました。

シナリオ打ち合わせには高松先生もほぼ毎週出ていた

――全12話の中で、気に入っている話数はありますか?
出合 第6話と第9話です! どちらも試行錯誤していたところをうまく出すことができた話数です。第6話は他の話数と違って、雨のシーンが長い。全体的に薄暗い色合いの話数だったので、どういう質感を出せるか試行錯誤しました。美術ボードや撮影などの各セクションで頑張っていただいて、最終的に写実的な雰囲気のある、かっこいい画面にしてもらえました。階段で美津未と志摩が仲直りするシーンも、光の処理でけっこう悩んでいて……。『スキップとローファー』は少女マンガらしさがあると評されることも多い作品ですが、だからと言って少女マンガ的な演出に思いきり振ってしまうのも違う。そのバランスをいい落としどころでできたという感触がありました。

――もうひとつ、気に入っている話数として挙げてもらった第9話は、美津未が地元に帰省するエピソードです。
出合 第9話はコンテ・演出の本間修さんが押さえるべきところを押さえてくれて、私は上がりを待つだけの素敵な話数でした(笑)。冒頭、美津未が地元にたどり着くまでが、コンテの段階からけっこう尺が長めに取られていたんです。想定していたよりもカットが多かったけど、美津未が初めての帰省に対して抱いているワクワクドキドキ感が、カットを積むことで視聴者と共有できて実感が増すような感じになっていて。「すごくいいですね、これでいきましょう」となりました。

――第9話で印象的だったのが、実家の庭でリラックスしている美津未が、おばあちゃんに「蚊にくわれるよ」と言われた直後に蚊をパチンとしているシーン。原作を読むと「パチン」まではないんですよね。こうした、原作の描写をすごく自然にふくらませているシーンが随所にあるアニメ作品だったなと感じています。
出合 そういったシーンのふくらませは、コンテ打ち合わせのときに加わるものもありますが、シナリオ打ち合わせの段階から話題に出ていることが多かったですね。シナリオ打ち合わせには高松先生にもほぼ毎週出ていただいて「このシーンはマンガではこう描かれているけれど、アニメではこういう風に見せられるといいですよね」という話をみんなでしていました。原作をふくらませた演出を入れられたのは、高松先生が参加してくださったことが大きいかなと思います。

音楽のグルーヴ感を生かした、印象に残るオープニングに

――原作そのままの印象だけど、じつはふくらんでいるんだと原作を読み返して気づくのはリッチな体験でした! 毎週の癒やしだったオープニング映像についてはいかがでしたか?
出合 本編では日常のエピソードが多い作品なので、日常を拾うものにすることも考えたのですが……。せっかく音楽もついていることですし、音楽のグルーヴ感を生かした映像にしたほうが印象に残るなと。原作の表紙に美津未や志摩が飛んだり跳ねたりしているものがあってかわいらしいイメージがありましたし、原作第5話の扉絵が「ラ・ラ・ランド」のオマージュだったりするんです。そういった躍動感のある映像にしたいと思い、ダンスを採用しました。振り付けは菅尾なぎささんにお願いしたのですが、とってもかわいいダンスにしていただきました! 原画さんは大変だったと思いますが、素敵なダンスシーンになりました。

――オープニング曲の「メロウ」は、美津未たちを見る視聴者の気持ちでもあり、志摩の気持ちでもあるという印象です。
出合 ありがたいことにタイアップとして制作していただいたので、事前にリクエストをお伝えすることができました。須田(景凪)さんのこれまでの作品を聞いたときに「もしかしたら志摩の心情を表現しやすかったりするかな」とちょっと思ったので「方向性としては作品全体を表現しつつ、心情の部分を拾っていただいても大丈夫です」とお伝えしたんです。そうしたら、がっつり志摩の気持ちで作っていただいた感じですね。須田さんの他のインタビューを拝見すると、原作を読んで志摩に共感するところが多かったようです。曲調がポップなので、オープニング全体としてバランスのよいものにできたかなと思います。

集団制作は一筋縄ではいかない、だからこそ面白い

――スタッフとのやりとりでは、どんなことが思い出に残っているでしょうか?
出合 メインスタッフの中で、私から希望を出させてもらったのが、色彩設計の小針(裕子)さんと 撮影監督の出水田(和人)さん。以前『ローリング☆ガールズ』でご一緒して、すごく信頼が置ける方々だなと思ったおふたりです。ふたりともディスカッションを惜しまないというか、言いたいことを忌憚(きたん)なく言ってくれる。アニメに限らずだと思うのですが、集団での作品制作って、ひとりひとりのアイデアや力には限界があって、いろいろな人の意見やアイデアが相乗効果でいい方向に転がるものだと思っているんです。美津未とミカじゃないけれど、意見を素直に言ってくれる人がいることはありがたく、本作でもすごく助けられました。

――ディスカッションを惜しまない……。
出合 「こうしたい」というビジョンはあるけれど、いろいろなセクションでそれぞれの作業があって、そこに各担当者の視点が入ってくると、求めるもののとおりにはなりづらいことがけっこうあるんです。背景の色合いひとつとっても、一度決まったにもかかわらず、キャラクターをあわせると再調整が必要かも、という話になることもある。本作でもそういったことはたびたびあったのですが、そこであきらめるのではなく、お互いのセクションで調整できるところを探り合わせていけたと思います。こういうことが人とモノを作ることの一筋縄でいかないところであり、醍醐味でもありますね。

――なるほど。そうしたディスカッションによって、作品のクオリティが上がっていくんですね。では、最後に『スキップとローファー』に癒やされていた視聴者へメッセージをお願いします。
出合 アニメ化は「原作をもっといろいろな人に知ってもらいたい」という気持ちが芯にあります。アニメで本作を知って、面白いと思ってくださる人がいるなら、すごく大きな意味があるなと個人的に思っています。動きや声がつくことで、美津未や志摩の新たな面も見えたかなと思いますので、原作もアニメも楽しんでもらえるとうれしいです!endmark

出合小都美
であいことみ アニメ監督、演出家。2004年にマングローブに入社、2014年の『銀の匙 Silver Spoon』(第2期)で初監督を務める。他監督作に『ローリング☆ガールズ』『夏目友人帳』など。OP・EDの演出にもファンが多い。
作品概要

『スキップとローファー』
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  • ©高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会