TOPICS 2021.09.28 │ 12:00

最終回直前! Sonny Boyを解き明かす、夏目真悟監督各話コメンタリー②

不可思議な世界を漂流してしまうことになった中学生たちを描くSF青春群像劇『Sonny Boy』。最終回の放送が目前に迫るなか、後編となる今回は、第7話~第11話の解説をお届けする。視聴者も驚きの展開を見せた第7話以降で描きたかったキャラクターの心情や成長とは?

取材・文/森 樹

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

第7話 ロード・ブック

夏目 第6話までが第1部で、第7話からは第2部です。中学校を卒業して漂流者になった長良の就職編ですね(笑)。あの延々とブロックを運び続けるバベルの塔の環境は、社会における労働行為のテンプレートな表現として描いています。この回では、労働者として他の漂流者もたくさん出てきますが、彼らは身体の成長や老化は止まった状態です。ただ、意識がある限り、精神は状況に合わせて変容していくじゃないですか。単純に老いてもいくだろうし、知識を得て成長をするかもしれないし、絶望や諦念から退化するかもしれない。そういう年齢を重ねていくことでの精神の変化を、この世界に来たばかりの長良と、長年働き続けている二つ星の対比から描こうとしました。

第三者から見れば、二つ星の生き方は不幸に見えるかもしれませんが、本人からすれば別に不幸ではなかったかもしれない。むしろ彼にとっては、それが普通で、幸せだったという見方もあるのかなと思います。

第8話 笑い犬

夏目 第7話のラストで、ラジダニもひとりでどこかに行き、明星(ほし)たちもバラバラの道を歩み始めます。長良と瑞穂だけがポツンと島に残ってしまうのですが、もちろん、長良はもとの世界に帰ることをあきらめていなくて、「テレポート」の力を使っていろいろな世界を巡っています。その旅の合間に、長良と瑞穂を見守るやまびこが話を聞かせてくれている、というシチュエーションです。やまびことこだまの関係は、ガンジーが言うところの「献身なき信仰」がテーマになっています。やまびこはこだまに思いを寄せながら距離を取っていた当時の態度を後悔していて、いまだ犬の姿のままでいるんです。その経緯を長良に伝えることで、彼がどう感じていくのかがポイントになっています。

ちなみに、やまびこの回想に登場する疫病ですが、あの立体的な表現のもとになっているのは、タスマニアデビルの顔にできるというガンです。そのガンがなぜできるかというと、コミュニケーションの一環としてお互いの顔を噛み合うことが原因になっているそうです。それってすごく悲しいことじゃないですか。愛情を深めようと思ってやっていることが、互いを傷つける結果になる。それはやまびことこだまの関係性にも当てはまるわけです。

第9話 この鮭茶漬け、鮭忘れてるニャ

夏目 第8話まではキャラクターのモノローグを一切入れないまま進めていて、中学生たちが心の中でどう思っているのかは、それぞれの行動だったり、他者に対する態度だったりで示していました。ただ、キャラクターがひとりになった瞬間、どういうことを感じていて、どういうことを思っていたのかを、瑞穂が飼っている3匹のネコ(とら、げん、さくら)の視点から切り取ったら面白いんじゃないかと考えました。でも、キャラクター個人の独白にはしたくなかったので、漂流後も「ニャマゾン」を通じて、瑞穂やいろいろな生徒たちの近くでウロウロしていたネコの主観を入れています。意思を持つネコの視点を入れることで、キャラクターたちの心情を客観的に語ることができたらと思いました。

一方でソウとセイジのふたりが登場して、あき先生を交えてずっと不毛な戦いを続けています。ただ、それはストーリーでいえば中心ではなく「側(がわ)」の部分ですね。この回で見せたかったのは、ネコのさくらが瑞穂の成長を感じ取る、その一点に尽きます。

第10話 夏と修羅

夏目 第9話とこの回は連続して見せたいと思ったので、どちらも内側からキャラクターを描いていく手法を使っています。第9話ではさくらなどネコの視点を使って、今回はクラスメイトである骨折(つばさ)の視点を使って、それぞれ違う角度で見せていきたいと思いました。そのなかで、朝風(あさかぜ)のキャラクターを深堀りしていくのもひとつの狙いでした。朝風は、とても人間的なキャラクターなんです。裏表があるとかではなく、「こうしよう」と考えていたことと、実際の行動がまったく別になってしまうときがあるじゃないですか。(人の心が読める)骨折の視点から見た朝風を通して、そういう人間の危うさや、コントロールできない部分をテーマとして入れています。思っている、考えていることだけがすべてではないんですよね。そのなかでどう自分を保っていくのかを考えていく回になればと思いました。

カネヨリマサルに制作していただいた挿入歌は、珍しく歌ものです。骨折のテーマと呼んで差し支えないくらい、歌詞が彼女の心情を表していたので、後半のセリフはけっこうカットしました。

第11話 少年と海

夏目 事実上の最終回というべき内容ですね。長良と瑞穂はもとの世界に戻ることを決意していて、ラジダニの力を借りながら実際の行動に移します。時間の経過としては、最初に漂流してからここまででちょうど2年が経っています。この2年の間に、長良の年代であればいろいろな出会いや別れもあるだろうし、そのなかで自分の考えや価値観をいかに形成してきたのか――それをロケットの打ち上げという「挑戦」に重ね合わせて表現しました。彼らがここで起こした行動の結果が、最終話の物語につながっていきます。その結末を見届けてもらえればと思いますね。

物語全体を通してみてもらえると、けっこう複雑なように見えてシンプルです。長良が少年から大人になる、その成長を今の時代感で見せたかった。世界観としては「なぜこうなの?」という不条理なことも多いですが、それは現実社会でもそうですし、そこに物理的なモチーフ、多次元論、量子論も交えてアニメの世界観にうまく落とし込めたかなと思っています。ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、「わからない」が正解の物語ではあると思います。

作品情報

『Sonny Boy』
好評放送・配信中

  • ©Sonny Boy committee