「Summer Ghost」を描いたことで救われた
――この映画はloundrawさんが「Summer Ghost」と題した一枚の絵を投稿したことから始まったそうですね。その絵にはどんな想いを込めたのでしょうか?
loundraw このイラストを投稿したのは2018年なんです。九州から上京してきて、ありがたいことにイラストのお仕事をたくさんいただいて忙しい日々を送っていました。仕事をいただけることはすごく光栄なことですが、でもどこか閉塞感も感じ始めていたんです。
Summer Ghost pic.twitter.com/OokfLMPhTd
— loundraw / FLAT STUDIO (@loundraw) September 29, 2018
――どうしてですか?
loundraw 僕に求められるイラストというのは、僕が過去に描いてきた絵を参照してご依頼いただくため、どうしても過去に描いたイラストの延長線にある作品になってしまいます。これからもずっと同じ絵柄を描き続けることになるのかなと思ったら、これが本当にやりたかったことなのかとふと疑問に思ってしまって。そのような当時の心境も相まって普段の仕事では描かない絵が描きたくなり、生まれたのが「Summer Ghost」です。いつもは光量の多い明るい絵を描くことが多いのですが、これはちょっと暗くてくすんだ色合いで、当時の僕が描いてみたかったテイストなんです。プライベートな作品として投稿したのですが、皆さんからたくさんの高評価をもらうことができて、なんだか救われた気持ちになりました。
――それが映画へ発展していくのはすごいことですよね。安達寛高(乙一)さんが脚本として参加したのはいつ頃ですか?
安達 集英社の担当編集者さんから誘われました。loundrawさんがアニメ映画を作るので、脚本をやりませんかという話をいただいて、喜んでお引き受けしました。loundrawさんから「花火をしている間だけ会える幽霊の話」というアイデアをもらったので、それを元にしたプロットを3つ作ったのですが、その中からloundrawさんに選んでもらったのが現在のストーリーの原案です。結果として「Summer Ghost」のイラストの雰囲気にいちばん近いプロットが採用されたかなと思います。
モチーフは子供の頃を思い出す「花火」「幽霊」「夏」
――「花火」「幽霊」「夏」といったモチーフはどのように生まれたのですか?
loundraw 花火や幽霊って、どこか夏の終わりの匂いを感じますよね。しかもそれは子供の頃の記憶に紐づいているじゃないですか。そういう懐かしい感覚だったり、純粋な感性というものを大切にしたかったんです。
――なるほど。他の2案はどんなプロットだったのでしょう。
安達 ひとつは11月に刊行する『一ノ瀬ユウナが浮いている』です。もともとは映画本編のノベライズとまとめて一冊にする予定でしたが、思いのほかボリュームが増えて、結果的にそれぞれ単体で刊行することになりました。3つ目のプロットはボツになりましたが、クリストファー・ノーラン監督の映画『インセプション』に近しい世界観のストーリーでしたね。
――プロットやシナリオ作業でとくに気を配った点について教えてください。
loundraw 主人公の3人が、それぞれどういう理由で人生につまづいているのか。なぜ幽霊に会いに行こうと思ったのか。その部分でお客さんの共感を得られるようにすごく気をつけました。尺も40分と短いので、どう伝えていくかは最後まで腐心したところです。
安達 僕はとにかく飛行シーンを入れたいと、それだけが希望でした(笑)。劇中でタイムリミットを入れてほしいという要望を受けて、どのように実現すべきか悩みました。緊迫感を出すためには必要なのですが、納得できる理由が必要だし、そちらがメインになってしまう懸念もあって、最後まで話し合いが行われました。
――ふたりはともにイラストレーター、小説家という肩書きを超えて活動しているイメージがあります。初対面の印象はいかがでしたか?
安達 絵を生業にされている方というのは、もっと感覚的に物事を考えるイメージがあったんですけど、loundrawさんはものすごく論理的な方で、まずそこに驚きました。主人公の友也(ともや)は、その理知的な印象を反映させています。
loundraw 僕は中学生時代に安達さんの作品と出会ったのですが、ご本人がどのような方なのかなかなか想像できず、じつは会う前はかなり緊張していたんです。でも、お会いしたらとてもお優しい方で、一気に緊張が解けたのをおぼえています。それに、とにかく仕事ぶりがプロフェッショナルで、僕の意見をすぐさまプロットに取り込んで「こうすれば言いたいことが表現できますよ」と、何を言っても瞬時に修正して提示してくれるんです。小説や脚本の最前線でご活躍されている方はやはりすごいんだなと思い知らされました。
――ちなみに本作は高校生3人が幽霊に出会うお話ですが、ふたりは幽霊の存在って信じていますか?
loundraw 個人的には信じていないです。
安達 僕は日によります(笑)。
loundraw そんなことってあります?
安達 信じていない日もあれば、「いてもいいかな」って思う日もあるんですよ。
loundraw 素敵な考え方ですね。僕も見習いたいです。
――それでは第2回では、主人公たちのキャラクター性について詳しくうかがっていきます。
- loundraw
- 1994年生まれ。小説『君の膵臓をたべたい』『君は月夜に光り輝く』の挿画などを手がけ、『Vivy -Fluorite Eye's Song-』などアニメのキャラクター原案やデザインでも活躍するイラストレーター。2019年にアニメーションスタジオFLAT STUDIOを設立。さまざまな分野で活躍中。
- 安達寛高(乙一)
- あだちひろたか(おついち) 1978年生まれ。福岡県出身。1996年、16歳で執筆した『夏と花火と私の死体』で作家デビュー。ミステリーからホラー、恋愛にいたるまで幅広いジャンルで作品を発表し続けている。『シライサン』では実写映画の監督を務めるなど、執筆以外の活動も広い。