TOPICS 2021.09.03 │ 18:14

映画『サマーゴースト』特別展『花火と幽霊』開催記念
redjuice × loundraw トークセッション

気鋭のイラストレーター、loundrawの初監督作品として注目を集めている映画『サマーゴースト』の特別展『花火と幽霊』が9月13日まで東京・渋谷(GALLERY X)で開催中だ。今回、loundrawと、その歩みに大きな影響を与えたイラストレーター・redjuiceのコラボレーション展である本展の開催を記念して、ふたりのクリエイションの秘密に迫る対談をお届けする。

取材/宮昌太朗 構成/本澤徹

イラストレーターとしての原点になった人との展覧会

――今回の『花火と幽霊』は、どういう展示構成なのでしょうか?
loundraw redjuiceさんとの対バン展なのですが、主軸として『サマーゴースト』があり、映画の設定資料やストーリーの説明なども展示されています。『サマーゴースト』のコンテをredjuiceさんにお見せして前日譚的なイラストを描いていただき、そこに出てくるredjuiceさんデザインのキャラクターを僕が描くというクロス企画もやらせていただいています。

loundrawのTwitter(@loundraw)より引用

――redjuiceさんを展覧会のパートナーに選んだ理由を教えてください。
loundraw 僕がネットにイラストを投稿する大きなきっかけになった方だからです。僕が絵を描き始めた頃に始まった「プロではない人が、好きなものを作って世に出して、評価されて最終的に仕事になる」という流れを象徴する存在として、ずっと憧れていました。今回、映画を作るにあたって「イラストレーターとしてアニメーションを作る」ことを大事にしたかったので、イラストレーターとしての原点に立ち返ろうと考えたときに、ぜひご一緒したいと思い連絡させていただきました。

――これまで面識はなかったのですね。
redjuice ないですね。お互い、ネットを通じて作品を知っていただけです。

――声をかけられて、どう思いましたか?
redjuice 突然のご指名だったので、びっくりしました。「え、なんでオレ?」みたいな(笑)。話を聞いてみたら、イラストを描き始めた初期衝動としてredjuiceっていう存在が大きかったと聞いて「なるほど」とは思ったのですが、そういう人を指名するって、なかなかないですよね。

自身のセンスをぶつけた『ギルティクラウン』のキャラクターデザイン

――loundrawさんにとって、redjuiceさんの仕事でとくに印象深いものはありますか?
loundraw 『ギルティクラウン』です。それまで見たことがない絵柄で、商業アニメであの情報量の多い絵柄を再現しながら世界観を作っているのがすごいな、と。

――『ギルティクラウン』は、当時どのようなことを意識して手がけたのですか?
redjuice アニメの仕事が初めてでアニメ自体にも疎かったので、何もわからない状態だったんです。でも、自分がキャラクターデザインに選ばれたのには何か理由があるのだろうなと思って、それなら過去のアニメに囚われず、自分のセンスみたいなものをストレートにぶつければいいのかなと考えていました。いま考えても、それは正しかったと思います。

――アニメとイラストで、現場の違いはありましたか?
redjuice イラストレーターは基本的にソロの仕事ですけど、アニメはチームワークじゃないですか。いろいろな意見を汲み取りながらチームでキャラクターを作っていくのは、大変でしたけど新鮮でした。どういうデザインだとアニメーターさんが描きやすいかとか、そういうアニメ的な約束事も知らなかったんですけど、とくに制約を受けることはなくて、ある意味でワガママな僕のデザインを監督さんたちが汲んでくださいました。

――loundrawさんは、アニメとイラストで違いを意識することはありますか?
loundraw 僕はもともと背景も込みで人物を描くタイプなので、キャラクターだけをデザインするのには苦手意識が少しあり、最初に参加した『月がきれい』ではすごく苦戦をしました。『Vivy -Fluorite Eye’s Song-(以下、Vivy)』のキャラクターデザインでは、背景込みで人物を描き、そこからアニメ用のビジュアルを起こしていただいたりもしていて、新鮮な経験でしたね。
redjuice いいですね。それができるって強い、最強ですよ。僕もやりたいなと思いつつ、なかなかできないんですよね(笑)。
loundraw 本当ですか? 僕は白バックで(イラストを)描けるようになりたいですね。
redjuice いやいや、もう白バックなんて逃げなんで。
loundraw そんなことないですよ!

loundrawが手がけた『Vivy』のキャラクター原案「ヴィヴィ」 ©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

――redjuiceさんは、そのような形でデザインをしたことはないのですか?
redjuice 『BEATLESS ビートレス』という作品は、小説連載の挿絵とアニメ化の作業が同時だったので、それに近いやり方ができました。挿絵がキャラクターのイメージイラストになっていた感じです。

「必殺技」を使わないイラストを描くときの楽しさ

――キャラクターデザイン以外のアニメの仕事で、楽しかったり、イラストとの違いを感じたことはありましたか?
loundraw 僕はイメージボードでは、「必殺技」じゃない背景を描けるのがすごくうれしいですね。
redjuice 必殺技というのは?
loundraw 逆光とかレンズフレアのような、記号的でわかりやすい表現のことです。アニメだと物語を伝えていくなかで、当然、光源がない暗いシーンとかも出てきますよね。そういうシーンのイメージボードを描くのは、一枚の決め絵を描く場合とは違う光源や色設定を使えるので、だいたい楽しいです。

――『サマーゴースト』での監督の仕事ではどうでしょう?
loundraw イラストの仕事は1を100にする作業が多いのですが、自分が監督をすると、0から1の部分にフォーカスを当てることになります。そこが楽しい反面、大変ですね。大きな伝えたいメッセージがまずあって、カットやシーンはイラストというよりは、状況を表す手段の側面が強くなっていくので、ふだんとは全然違う向き合い方になりますね。
redjuice 今回、原画はやっていないのですか?
loundraw 演出で入っているので、ひたすら動きを修正しています。イラストから始めた人間なのに、最終的な絵は描かないという立場にいるので、新鮮ではありますが、やはり歯がゆいと感じることはありますね。

――loundrawさんがキャラクターデザインでとくに意識しているのは、どんなところでしょう?
loundraw 色ですね。僕のイラストは造形よりも色が持ち味だと思っていて、キャラクターでも、肌や髪の色でまず印象を決めて、そのうえでシルエットがスリムか丸いか、みたいな順序で作っています。あとは、メインのキャラクターからの距離で全体を見ていくところはあるかもしれません。

――それは、具体的には?
loundraw たとえば『Vivy』だと、ヴィヴィというキャラクターが物語の中核だったので、僕がいちばん得意とするフォルムで、いちばんかっこよく描けるキャラクターにしました。そこから他のキャラクターを、ヴィヴィに比べて幼いか大人びているか? シルエットは? 色は?という流れで作っていきました。

『Vivy』のキャラクター原案「エステラ」 ©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO

――redjuiceさんはどうですか?
redjuice 僕は普段から、小説を読むときに自然とキャラクターデザインを思い浮かべているんですけど、仕事でも、物語を読んでいくなかで浮かんでくるキャラクター像を大事にしています。頭に浮かんだ第一印象から、あまり崩さないように肉づけしていく感じですね。あとは、世界観に合わせることがすごく重要だと思うので、アプローチは作品の世界観を踏まえて変えています。たとえば、伊藤計劃さんの3部作では、『ハーモニー』は未来的で夢の中にいるような感じにしたし、『虐殺器官』は完全にミリタリーのハードボイルドなので男くささでゴテゴテに固める、『屍者の帝国』はわりとエンターテインメント作品なのでもう楽しさを込める、という感じですね。

redjuiceが手がけた映画『虐殺器官』(左上)、映画『屍者の帝国』(右上)、映画『ハーモニー』(下)のメインビジュアル。3作品のBlu-ray&DVDは絶賛発売中。発売/アニプレックス/フジテレビジョン 販売/アニプレックス ©Project Itoh/GENOCIDAL ORGAN ©Project Itoh & Toh Enjoe / THE EMPIRE OF CORPSES ©Project Itoh/ HARMONY

新技術を取り入れた新しい表現を突き詰めていきたい

――せっかくの機会なので、お互いに聞いてみたいことはありますか?
loundraw 描けなくなったときはどうしていますか?
redjuice よく「スランプ」って言いますけど、僕はこの言葉が好きじゃないんです。描けなくなるときって、自分の調子が悪いとか以上に、壁にぶち当たって無力感を感じているときだと思うんです。そういうとき、理想は「勉強して、吸収して、がんばる」なんでしょうけど、僕はメンタルが弱弱(よわよわ)なので、寝ちゃいますね(笑)。
loundraw 眠るって大事ですからね。
redjuice そう。寝て起きたらまた新しい気持ちで明日を迎えられるだろうって。まあ、そんな簡単じゃないですけどね。
loundraw 意外と寝ると進んだりしますよね。
redjuice そうなってくれることを願いつつ、といった感じですけどね。

――redjuiceさんからloundrawさんには何かありますか?
redjuice たとえば、今回のような展示で、ただプリントするのではなく、いろいろな印刷のスタイルを使ってみるとか、今後そういう部分にどれぐらい力を入れていこうと思っていますか?
loundraw すごく挑戦してみたいです。たとえば、RGBの3色にもう1色入れられるといった新しい技術が出てきたら、表現の手段として使ってみたいですね。
redjuice ああ、僕もRGBとか色の捉え方のことは、最近よく考えます。たとえば、黄色と赤って光の波長がとても近いのですが、その微妙な差を見分ける精密なシステムが人間には備わっていて、それを表現に生かせないかとか思うんです。最近、HDR(※ハイダイナミックレンジ。明暗の差を幅広く表現することで自然な描写を実現する映像技術)っていう規格が普及しつつあるじゃないですか。ああいう、表現の幅を広げる技術を取り入れていくことも、今後、展示会とかをやっていくうえで必要なんじゃないかなと考えているので、今度また何かやることがあったら、一緒に突き詰めていきたいです。
loundraw ぜひ。やっぱり、新しい表現はどんどんやっていきたいですよね。endmark

loundraw
ラウンドロー 1994年生まれ。小説『君の膵臓をたべたい』『君は月夜に光り輝く』の挿画などを手がけ、『Vivy -Fluorite Eye's Song-』などアニメのキャラクター原案やデザインでも活躍するイラストレーター。2019年にアニメーションスタジオFLAT STUDIOを設立。2021年11月に初監督映画作品『サマーゴースト』が公開予定。
redjuice
レッドジュース 1976年生まれ。イラストレーターとして多角的に活躍し、『Project Itoh』3作品や『ギルティクラウン』、ゲーム『花咲くまにまに』など、多くの作品でキャラクター原案やデザインを手がけてきた。クリエイター集団であるsupercellのメンバーでもある。
展覧会情報

映画『サマーゴースト』特別展『花火と幽霊』
2021年9月1日~9月13日(月)まで、東京・渋谷パルコB1F(GALLERY X)にて開催中。展覧会の情報は特設サイトをご覧ください。

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