TOPICS 2021.11.24 │ 12:00

映画「サマーゴースト」
監督・loundraw×脚本・安達寛高(乙一)対談②

「生きる」ことに悩む3人の高校生と、若い女性の幽霊とのひと夏の出逢いを描いたアニメ映画『サマーゴースト』。気鋭のイラストレーター・loundrawが監督を、小説家の安達寛高(乙一)が脚本を担当していることでも話題の本作について、作品に込めた想いをふたりに語ってもらった。第2回は、キャラクターたちのバックボーンと役割について。

取材・文/岡本大介

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

物語のキーワードは「ドロップアウト」

――今回は高校生3人のキャラクターに迫っていきたいと思います。3人はそれぞれが違う理由から「生きる」ことの意味を見失っていますよね。
loundraw 映画では尺の兼ね合いでそれぞれの過去を詳細に記述する余裕がないため、すでに挫折してあきらめてしまっている状態から始まるのが特徴的かなと思います。
安達 そのちょっと絶望した雰囲気というのは、起点となった「Summer Ghost」のイラストのキャラクターたちからもなんとなく感じていたことなんです。大人たち世代への反抗というニュアンスは脚本作業でも意識していました。
loundraw そのうえ、彼ら自身もそれぞれ違う立場であるというのもポイントです。端的にいうと、友也は内面に、あおいは他者に、涼はより根本的な自身の状況にと、それぞれ別のところで問題を抱えているんです。だから仲良くなることはあっても、本当の意味で理解し合えるわけではないんです。

――友也は成績も優秀で友達もいて、一見すると恵まれた存在です。それでも母親との折り合いが悪いというだけで絶望感を感じています。このあたりはとてもリアルだなと感じます。
loundraw あとで振り返ってみればすごく些細なことですが、そのときの当人にとっては非常に重要なことは、とくに思春期にはたくさんありますよね。僕自身も受験に対するモチベーションが見つからず大変な思いをした記憶があって、そういう空気感が描けたらいいなと思いました。
安達 loundrawさんと話していくなかで感じたキーワードは「ドロップアウト」です。じつは僕もloundrawさんも学生時代は優等生タイプだったんですよ。先生からもつねに模範的な態度を求められて、どこか窮屈な思いをしていたんです。
loundraw そうなんです。心のどこかで「ドロップアウトしたい」って思っていましたね(笑)。
安達 友也の場合は、その気持ちがさらに高じることで「死への渇望」が強まっているんです。友也には僕とloundrawさんの学生時代の感覚が反映されているんですよ。

――それに対してあおいは明らかなイジメの被害にあっています。
安達 あおいに関しては、loundrawさんの言葉でハッとさせられたことがあるんです。「あおいはイジメそのものがつらいから死にたいと思っているわけではなくて、その状況を放置している大人たちに絶望して死にたいと思っているんです」というお話をされていて。それがすごく腑に落ちた感覚がありました。

死者から贈られた「頑張れよ」という言葉

――涼は余命宣告を受けている状況で、ふたりとはまた事情が異なります。
loundraw 涼は3人の立場の違いというものをいちばん明確に表現していて、このお話においてすごく重要な存在です。涼がいるからこそ、逆に友也やあおいが抱える問題も浮き彫りになってきますし、物語全体の厚みがぐんと増したと思います。
安達 この3人の中での温度差や対立も描きたいと思っていたので、そういう意味で涼はなくてはならない存在でした。

――本作は「生きる」ことに少しでも悩みを抱えている人すべてに響くメッセージが含まれています。なかでも、死者である絢音(あやね)や涼が、生者である友也やあおいに「頑張って生きろ」とストレートに励ましているのが印象的です。
安達 そうですね。弱っていたり悩んでいる人に対して「頑張れ」と声をかけるのって、逆に追い込んでしまうことにもなるので悩みどころではありました。でも、力強く「頑張れよ」って励まされることって、やっぱり単純にエネルギーがありますし、救いになると思ったんです。それも生者ではなく死者であるふたりから贈られる言葉ですから、しっかりと受け止めることができるのではないかとも思い、あえてストレートな言葉を選びました。
loundraw 事情を知らない他人からの言葉ではなく、信頼関係のある人からの言葉だから成立するのかもしれません。それに現実として、友也たちの抱える問題がその言葉で一気に解決するわけではないですから。最後、友也とあおいは少しだけ前を向けるようにはなりましたが、依然として状況は変わっていないというのもリアルだと思います。

――友也はクライマックスで死を望む自分と向き合い、自分の意思で「生」を選び取りますよね。
安達 クライマックスの友也の心象風景のシーンは、僕はほぼタッチしていなくて、loundrawさんが作っているんですよ。
loundraw 友也の心象風景をクライマックスにしたのにはふたつ理由があって、ひとつは最後にもう一度絢音をちゃんと出したかったということ。もうひとつは、友也が自室のクローゼットを開けてキャンバスを見つけるところで終わらせたかったんです。ただ、映画のクライマックスで心象風景が登場するのはかなりリスキーですよね。もう何でもありになってしまうので(笑)。なので、そこは何度もビデオコンテを修正しつつ、自然とつながる展開や演出を模索しながら作り上げていきました。

――幻想的な美術も相まって、とても素敵なシーンだと感じました。
loundraw そう感じていただけたならうれしいです。

――続く第3回では、映像面や演出面についてうかがっていきます。endmark

loundraw
1994年生まれ。小説『君の膵臓をたべたい』『君は月夜に光り輝く』の挿画などを手がけ、『Vivy -Fluorite Eye's Song-』などアニメのキャラクター原案やデザインでも活躍するイラストレーター。2019年にアニメーションスタジオFLAT STUDIOを設立。さまざまな分野で活躍中。
安達寛高(乙一)
あだちひろたか(おついち) 1978年生まれ。福岡県出身。1996年、16歳で執筆した『夏と花火と私の死体』で作家デビュー。ミステリーからホラー、恋愛にいたるまで幅広いジャンルで作品を発表し続けている。『シライサン』では実写映画の監督を務めるなど、執筆以外の活動も広い。
作品情報

映画『サマーゴースト』
絶賛公開中

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