TOPICS 2021.11.25 │ 12:00

映画「サマーゴースト」
監督・loundraw×脚本・安達寛高(乙一)対談③

「生きる」ことに悩む3人の高校生と、若い女性の幽霊とのひと夏の出逢いを描いたアニメ映画『サマーゴースト』。気鋭のイラストレーター・loundrawが監督を、小説家の安達寛高(乙一)が脚本を担当していることでも話題の本作について、作品に込めた想いをふたりに語ってもらった。最終回は、映像・演出面でのこだわりについて。

取材・文/岡本大介

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

イラストレーターであることの強みを生かした演出

――映像は全編にわたってloundrawさんらしい色彩感覚が存分に発揮されています。ビジュアル面でこだわったところはありますか?
loundraw 色使いや構図、舞台選びは強く意識しました。激しいアクションや動きに富んだ物語ではないので、なるべく場所や構図でインパクトを与えたかったですし、もっといえばキャラクターの心情も美術などで表現したかったんです。「僕はこういう理由でつらいんだ」ということを明確にキャラクターに言わせるべきではないと思っているので、モノローグをいっさい入れていないんです。だからこそ、セリフ以外の絵や音楽で心情を伝えることはつねに意識していました。
安達 これは演出の効果も大きいと思いますが、絢音の家で絢音と友也が階段を登っていくシーンで、室内なのに雨のような縦線が入っているんですよね。あそこは現実と過去と回想とがすべて混じり合ったような雰囲気で、衝撃を受けました。
loundraw ありがとうございます。そこは僕がイラストレーターであることが大きく影響していると思います。監督をやらせていただけることになった際、あらためて僕がやる価値はどこにあるのだろうと考えたとき、それはおそらく構図や色といったイラストレーターとしての価値観の部分だと思ったんです。なので、普通のアニメではあまりやらないような演出も積極的に取り入れるようにしました。

――個人的に好きなシーンやセリフはありますか?
安達 3人が電話をしているシーンで、ベンチに座ったあおいが地域猫と交流しているじゃないですか。あそこは脚本ではいっさい書いていなかったので、すごく好きですね。
loundraw あおいはSNSのアイコンも猫なんですよね。
安達 そうそう。脚本では伝わらないあおいのキャラクターがしっかりと感じられていいですね。あおいが猫好きだということを事前に知っていたらノベライズでも描いたのにと思うと、ちょっと悔しいです(笑)。
loundraw 個人的にとくに大切だと思っているセリフがふたつあります。ひとつは絢音が友也に言う「命の終わりは友也くんの未来で、私の過去」。これは作品の世界観をひと言で表現した言葉であるとともに、友也が絢音の死体を探すことの重要性も表していて、どうしても入れておきたかったセリフなんです。そしてもうひとつが友也の「どうせいつか終わるって思ったら、なんか怖くない気がしてきたから」というセリフです。これは友也が今回の物語を通じて得た答えそのものになります。それを嫌味っぽくなく、説教っぽくならないようにどう表現すべきかをずっと考えていたので、最終的にこのセリフに落ち着いたのはとても自然でよかったなと感じています。

本当にやりたいことを表現できた

――loundrawさんは、今回初めて監督を務めて率直にどう感じましたか?
loundraw うまくいったところもありますし、まだまだこれからだなと思うところもありますが、あらためて感じたのは、チームや仲間というのは本当に大切だということですね。イラストの仕事は自分ひとりで完結するだけに、新たな価値観をもらった気がします。

――また、今回の映画は「自分がやりたいこととやっていることの乖離」という、クリエイターならではの葛藤から生まれたとのことでしたが、制作し終えた今はどんな心境ですか?
loundraw 「本当に自分がやりたいことを表現できた」という実感はあります。そのうえで、やりたかったけどできなかったことも当然ありますし、ご覧になった方々のリアクションも含めて、僕がこの先やりたいことの方向性というのは変化していくように思います。いずれにしろ、loundrawという存在をもう一度しっかり取り戻せたような感覚はあります。

――一方で、安達さんもクリエイターとしてこれまでさまざまな葛藤や悩みがあったかと思いますが、どのように向き合ってきたのでしょうか?
安達 求められているものに対して、ときに従ったり、ときに抵抗したりしながら、その繰り返しでここまでやって来たように思います。とくに若いころはその葛藤も大きかったので、loundrawさんの気持ちもすごくよくわかりますね。ただ、僕の場合は30歳を過ぎたあたりから、だんだんとどうでもよくなってきました(笑)。
loundraw (笑)。僕もいずれそうなれたらいいなと思います。

――では、最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
安達 この映画はとにかくloundrawさんの作家性が詰まった作品になっていると思います。クライマックスに進むにつれて、loundrawさんの研ぎ澄まされた感性がフィルムからあふれ出していく感覚があります。皆さんの期待を裏切らない作品になっていますので、ぜひご覧になってください。あと『サマーゴースト』のノベライズと、姉妹作の『一ノ瀬ユウナが浮いている』も書きましたので、よかったらそちらも手にとってみてください。
loundraw この映画は「きれいごと」を描いているわけではないので、見ているとつらい瞬間もあるかもしれません。それでも、見終わったあとには少しだけ前を向くことができる作品にしたいと心を込めて作りましたので、ご覧いただけるとうれしいです。僕自身、多くの学びがありましたし、この経験を糧(かて)にして再び作品が作れたらいいなと思っています。これからもよろしくお願いします。endmark

loundraw
ラウンドロー 1994年生まれ。小説『君の膵臓をたべたい』『君は月夜に光り輝く』の挿画などを手がけ、『Vivy -Fluorite Eye's Song-』などアニメのキャラクター原案やデザインでも活躍するイラストレーター。2019年にアニメーションスタジオFLAT STUDIOを設立。さまざまな分野で活躍中。
安達寛高(乙一)
あだちひろたか(おついち) 1978年生まれ。福岡県出身。1996年、16歳で執筆した『夏と花火と私の死体』で作家デビュー。ミステリーからホラー、恋愛にいたるまで幅広いジャンルで作品を発表し続けている。『シライサン』では実写映画の監督を務めるなど、執筆以外の活動も広い。
作品情報

映画『サマーゴースト』
絶賛公開中

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