TOPICS 2022.05.24 │ 12:00

特『刀剣乱舞-花丸-』〜雪ノ巻〜
プロデューサー・礒部慧利インタビュー①

「とある本丸における刀剣男士たちの花丸な日々」を描く『刀剣乱舞-花丸-(以下、花丸)』が、テレビから飛び出し、劇場へ。2018年3月に2期の放送を終えた物語が、4年の時を経て帰ってくる。刀剣男士たちの花丸な日々を3部作で描く「特『刀剣乱舞-花丸-』〜雪月華〜」のプロデューサー・礒部慧利(以下、礒部)氏に話を聞いた。

取材・文/えびさわなち

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

いちばんの強みは86振が登場すること

――2018年の2期放送から4年の時を経てOVAとなった『花丸』ですが、なぜ今回はTVシリーズではなく劇場上映作品、それも3部作にしたのでしょうか?
礒部 かねてから「続きを作りたい」という気持ちはニトロプラスさんも動画工房さんも東宝も持ち続けていましたが、現実的な制作スケジュールなどを考えるとTVシリーズの形式では難しいという結論に至りました。では、他の手段で何かできないかと考えた結果、TVシリーズに近い尺(映像の長さ)のOVAを3部作で制作することに落ち着いたんです。

――今回の制作にあたって、直谷たかし監督(以下、直谷監督)やシナリオの猫田幸さん(以下、猫田さん)とはどのようなお話をしたのでしょうか?
礒部 直谷さんは一期で監督をされていて、『花丸』がどのような作品かをわかっていらっしゃったので、主に映像演出における「この(尺の)長さならこういう表現ができる」など演出面でのアドバイスをいただきました。皆さんご存知の通り、『刀剣乱舞』はマンガ原作のような原作に沿った作り方ができないため、どうしても最初のプロット(物語の構成)にかける時間が長くなってしまうんです。そこで、まずは猫田さんとニトロプラスさんと東宝の3社で、時間をかけてプロットを固めていき、その後、直谷監督から映像の見せ方に関するアドバイスをいただくという流れで作っていきました。

――3部作でひとつのお話ではなく、それぞれ独立したストーリーにする、ということもそのあたりで決まったのでしょうか?
礒部 今回の3部作は「テレビ」ではなく「映画館のスクリーン」というメディアの違いが根底にあります。TVシリーズのときのように、日曜日の深夜に「明日も会社だな……」と思いながらテレビの前で30分のアニメをスマホ片手に見るのと、映画館の真っ暗な中で70分の映像を集中的に見る環境とでは違いがあることを、まずは意識しました。TVシリーズの形式のまま劇場で上映すると、どうしても話が散漫になってしまって、自分が何を見たのかわからなくなってしまうと思ったんです。そのため、猫田さんには一本ごとに物語の山場と終わりをつけながら、3本を続けて見てもらうために、ゆるやかなつながりみたいなものを用意してほしい、とお伝えして脚本を作っていただきました。

――そんな3部作を制作するうえで苦労したことはありましたか?
礒部 本作のいちばんの強みは86振が登場することなのですが、それが大変なことでもありました。まず苦労をしたのはアフレコです。猫田さんが、シナリオを書く作業とほぼ同時並行で、三部作のどの回にどの刀剣男士が出ているのか、そしてセリフのあるなしが書かれた一覧表を作ってくださったんです。それをもとに音響制作会社の方が延べ86振の声優さんのスケジュールを調整してくださいました。今はアフレコの収録ブースに4人までしか入れず、都度入れ替え制になっているので、その入れ替えのスケジュールも作ってくださり、さらにひとつのミスもなく録ってくださいました。「雪ノ巻」でいえばドラマの中で掛け合いがある(山姥切)国広と長義、(大和守)安定と(加州)清光は一緒に録ることができるように調整してくださったので、すごく苦労をおかけしたのですが、結果としてよかったと思います。

刀剣男士のさまざまな表情や深みを見せられるキャラクターソング

――前回は音楽プロデューサーとして『花丸』に関わっていましたが、今回はプロデューサーという立場となります。役割が異なることで作品に対する視点に変化はありましたか?
礒部 音楽プロデューサーのときは「脚本からどのような音楽を作るか」という川の中流くらいのお仕事だったのですが、企画のプロデューサーとなると川の上流の仕事なので全体が見渡せるという意味ではすごくやりがいがあります。もちろん、本作でも音楽まわりは担っていますし、エンディング曲の制作にも携わっていますので、自分の担当している範囲が広くなったという感覚ですね。

――この3部作の音楽については、どのようなことを意識しましたか?
礒部 これまでずっとキャラクターソングの制作に関わってきましたが、キャラクターソングはキャラクターのある一面を見せてくれるものだと思っています。人間にはいろいろな側面があって、普段は仕事の顔をしていても、家に帰ればだらだらしたりもしますよね。同じように刀剣男士にもいろいろな表情があって、深みがあると思っているので、刀剣男士が歌うキャラクターソングでは、彼らがまだ見せていないところを知ることができる楽しいものとして向き合っています。本作でも新しい刀剣男士たち全員の側面を見せたかったのですが、TVシリーズのときのように毎週エンディング曲を変えることは難しく……。残念な想いを残しながらもエンディング曲「夜明けの空」ではメインとなる文久土佐の3振に「文久土佐に出陣することへの思い」を歌ってもらいました。オープニングテーマの「花丸便りの舞う頃に」は「花丸が戻ってきたよ」という「ただいま」の気持ちを込めて作ったので、楽しみながら聞いてもらえたらと思います。endmark

礒部慧利
いそべえり 東宝株式会社プロデューサー。TVアニメ『からかい上手の高木さん』(2018年)アニメ 続『刀剣乱舞-花丸-』(2018年)『ヤリチン☆ビッチ部』(2018年)などの作品に音楽プロデューサーとして関わる。
作品情報

特『刀剣乱舞-花丸-』~雪月華~
雪ノ巻:5月20日(金)より3週間限定上映
月ノ巻:7月8日(金)公開 /華ノ巻:9月1日(木)公開

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