TOPICS 2022.10.29 │ 12:00

監督に聞いた
『私に天使が舞い降りた!プレシャス・フレンズ』ができるまで①

『私に天使が舞い降りた!(以下、わたてん!)』の新作アニメとして劇場公開中の『私に天使が舞い降りた!プレシャス・フレンズ』。2019年放送のTVシリーズに引き続き監督を手がけた平牧大輔に制作の裏側をインタビュー。「友情」を前面に押し出したハートウォーミングな作品が出来上がるまでを尋ねた。

取材・文/斉藤優己(パワフルプロダクション)

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

まだ描かれていない設定を膨らませたオリジナルエピソード

――『私に天使が舞い降りた!プレシャス・フレンズ』は、原作にないオリジナルエピソードとなりました。決定まではどんな経緯があったのですか?
平牧 『わたてん!』のTVシリーズが終わったあともおかげさまでご縁が続き、動画工房さんの作品でいくつか監督をやらせていただいたんですが、そんな中で『わたてん!』新作アニメの企画が動き出して、再び監督として携わることになりました。すぐシナリオの打ち合わせに入ったのですが、新作アニメの尺ではTVシリーズに続く原作のエピソードを描くには少し短いのではないかということで、オリジナルでいこう、となったんです。

――本作は花のおばあちゃん・桜がキーパーソンになりました。桜はどういったきっかけで生まれたのですか?
平牧 原作者の椋木(むくのき)ななつ先生から出たアイデアがきっかけです。花がおばあちゃんの家によく遊びに行っているという設定は以前から存在していましたから、そこを膨らませつつ、桜の具体的なキャラクター像は椋木先生の中でも出来上がっていなかったので、シナリオと一緒に考えていきました。

――桜の性格や設定はどんな流れで決まったのですか?
平牧 まず「花のことが大好き」というのが大前提で、花、春香(花の母)と差別化する方向で見た目や性格を考えていきました。「春香が朗らかなので、桜は見た目だけ厳しそうにしたい」と椋木先生からの要望があったので、そこを踏まえつつ、花との共通点を持たせるために髪飾りが同じとか、料理が下手といった個性を付けていきました。

描きたかったものは「いつまでも変わらない友情」

――もうひとりのキーパーソンとして、桜と少し歳の離れた友人のまちおばあちゃんが登場しました。
平牧 これもきっかけは椋木先生からのアイデアだったと思います。ただ花たちを出迎えるだけではなく、もっとストーリー的に意味を持たせてあげたいので「桜の友達のおばあちゃんを出しませんか?」と。そこから話し合っているうちに、みやこと対になる存在としてまちが出来上がっていきました。ただ、桜とまちとの関係については、少し悩んだんです。『わたてん』の掲載誌は『コミック百合姫』ですから「友達よりも、もう少し踏み込んだ百合要素があったほうがいいのかな……?」と思ってしまったんですよ。最終的に『わたてん!』ファンの方々は、そこまで明確な百合を求めているわけではないのでは、と思い至って、 ふたりの関係は「おばあちゃんになっても続いている友情」という形で描くことになりました。

――作品で描きたかったのは「友情」というわけですね。
平牧 僕の知り合いには、意外と小さなお子さんと一緒に『わたてん!』を見ている方も多かったんですよ。だから、みんなが温かい気持ちで見られる作品にしたかったのも、「友情」を前面に出したかった理由のひとつです。サブタイトルを『プレシャス・フレンズ』と付けたのもそういう理由で、椋木先生やメインスタッフも満場一致だったと思います。

シネスコ比のおかげで広がった表現の幅

――TVシリーズでは「ほぼ毎回お風呂シーンがある」ことがファンの間で話題になっていました。本作でも登場しましたが、平牧監督にとってお風呂シーンはどういった意味を持つのですか?
平牧 サービスシーンという意識は全然なく、心からの触れ合いを描ける場所だと思って入れています。お風呂シーンでいうと、今回、ひなたと乃愛(のあ)がお互いの歌声を聞いているシチュエーションをやったんですけど、きっかけは原画として本作にも参加してくれているねこパンツさんがSNSに投稿していたファンアートなんですよ。いいシチュエーションだと思ったのでご本人に許可を取って作中に登場させて、そのまま原画も描いてもらいました(笑)。

――冒頭でひなたがみやこのベッドに飛び込むシーンもTVシリーズからのつながりを感じましたが、ジャンプしたところでカメラを回す演出が印象的でした。
平牧 あれは冒頭のつかみで「劇場アニメだぞ!」と皆さんに印象付けるための演出ですね。シナリオチェックのときに、僕自身で「みやこの上にダイブするひなた(TVシリーズ第1話のパワーアップバージョン)」と書き直させてもらったのですが、その時点ではまったく絵が浮かんでいませんでした。そこから絵コンテを描くまで、「劇場アニメらしいすごさ」を示すためにはどうすればいいかと悩んだ結果、カメラをぐるっと回すことになったんです。

――あのシーンは、どうやって制作したのですか?
平牧 全部3DCGだと思っている方もいらっしゃるようですが、背景のみ3DCGで人物は作画です。背景に仮のCG人形を置き、それに合わせる形で作画をしています。ああいうことをやると作画がぶれてしまうことが多いんですけど、アニメーターさんたちが頑張ってくれたおかげで、面白い映像になりました。

――他に劇場アニメならではの部分はありますか?
平牧 TVシリーズだと画面比が16:9ですが、今回は劇場スクリーンに合わせたシネスコ比で制作したので、そこがいちばん大きいですね。16:9と比べるとはるかに横幅が広いので、表現の幅がかなり広がりました。長瀞(ながとろ)の美しい風景を大きく見せることができましたし、とくにお祭りの灯籠流しのシーンは川を広く見せることでより印象的になったと思います。もともと映画が好きで16:9は狭いなと思っていたんですが、今回、シネスコ比で作ったことで、16:9の画面に戻ると、より狭く感じるようになってしまいました。最近では、4:3のほうが上下幅がある分、広く使えるんじゃないか?と思っています。endmark

平牧大輔
ひらまきだいすけ 神奈川県出身。演出家・アニメーター。『私に天使が舞い降りた!』で初監督。その他の監督作に『恋する小惑星』『SELECTION PROJECT』がある。2023年には監督作『【推しの子】』が放送予定。
作品情報

『私に天使が舞い降りた!プレシャス・フレンズ』
大ヒット上映中!

  • ©椋木ななつ・一迅社/わたてんプレフレ製作委員会