「花から見たみやこ」がどんな存在なのかを掘り下げる
――『プレシャス・フレンズ』はTVシリーズ以上に花とみやこの関係をクローズアップした物語となっています。どのような狙いがあったのでしょうか?
平牧 TVシリーズを作っていたときに、花の心情をもう少し掘り下げてあげたかったという心残りが自分の中でありました。だから、今回は基本的に花の目線から自分とみやこの関係について考える物語になっています。ひなたと乃愛(のあ)、小依(こより)と夏音(かのん)についてはTVシリーズの時点で関係性が出来上がっていたので、そこをしっかり見せていこうと思っていました。花とみやこの物語に沿って、TVシリーズと変わらない要素を入れることで、ファンの皆さんに安心して見てほしかったんです。
――掘り下げたかったのは、具体的にどんな部分ですか?
平牧 TVシリーズの花とみやこの関係って、じつは説明が難しいんですよ。みやこは花を大好きで大切な存在と思っているかもしれませんが、花から見たみやこっていったい何なのか? その答えまでは描くことができなくて、ずっと心残りでした。今回は桜とまちのあり方を見せることで「年の差なんて関係なく、ふたりがかけがえのない『友達』だと思っていて大丈夫なんだよ」と示したかったんです。TVシリーズのあとを描いた原作のストーリーで、みやこから花に髪飾りを渡すエピソードがあったので、そこにつながる流れを作りたいという思いもありました。
蛍のシーンは実体験がベースになっている
――みやこと花のシーンで、とくに印象的なところは?
平牧 一緒に川で蛍を見るシーンがすごくキレイに描けました。というのも、本作の制作中に、夜に蛍がいっぱい飛んでいるのを実際に見る機会があったんですよ。そのときに見た光景があまりにもキレイだったので、アニメでもあの美しさを再現したいと思ってスタッフの皆さんにも気合を入れてもらいました。ひなたがやってくると、蛍が蜘蛛の子を散らすように逃げていくんですけど、あれも自分が実際に体験したことなんです。僕が蛍を見ていたときに子供がやってきてはしゃぎ始めたので、蛍が逃げちゃったんですよね。その光景がとても印象的だったので、作品に反映したんです。
――みやこがなくなってしまった花の髪飾りを探すシーンで、お祭りの屋台にふたりの思い出が流れる演出も印象的でした。
平牧 あの屋台に映した回想シーンは、「花からみやこがどう見えているのか」を伝える場面をピックアップしました。TVシリーズ第1話ではみやこを不審者のように扱っていた花が、だんだん心を開き、今につながっていることを示したかったんです。あと、あのシーンでは、普段、人と接するのを嫌がるみやこが、花の髪飾りを探すためたくさんの人に話しかけているんですよね。だから、お祭りに参加した人たちも一緒に探してくれて、見つかったときには拍手してくれています。
――ひなたと乃愛、小依と夏音で、それぞれの見どころは?
平牧 ひなたと乃愛は、一緒にかき氷を食べるシーンがよかったですね。このふたりはいわゆる“天丼”のギャグを多めにしていましたけど、かき氷のシーンは天丼のオチと見せかけて、成功するとしおらしくなる乃愛という見せ方が面白くなったと思います。小依と夏音でいうと、お祭りの射的場ですね。あそこは小依がTVシリーズの夏祭り回(第4話)で輪投げに失敗したのを挽回しているんです。最後に小依が成功したかどうかをはっきり描写せず、次のシーンでさらっと結果を見せた演出が自分でも気に入っています。
ぜひ長瀞へ「舞台探訪」してほしい
――花たちが遊びに行く先は埼玉県の長瀞(ながとろ)でした。ここが舞台になったのはどういう経緯だったのでしょうか?
平牧 花たちの住んでいる場所は東京の聖蹟桜ヶ丘付近がモデルなので、そこから行きやすい場所で、自然がたくさんある場所はどこだろう、といろいろ案を出して、長瀞にしたんです。
――平牧監督も取材に訪れたのですか?
平牧 僕が行ったのは夏ではなく春でしたけど、本編での花たちとほぼ同じルートをたどりながら、いろいろ取材させていただきました。オープニングで花たちが通った、聖蹟桜ヶ丘駅に集まり、特急ラビューに乗って秩父に向かう過程も、ほぼ自分が取材のときに実際にたどったルートそのままです。長瀞駅周辺はもちろん、宝登山(ほどさん)ロープウェイや宝登山小動物公園など、今回作品の舞台のモデルにした場所はすべて取材しています。
――射的場など実際に現地にあるものがシナリオに取り入れられていましたね。
平牧 射的場は長瀞駅の近くを歩いていたときに見つけて「これは作品に使えるかもしれない」と、わりと早い段階で登場させることが決まりました。他にも現地で見つけたものをシナリオに反映していて、かき氷のお店も駅のそばにあります。お母さんたちの泊まっていた宿のお風呂は少し離れていて、「秩父温泉 満願の湯」という日帰り温泉がモデルです。
――みやこが衣装を借りた貸衣装屋さんも実際にあるのですか?
平牧 あそこは実際には貸衣装ではなく、写真屋さんがあるんです。ただ、申請をすれば街中でコスプレできるのは本当で、これもシナリオに活かしたいと思いました。ちなみに街歩きのときに花たちが着ていた服は、わたてん☆5のライブ(『わたてん☆5 2ndワンマンライブ みんながプレシャス・フレンズっ!!』)の新衣装とリンクさせたいという要望がありましたので、キャラクターデザインの中川洋未さんにアニメーション用の衣装をデザインしていただいて、それをもとにライブ衣装を制作していただきました。
――風景の描き方がリアルですごくキレイだったので、見ていて長瀞に行きたくなりました。
平牧 僕たちも見終わったお客さんが「長瀞に行きたい」と思ってもらえたらうれしいと思って作っているので、そう言っていただけるのはうれしいです。今回、舞台になった場所は徒歩と電車だとけっこう回るのが大変なんですけど、駅の近くでトゥクトゥクという三輪自動車を借りられるんです。そういった乗り物を駆使して、ぜひ「舞台探訪」していただきたいですね。
- 平牧大輔
- ひらまきだいすけ 神奈川県出身。演出家・アニメーター。『私に天使が舞い降りた!』で初監督。その他の監督作に『恋する小惑星』『SELECTION PROJECT』がある。2023年には監督作『【推しの子】』が放送予定。