ロボット演出はメリハリとキャラクター性を追求
――カナタたちが搭乗するコフィンはゲームにも登場するメカですが、こちらはどのような流れでデザインしたのですか?
山本 ゲームのために形部一平さんがデザインされたフォーマットがあったので、基本的にはそれを踏襲しています。ただ、ゲームの場合は遊ぶうえでのバランス重視で、装備やスペックにいろいろな制限があるのですが、アニメではジョンガスメーカーや、マイケル専用リアリドのように「全部載せ」の反則的なスペックの機体もアリとしています。デザインに関しても、たとえばギルボウなどはあれだけボディが突き出ていると腕に干渉してゲームだと動かすのは難しいと聞きましたが、アニメでは多少無理をしてでもシルエットの差異を強調したデザインを採用しています。
――ロボットアクションもメリハリがありますね。
山本 それはひとえにCGアニメーターの皆さんのおかげです。演出的には過去作の『アクエリオンEVOL』や『ナイツ&マジック』の延長で、せっかく3Dで動かすのですから手描きアニメでは難しい見せ方やカット割を心がけました。そのうえで今回はカッコいいだけでない人間っぽさ、ある種の愛嬌、かわいらしさも目指してみたんです。擬人化と言ってもいいですが、エリーが乗る機体ならちょっぴり女の子っぽいポーズをしてみたり、トキオの機体ならキザったらしい芝居をしてみたりと、ドリフターの個性がそのままコフィンの挙動にも反映する設定にしたんです。カッコよく決めるときは決めるけれど、コミカルな芝居もできる。よりキャラクターに近い表現を目指したということです。そのあたりの呼吸は『戦闘メカ ザブングル』をお手本とさせてもらいました。
――バトルシーンでとくにこだわった部分はありますか?
山本 同じような見せ方が続かないように、毎回バトルの状況を変化させることを意識しました。序盤は荒野や廃墟で小型のエンダーズが相手ですが、次第にコフィン同士の戦いを増やして、寄生型エンダーズの登場を前フリにして災厄級の「シルヴァーストーム」戦へとスケールアップしていくといった具合です。同様に主人公機であるデイジーオーガもレベルアップする趣向にしました。最終形態で空を飛べるようになったときは「これでやっと空中戦がやれる!」とうれしかったですね。装備が貧弱な序盤に「さて、この手持ち武器でどうやって勝たせるか?」とコンテで頭を悩ませるのも楽しかったですが(笑)。
「シルヴァーストーム」のモデルは意外な建築物?
――エンダーズのデザインはいかがでしたか?
山本 「人間が本能的に恐怖を覚えるデザイン」というテーマをメカデザイナーのレジェンド、宮武一貴さんに追求してもらいました。宮武さんから提示されたのは、左右の対称性や身体のパーツは一対といった、多くの生物に共通する法則から外れた「奇数」というキーワードです。第1話に登場する「ミツアシ」や「七本足」がまさにその代表ですね。面白いことに、不気味な敵を追求したところ、エンダーズのデザインもコフィンと同じく、ある種の愛嬌にいきついたんです。西部劇によく出てくるカラカラ回る草(タンブルウィード)から名前をとった「テリブルウィード」や、つねに社交ダンスを踊っているような「ウチュウジン」など。「ウチュウジン」の動きのパターンを作るのは難しくて、CG制作の旭プロダクションさんは相当苦労されていました。
――1クール目のボスとなった「シルヴァーストーム」も特徴的なデザインですね。
山本 あれに関してはプロダクションデザインの稲田航さんとのディスカッションでじっくりと決めていきました。いちばん悩んだデザインなのは間違いないです。なにしろ名前以外の設定がまったく決まっていなかったので、何が脅威でどうやって攻略するかも含めてデザインを固めていく必要があったんです。最終的に決まったのは「歩く2本の田無タワー(スカイタワー西東京)」(笑)。それがゲームの『塊魂(かたまりだましい)』のように周囲の物体を巻き込んで移動しているというコンセプトなんです。
――巨大建造物が好きなので、個人的にはかなり興奮しました。
山本 最初はタンカーにしようかとも考えたんですけど、船を立ててもあまり映えなくて、シンプルに電波塔にしたんです。稲田さんには「キャリア」をはじめ、劇中に登場する大小さまざまなデザインをお願いして、最後まで頼りにさせていただきました。カナタたちが食べているあの微妙な見た目の食べ物なんかも稲田さんのデザインなんですよ(笑)。
「爪に火を灯す」気持ちで尺をやりくり
――映像面では全体的にテンポがよく、ビジュアルも作画も芝居も隅々まで細かくネタが仕込まれている印象があります。OPがカットされている話数も多いですよね。
山本 シナリオ・コンテの段階から見せたいもの、語りたいことが盛りだくさんで、定尺に収めるのがキツいのは最初から覚悟していました。なので、プロデューサー陣に真っ先にお願いしたのは「とにかく1秒でも長く尺をください」ということでした(笑)。最後はCMを削って尺を伸ばしてもらったり、それこそ毎回「爪に火を灯す」ような思いで、演出さんや編集の定松剛さんとちまちまと編集作業をしていました。
――その尺における執念が、フィルムからもヒシヒシと伝わってきます。
山本 だといいのですが……おかげでネタは濃縮されていると思いますし、不要なカットはひとつもないはずです。初見では気づかないネタもたくさん仕込んでありますので、願わくば何度も繰り返し見ていただきたいですね。
――全編を通じて、とくに印象深いシーンはどこですか?
山本 仕上がりがきれいにできたと思うのは、第13話から第15話にかけて、ミステルがカナタたちの仲間になっていく一連のエピソードです。スタッフにも恵まれましたし、休みを挟んだ2クール目の最初ということもあり、多少の余裕もあったんですよね。この数話を通じて僕自身もミステルのことがすごく好きになれたので、思い入れも強いです。それと第17話もかなり気に入っています。中盤はトキオの見せ場が今ひとつ少なかったのですが、白仮面に身をやつして一時的にカナタの敵にまわることで、最も格好のいいトキオを描けたと思います。マハトやヴァイスハイトと会話するときの人を食ったような振る舞いが痺れますよね。今までずっとバカをやっていたのは、世を忍ぶ韜晦(とうかい)だったということなんです。
――トキオとマハト、ヴァイスハイトの3人の関係もビターで見ごたえがありました。
山本 第15話でのトキオとマハトの再会から、第20話で明かされた過去、クライマックスでの決着と、カナタとノワールの物語とはまた別の意気込みで力が入りました。単なる親友とも肉親とも違う複雑な絆を持つ青年たちの衝突というのは、演出としてやりがいがありました。
- 山本裕介
- やまもとゆうすけ 1966年生まれ。島根県出身。アニメーション演出家、アニメーション監督。大学卒業後、サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)に入社し、制作進行を経て演出家となる。主な監督作に『N・H・Kにようこそ!』『アクエリオンEVOL』『ヤマノススメ』シリーズ、『ナイツ&マジック』『推しが武道館いってくれたら死ぬ』など。
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