Febri TALK 2021.04.28 │ 12:00

中村健治 監督

②技術の高さを見せつけられた
『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』

著名クリエイターにアニメから受けた影響を聞くインタビュー連載、第2回はアニメ業界に足を踏み入れたあと、働いている最中に出会ったという細田守監督の名作について。中村監督はいったいそのスタイルのどこに惹かれたのか?

取材・文/宮 昌太朗 撮影/須﨑祐次

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

初めてのコンテでお手本にしたのが『ぼくらのウォーゲーム!』でした

――2本目は、細田守監督の『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!(以下、ぼくらのウォーゲーム)』。見たのは、アニメ業界で働き始めてからですね。
中村 そうです。一度、普通の会社に入ってから専門学校を経て、小さな作画スタジオに入ったんですけど、腱鞘炎でアニメーターを続けられなくなって。それで制作進行を始めたんですけど、そのしばらくあとですね。所属していたスタジオが東映アニメーションから仕事を請けることになって、それをきっかけに東映に転がり込んだんですよ。それこそ最初のうちは外様っぽい感じだったんですけど、だんだんと東映の人っぽい扱いになってきて。で、そのときに「ちょっと演出助手をやってみる?」って声をかけてもらったんです。当時はとにかく、チャンスがあればどんどん食らいついていこう!と思っていた頃で、しかもそうやって演出助手の仕事をするなかで、会社の人から「今度、『デジモン』の劇場版をやるから、助監督をやってみない?」と誘われたんです。

――中村さんが助監督で参加したのは、続編の『デジモンアドベンチャー02 ディアボロモンの逆襲(以下、ディアボロモンの逆襲)』ですよね。
中村 そうです。ただ、それまで僕は『デジモン』を見たことがなくて。友達が参加していたので「ああ、モンスターが出てくるヤツだな」くらいの知識はありましたけど、中身はほとんど知らなかったんです。しかも『ディアボロモンの逆襲』は監督も変わっているし、スタッフも総入れ替えしているので、とにかく前の作品をみんなで見よう、と。それで、試写会をやることになるんです。

――ひとまず、制作前に前作がどんな作品なのか確認しよう、と。
中村 始まる前は「映画って言っても、東映まんがまつりだろ?」みたいな雰囲気だったんですけど(笑)、見終わった途端に部屋の空気が一変して。僕自身、面白いと思うアニメはたくさんありますけど、そんなに影響を受けるタイプじゃないんですよ。でも、『ぼくらのウォーゲーム』を見たときは、素直に「すごい!」と思えた。しかも、そのスゴさというのは、これまで『無敵超人ザンボット3』とか『天空の城ラピュタ』がスゴいと思っていたのとは質が違っていて、細かいディテールだったり、テンポやレイアウト、あとはカットのつなぎ方だったり、いろいろなところで気が利いているところ。基本的にカメラはフィックスで、どんどんカットをつないでいくスタイルの作品ですけど、僕自身、そういうのがいいなと思っていたので、すごく刺さったんですね。しかも、長さが40分くらいしかないじゃないですか。

――短い時間にギュッと中身が詰まった作品になっていますよね。
中村 たぶん、見た人は1時間以上あると感じると思いますね。そのときは、こんなにスゴい作品が自分のすぐ近くで作られていたことに驚いて。しかも、当時の東映アニメーションは2階でTVシリーズ、3階で劇場版を作っていたんですね。で、コピー機が3階にあったので、よくコピーしに行ったんですけど、ふとゴミ箱を見ると『ぼくらのウォーゲーム』のコンテが捨てられていたんですよ(笑)。たぶん、コピーミスだと思うんですけど、同じページが何枚も捨てられていて、結局、3~4枚しか発見できなかったのかな。急いで拾い集めたんです。

――それくらい刺激的だった(笑)。
中村 たとえば、宮崎駿さんは追っかける演出なんですよ。主人公が扉を開けて、廊下を走って、部屋を抜けて……というのを、細かく追いかけていく。でも、細田さんは間をバンバン編集で切っていくんです。無駄を徹底的に排するというか、そのカット割りがすごくモダンだったんですよね。言い換えると、価値観が変わるというよりか、ものすごい技術を見せつけられた、という感じ。細田さん自身に聞いたら、きっといろいろなところから引っ張ってきた演出なんだと思うんですけど、でも、できあがったものがあまりにも見事で。驚きましたね。

――中村さん自身のお仕事にも、その驚きは反映されているのでしょうか?
中村 僕の本当のコンテデビューって、その『ディアボロモンの逆襲』の予告編のコンテなんですけど、30秒くらいだったかな。本編がまだ全然できていない状態で「ゼロから描いていいよ」みたいなことを言われたんです。なので、CGとかもバンバン使って予告編を作って――最終的には予算超過で怒られるんですけど(笑)、そのときに参考にした……っていうとおこがましいんですけど、お手本にしていたのが『ぼくらのウォーゲーム』だったんです。

――中村さん自身、その後、細田監督の『ハウルの動く城』に参加しますよね。
中村 作品自体は結局、途中で頓挫しちゃったんですけど、横で細田さんがコンテを描いているのをずっと見ていましたし、作品を作るときにここまでやるんだな、と思わされました。細田さんはとにかく徹底的に調べるし、しかも調べたことのほとんどを捨ててしまう。それに対して怒る人もいるんでしょうけど、僕は「そういうもんだろ」と。だって調べてみないと、実際に使えるか使えないかなんてわからない。だから僕としては、とても仕事がしやすくて。……ただ、生活態度が悪くて、めちゃくちゃ怒られました。

――あはは、そこですか。
中村 ご本人は覚えているかどうかわかりませんけど、「お前はもうちょっと真面目に生きられないのか」って(笑)。endmark

KATARIBE Profile

中村健治

中村健治

監督

なかむらけんじ 1970年生まれ。岐阜県出身。2006年に放送された『怪~ayakashi~』内の一篇「化猫」が大きな反響を呼び、その後は人気演出家のひとりに。これまでの監督作に『モノノ怪』『空中ブランコ』『C』『つり球』『ガッチャマン クラウズ』などがある。

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