アニメスタッフとファンと原作サイドの、すべての好意が集まった作品
――2本目は『ああっ女神さまっ(以下、女神さま)』。1993年に発売された最初のOVAシリーズが挙がったんですが、これは中学生のときですか?
錦織 中学2年生とかかな。これも『らんま1/2』と同じく、マンガのほうが少しだけ先でした。最初に単行本が出た際も少しだけ読んでいたんですけど、そのときはまだ「お兄さんたちが読むマンガ」という認識だったんです。ただ、その後、中学生になってから買いそろえるようになって。そこで美少女を描くというのにハマったんですよね。たぶん、藤島(康介)先生のタッチ――ちょっと少年マンガっぽさがありつつも、キレイな線がよかった。絵として理想的だったのもあるし、とにかく絵とキャラクターにハマって、めちゃくちゃ真似して描いていた記憶があります。
――OVAということは、TVアニメほど触れやすいものではないですよね?
錦織 当時は家にビデオデッキがなかったので、友達の家に行って強引に見せてもらいました。デッキはないんだけど、ソフトだけでも買うくらい好きだったんですよ(笑)。とりあえず手元にあれば、いつでも見ることができると思ったんでしょうね。
――あはは。友達の家で見ていたということは、そういう共通の趣味の友人がいたわけですね。
錦織 そうですね。中学で田舎にしてはちょっと都会のほうに転校するんですけど、そこにアニメオタクっぽい人がいたので。そこで『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』を見せてもらったり、OVAの全盛期だったので、レンタル屋で借りて泊まりがけで夜通しみんなでワイワイ見たり。ちょっとオタ活っぽいこともしていました。
――なるほど。話を戻すと、もともと原作が好きで、それがOVAになった……という流れだったわけですね。
錦織 あと、時期的に『ふしぎの海のナディア』のあとなので、すでにガイナックスのことは知っていたんです。この頃にはもう『おたくのビデオ』も見ていて、本田(雄)さんや松原(秀典)さん、あとは監督の合田(浩章)さんだったり、ガイナックスのスタッフが参加している作品として見ているところはありましたね。
――松原さんはキャラクターデザインと作画監督、本田さんも総作画監督として参加していますね。錦織さんとしては、作品のどのあたりにハマったんでしょうか?
錦織 なんだろうな……。ラブコメ的なドタバタやゆるさもありつつ、ちゃんと当時の技術が入っていて、キャラクター作画の良さはもちろん、背景の処理なんかにしても、いわゆる美少女ものではそれまで使われていないような感じだったんです。しかも、最初のほうは丸みを帯びたキャラクターなんですけど、巻が進むにつれて松原さんの絵がキレキレになっていくんですよ。ストーリーがシリアスになっていくにつれて、カッチリした線が前に出てきて、でも全体としてはやっぱり柔らかさも残っているという。
『女神さま』にハマってからは
恥ずかしがらずに
かわいい女の子が描きたいと
思えるようになった
――たしかに松原さんの絵の魅力は、後半にいくに従って、どんどん際立ってくる印象がありますね。
錦織 あとは、原作が持っていた車とかメカのガジェット感みたいなものもよかったし。やっぱり、ただ単に「かわいい」だけのものって、僕はそれほど好きじゃないんです。甘いだけのケーキが好きなのはちょっと恥ずかしい。「良い素材を使ってちゃんと抑制が効いているんだけど、甘いところは甘い」みたいなものが好きで、『女神さま』は僕にとってそういう作品なんですよね。
――なるほど。
錦織 言い換えると「ベルダンディーに恋していいんだ」と思える作品だったんです。だから『女神さま』にハマってからは、もう恥ずかしがらずに「かわいい女の子が描きたい」と思えるようになった。加えて、ドラマの作り方であったり、キャラクターのバランス感覚だったり、『女神さま』から勉強したことは多いと思います。
――ちなみにいちばん好きなキャラクターは、やっぱりベルダンディーですか?
錦織 うーん、当時はベルダンディーでしたね。大人になると、周りから「スクルドが好きそう」って言われるんですけど。
――そう思ってました(笑)。
錦織 でも、意外と王道ヒロインが好きなんですよ。『新世紀エヴァンゲリオン』だと「アスカが好きそう」って言われるんですけど、意外と綾波(レイ)派だったり(笑)。まあ、好きになる女性と付き合う女性は違う、みたいな話なのかもしれないですけど、ベルダンディーが好きで作品にハマるんだけど、いざ描くとなるとスクルドのほうが描きやすいんだろうなぁ、みたいな。
――あはは。なるほど。
錦織 あと、この『女神さま』に関していえば、アニメスタッフとファンと原作サイドのすべての好意とか善意がぎゅっと集まった印象があって。そういうものを見ることができた、というのも大きいんです。「マンガとかアニメで、こういうことができるんだ」というか。箱庭の中でみんながそれぞれキャラクターを愛でていて、わちゃわちゃできる。キャラクターがアイドル化してCDが出たり、その一方でアニメは原作者とちゃんとやり取りしながら作られているんだなっていうのを感じることができて。
――作品単体だけでは終わらない広がりを感じたわけですね。
錦織 そうですね。そういうものが一瞬でも作れたら幸せだなって。そう思いながら、自分もアニメを作っているところがあるんです。そういう意味で『女神さま』のOVAは、いまだに自分の目指すべき場所だな、という感覚がありますね。
KATARIBE Profile
錦織敦史
演出家/アニメーター
にしごりあつし 1978年生まれ、鳥取県出身。演出家、アニメーター。ガイナックスに入社し、アニメーターとして数多くの作品に参加。『THE IDOLM@STER』などの監督作の他、最近では『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に総作画監督・キャラクターデザイナーとして参加。