Febri TALK 2021.11.22 │ 12:00

神前暁 作曲家/編曲家/音楽プロデューサー

①本格SFとの出会い
『トップをねらえ!』

『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズや『〈物語〉シリーズ』など、数多くのヒット作品で音楽を担当する作曲家・神前暁が選ぶアニメ3選。1本目は、本格的なSF設定が生み出すドラマに衝撃を受けたと語る『トップをねらえ!』についてのインタビュー。

取材・文/岡本大介

ウラシマ効果を利用した 切ないドラマに大興奮

――アニメは幼少期の頃から好きだったのですか?
神前 好きでした。ただ、アニメだけを好んで見ていたわけではなく、テレビで流れていたものを自然と楽しんでいた感じです。『ニルスのふしぎな旅』や『スプーンおばさん』など、NHKで放送していた番組がとくに印象に残っていますね。小学生になると、それに加えて『ドラゴンボール』や『シティハンター』といったジャンプ作品をよく見ていたと思います。

――今回挙げた『トップをねらえ!』はOVA作品ですが、こちらはいつ見たのでしょうか?
神前 中学生です。当時はOVAを買うお金なんてなかったんですけど、関西ローカルで『アニメだいすき!』というOVAやアニメ映画を放送するテレビ番組があって偶然見たんです。僕はそれまでちゃんとしたSF作品は見てこなかったので、衝撃を受けた記憶があります。

――『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』『超時空要塞マクロス』などは微妙に世代ではないんですね。
神前 そうなんです。僕の世代はそれらの作品が盛り上がったあとで、SFやロボットアニメの変遷でいうと谷間に当たるんです。それもあって『トップをねらえ!』は初めて見た本格的なSFアニメでした。

――庵野秀明さんの初監督作品として有名ですが、当時クリエイターの名前は意識していましたか?
神前 いえ、クリエイターの名前を意識するようになったのは、高校生になってから見た『ふしぎの海のナディア』なので『トップをねらえ!』は純粋にすごいアニメを見たという衝撃だけが残っています。

――どのようなところがすごいと思いましたか?
神前 やっぱりSF描写です。最初こそロボットが腕立て伏せをしていたりとか、美樹本晴彦さんの美少女キャラがちょっとセクシーだったりとコメディ色も強かったのですが、次第にシリアスさを増していって、スケールも壮大になっていくじゃないですか。とくに衝撃を受けたのは、ウラシマ効果による時間のズレが引き起こすドラマで、あれはたまらなく好きですね。

――宇宙で行動するノリコたちにとっては数分しか経っていないのに、地球では数カ月も経っているというものですね。
神前 そうです。第5話でノリコが地球に帰ってきた際、クラスメイトで親友だったキミコがすでに結婚して母親になっているじゃないですか。宇宙という存在のスケール感と、それに比して人の一生の儚さのようなものを感じて、あのふたりの対話がすごく好きです。あとはラストシーンも忘れがたいです。1万2000年もの時間が経って地球へ帰還したノリコとカズミを、人類が「オカエリナサイ」のメッセージで出迎えるあの演出は、ウラシマ効果という時間のドラマを利用した最高のクライマックスだと思います。

――神前さんは工学部出身ですが、作中で用いられていた数々の超理論についてはどう見ていましたか?
神前 リアルであることとリアリティがあることはまた違うと思うのですが、『トップをねらえ!』は完全に後者で、そのレベルが非常に高いと思います。作中の科学用語を説明するミニコーナー(科学講座)も用意されていて、不思議とそれが説得力があるんですよね。子供心に半分くらいは信じていたと思います。真実と虚構のあいまいさっていうのは創作物の大きな魅力だと思うのですが、庵野監督はそこのセンスがずば抜けていますよね。それはのちの『新世紀エヴァンゲリオン』に至るまで、庵野作品の大きな魅力のひとつだと思います。

――ちなみに『新世紀エヴァンゲリオン』についてはどんな印象をお持ちですか?
神前 リアルタイムで見ていてもちろん好きなんですけど、僕にとっての庵野作品はやっぱり『トップをねらえ!』や『ふしぎの海のナディア』なんですよね。原体験ということもあって、インパクトの大きさが違う感じです。

真実と虚構のあいまいさを描く

庵野監督のセンスに

魅力を感じました

――2004年には続編の『トップをねらえ2!』が制作されましたが、こちらは見ましたか?
神前 はい。中盤まで『1』とのつながりが隠されていただけに、直接的につながっていることが判明してからクライマックスまでの展開はカタルシスがあって、『1』のファンとしてはすごく楽しめました。

――音楽は田中公平さんが担当していますが、初めて見たときはどこまで意識していましたか?
神前 最初に見たのは中学生でしたが、当時はほとんど意識していなかったと思います。高校生になって田中公平先生の名前を知ってからは、すぐにサウンドトラックを買うなど、すごく注目していましたね。

――高校生のときから将来は作曲家になることを考えていたのですか?
神前 いえいえ。吹奏楽でトランペットを吹いたりはしていましたが、音楽家になろうとはまったく思っていなかったです。当時は純粋にアニメファンとして田中先生の劇伴を好きで聞いていました。

――田中さんの音楽は、ご自身の創作活動に影響を与えている部分はありますか?
神前 私はどちらかというと「キャッチーな音楽を作る作曲家」だと評していただくことが多いんですけど、そういう意味では田中先生はその最たるお手本ですね。田中先生の楽曲が持っているストレートな力強さにはいつも憧れています。以前、『セキレイ』というTVアニメのOP主題歌(「セキレイ」)で、『サクラ大戦3』の主題歌(「御旗のもとに」)のオマージュ的なものを仕込んだことがあったんです。そうしたら田中先生から連絡が来て、てっきり怒られるのかなと思ったら「君はよく研究しているね」と言われまして(笑)。

――怒られると思ったら、褒められたんですね。
神前 そうなんです。それ以来ずっと仲良くさせていただいている縁もあって、僕にとっては心の師匠のような存在です。田中先生がすごいのは『ONE PIECE』や『ジョジョの奇妙な冒険』など、1980年代から現在までずっとヒット作に関わっていらっしゃることですね。40年以上にわたって時代の先頭を走り続けているというのは本当にすごいことですし、尊敬しかありません。endmark

KATARIBE Profile

神前暁

神前暁

作曲家/編曲家/音楽プロデューサー

こうさきさとる 1974年生まれ。大阪府出身。大学卒業後、ナムコ(現バンダイナムコスタジオ)を経て、2005年にMONACA(モナカ)に所属。主題歌や劇伴を担当したアニメは『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズ、『らき☆すた』、『〈物語〉シリーズ』、『WORKING!!』『STAR DRIVER 輝きのタクト』『Fate/EXTRA Last Encore』『BEASTARS』など多数。実写映画やアーティストへの楽曲提供など、活躍は多岐にわたっている。

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