Febri TALK 2022.04.11 │ 12:00

千葉道徳 アニメーター

①アニメ業界に興味を持つきっかけ
『機動戦士ガンダム』

『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』『SK∞ エスケーエイト』など、力強くも華やかなキャラクターを描き続けているアニメーター・千葉道徳。そのルーツを掘り下げるインタビュー連載の初回は、のちに自らもシリーズに関わることになる『機動戦士ガンダム』について。

取材・文/前田 久

富野さん、安彦さんたちの世代は、特別な感じがします

――1本目は『機動戦士ガンダム(以下、ガンダム)』です。千葉さんにとってどんな意味を持つタイトルなのでしょう?
千葉 僕は民放が2局しかないような田舎の出身なので、放送されたときにちゃんと見ていたわけじゃないんです。兄貴がいて、プラモデルを買っていたので、そこから入ったような感じ。そして、TVシリーズより前に劇場版を見たんです。

――映画館で?
千葉 僕が住んでいた街には映画館がなくて、地元にあった小さいデパートの催事場みたいなところで上映されたのを見たんです。2作目も、農村勤労福祉センターとかいう名前の体育館みたいなところで、みんなでシートを敷いて雑魚寝みたいな状態で見ました。

――今だとなかなか考えられない上映形式ですね。
千葉 そんな状態でも、やっぱり「今まで見ていたアニメと何かが違う」って子供ながらに感じて。

――それはたとえば、どのあたりに?
千葉 いやもう、本当にすべてが……たとえば、TVシリーズのエピソードでいうと「再会、母よ…」(第13話)とか。アムロとお母さんとの大人っぽいやりとりがあったあと、アムロがコアファイターでジオン軍の基地をヤケになって攻撃する。「主人公がこんなことをするの!?」って思いますよね(笑)。で、興味を持ったものの、当時はまったく情報がなくて。

――今のようにネットでサッと調べられる時代ではないですものね。
千葉 それであれこれしているうちに「どうもアニメ雑誌というものがあるらしい」ということを知るんです。当時はいろいろあったじゃないですか。

――今も続く「アニメージュ」はもちろん、「アニメック」だとか「ジ・アニメ」だとか。
千葉 そう。そういうのを見るようになって、そこで初めてアニメを作っている人たちの名前を知るわけです。富野(由悠季)さんとか、安彦(良和)さんとか、大河原(邦男)さんとか中村(光毅)さんとか。つまり、『ガンダム』はアニメーション業界に興味を持つきっかけになった作品として、今回選びました。

――なるほど。
千葉 アニメ雑誌を最初に手にとったときは小学生ですけど、中学生、高校生になっても読んでいて。わりと当時のアニメ雑誌には「作画ブーム」みたいな空気があって、その辺の記事を見てアニメーターという職業があることを意識するんです。絵を描くのはもともと好きだったんですけど、マンガを描く才能はなさそうだと子供の頃から薄々感じていて……。でも、アニメの仕事はちょっと楽しそうだなぁって。だから中学ぐらいのときには、もうアニメ雑誌に載っているアニメ会社の求人情報を見ていました。そうやってだんだん作画スタジオの名前もおぼえたりして、結果、そのひとつである中村プロに入ったんです。

『ガンダム』から

アニメ雑誌を読むようになって

アニメを作っている人たちの

名前を知りました

――中村プロ、『ガンダム』にも参加していますし。
千葉 そうそう(笑)。

――『ガンダム』で作り手の存在を意識するようになり、アニメ業界に入って、後年『ガンダム』シリーズで大活躍する。とても夢がある話です。初の「ガンダム」仕事は『機動武闘伝Gガンダム』ですか?
千葉 『Gガンダム』に関しては「ちょっと手伝った」ぐらいの感じですね。

――となるとやはり、『機動戦士ガンダム00』が本格的なスタートに。話が来たときはどんな気持ちでしたか?
千葉 『ガンダム』は浮き沈みがあるシリーズで、停滞していた時期も横目に見ていましたから、自分が関わることになるとは全然想像していなかったんです。ただ、水島精二さんの作品……『地球防衛企業ダイ・ガード』とか『シャーマンキング』に参加していた頃、水島さんが監督としてグイグイ来ている感じがあって。実際にそのあと『鋼の錬金術師』を大ヒットさせるわけですけど、そういう様子を見ていて「水島さんが『ガンダム』を作りそうだな」みたいな予感はあったんです。そしたら本当にやるって言うから、「まあ、何かあったら手伝いますよ」ぐらいな、軽い感じで話していたんですよ。原画ならちょっとやるよ、くらいのつもりで。

――そうしたらまさかのキャラクターデザインの依頼が。
千葉 ですね(苦笑)。

――そこから現在に至るまで、『ガンダム』とはもう長いお付き合いで。
千葉 といっても、本家……富野さんのものではないのですが。だから、僕の中では気持ちが違うんですよね。若干気が楽というか。黒田(洋介)さんが当時どこかのインタビューで「自分たちが作っているのは平成ライダーみたいなもの」と言っていた記憶があるんですけど、本当にそんな感覚でした。だからまあ、できることをやるしかないしな、って。富野さんの『ガンダム』だったらもっと大変だったでしょうね。萎縮しちゃう(笑)。『機動戦士Zガンダム』の「新訳」でちょっとだけ原画をやっているんですど、そのときも富野さんとの直接のやりとりはほとんどなくて。やっぱり富野さん、安彦さんたちの世代は、いまだに特別な感じがします。レジェンドといいますか。以前、サンライズの忘年会で高河ゆんさんに「富野さんに挨拶に行くので、一緒に行きましょうよ!」って誘われたんですけど、「俺はいいです……!」とお断りしてしまいました(笑)。

――お気持ちはわかります……。
千葉 レジェンドにはいくつになってもビビりますね。『聖闘士星矢』のOVAで荒木伸吾さんに少しだけお会いできたときも、久しぶりに新人の気分になって、思わずため息が出ました(笑)。endmark

KATARIBE Profile

千葉道徳

千葉道徳

アニメーター

ちばみちのり 1969年生まれ、岩手県出身。アニメーター。スタジオへらくれす所属。主な参加作品に『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』『機動戦士ガンダム00』『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』『ツキウタ。 THE ANIMATION2』『SK∞ エスケーエイト』など。

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