Febri TALK 2022.05.18 │ 12:00

花田十輝 脚本家

②趣味や嗜好がハマった
『戦闘メカ ザブングル』

『ラブライブ!』や『響け!ユーフォニアム』といった青春ものから、『STEINS;GATE』のようなSF作品、オリジナルの『宇宙よりも遠い場所』など、幅広いジャンルで活躍する花田十輝が選ぶアニメ3選。インタビュー連載の第2回は、型破りな展開とおふざけ路線が自身の趣味にハマった『戦闘メカ ザブングル』。

取材・文/岡本大介

ネタとして語られがちだけど、設定と構成はかなり秀逸

――1982年放送のロボットアニメで、監督は富野由悠季さんです。
花田 小学生のときに『機動戦士ガンダム』を見て富野監督のファンになり、『伝説巨神イデオン』、そして本作と追いかけていました。正直、『機動戦士ガンダム』はもう神の域にあって、僕ら世代のアニメ関係者は誰であれ少なからず影響を受けていると思っているので、今回はあえてこちらを選びました。

――『戦闘メカ ザブングル(以下、ザブングル)』のどんなところが好きですか?
花田 端的に言うと、ふざけているところです(笑)。『ザブングル』って「掟破りの『ザブングル』」と言われていて、それまでのロボットアニメのお決まりを覆した作品なんですよね。それは第1話(「命をかけて生きてます」)から顕著で、主人公は主役機であるザブングルを強奪して自分のものにして、かと思えばすぐにもう1機同じ機体が登場するんです。「主役機がもう1機あるの?」っていう。当時の常識では考えられなかったんですが、でもよく考えてみたら1機しかないのがそもそもおかしくて、そりゃ2機くらいは作るよなとも思うんですよね。他にもいろいろな掟を破って新しいパターンを見せてくれたんですが、僕にはそれが面白く感じたんです。

――花田さんはおふざけが許容できて、かつ好みだったんですね。
花田 はい。これはロボットアニメファンの間でも賛否が分かれるところですが、否定する人の気持ちもわかるんです。終盤で人型に変形したアイアン・ギアーがありえないくらいの大ジャンプをするんですけど、そのときのセリフが「はっはっは、マンガだからね!」だったり(笑)。真摯に作品を追いかけてきた真面目なファンからすれば「さすがにそれはダメだろ」って思いますよね。でも、僕はそれを「面白いじゃん!」と思いながら見ていましたし、僕自身もそういうことをやりがちなんです(笑)。

――花田さん脚本での掟破りと言うと?
花田 たとえば、『ラブライブ!』のダイエット回(第2期第7話「なんとかしなきゃ!」)などは、スタッフからは「アイドル作品でダイエットの話はちょっと……」と反対されました。それでも「だからこそ面白いんじゃない!」って押し切れるのは、きっと『ザブングル』の掟破りへの憧れからな気がします。もっと言うと、僕のシナリオでビンタのシーンがけっこうあるのは富野監督作品で育ったことが大きいかもしれません。人って普通にビンタしたりされたりするものなんだと、幼少期に強く植え付けられちゃっていましたから(笑)。

「世界の謎の解明」より

「明日の飯」が作品の主軸を

貫く姿勢になっている

――好きなキャラクターはいますか?
花田 ジロンの仇敵であるティンプですね。『ガンバの冒険』のノロイもそうですが、僕はわりと悪役が好きなんですよ。悪いことばかり考えて、人が苦しむのを見るが大好きな心の小さいキャラが大好きで。なので、最近の「じつは悪役にも最終的にいいところがあった」みたいになる風潮は好きじゃないですね。お前のこれまでの人生否定してどうするって(笑)。

――メカデザインなど、ロボットアニメとしてはいかがでしょうか?
花田 ロボットの操縦桿が車のハンドルだったりとか、面白いですよね(笑)。たとえば、『ガンダム』の世界だと、モビルスーツってすごい兵器感があるし、乗り手も選ぶじゃないですか。でも、ウォーカーマシンは基本的には誰でも乗れますよね。なにしろ操縦桿がハンドルですから(笑)。そういう意味で、この世界で描かれるロボットってどこか日常生活の延長線上にあって、あくまで道具の一種という感じがして、僕は大好きです。

――なるほど。あと本作は富野作品としては珍しくハッピーエンドで、ほとんど仲間が死なない作品ですよね。ドラマやシナリオはいかがでしたか?
花田 「意外と」と言うと失礼ですが(笑)、じつはお話的にもすごくよくできているなと思うんです。『ザブングル』の世界には、どんな重い罪でも3日間逃げ切れれば無罪放免になる「3日限りの掟」が存在するんですけど、じつはそのことって最初は視聴者に知らされていないんですよね。ジロンは両親の仇を1週間追い続けているんですけど、それを周囲の人に打ち明けると「1週間? そんなに追い続けてどうするのか」と大笑いされるんです。僕らはそこで「3日限りの掟」のことを知り、同時に主人公であるジロンに感情移入するわけです。笑われている主人公が正しくて、世界が間違っているという状況が一瞬にして生まれるんですよね。この構造はすごくよくできていて、こういうアプローチって最近のアニメではなかなかやれていないんじゃないかと思います。

――じつは彼らは人工的に作られた種族であったりと、SF設定もしっかりとしていますよね。
花田 そうですね。世界がディストピア的に管理されていたことがあとになってわかる設定もちゃんとしていましたし。ただ、なによりも好きだったのは、それが明らかになってからも「どんな世界でも生きちゃったもん勝ちだよ。楽しんじゃったもん勝ちだよ」という、「世界の謎の解明」より「明日の飯」というところで作品の主軸を貫いていく姿勢ですね。先ほどの「3日限りの掟」も、過去に囚われず今日を生きる人を描くのに必要な設定だったと思いますし。

――なかなかにテクニカルな構成と脚本ですよね。
花田 ギャグ要素が強いのでネタ的に見られがちな作品なんですけど、芯のストーリーはちゃんとしているんですよ。個人的にはもっと評価されていい作品なんじゃないかなと感じています。endmark

KATARIBE Profile

花田十輝

花田十輝

脚本家

はなだじゅっき 1969年生まれ。宮城県出身。アニメ脚本家になるため大学在学中に小山高生に師事し、1992年『ジャンケンマン』第46話「ジャンケン村の宝を探せ!」で脚本家デビュー。シリーズ構成を担当した主な作品に『中二病でも恋がしたい!』『やがて君になる』『ひとりぼっちの○○生活』などがある。

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