Febri TALK 2022.03.11 │ 12:00

林明美 演出家/アニメーター

③演出の重要性を痛感させられた
『少女革命ウテナ』

インタビュー連載の第3回は、アニメーターとして活動するようになった林が影響を受けたと語る作品について。幾原邦彦監督を筆頭に当時の気鋭演出家が結集した名作アニメ『少女革命ウテナ』からガイナックスの作品まで。その現場で林が体得したものとは?

取材・文/宮 昌太朗

『少女革命ウテナ』への参加は大きな転換点になりました

――仕事を始めてから印象的だったタイトルについても聞かせてください。今回、挙がったのは『少女革命ウテナ(以下、ウテナ)』と『彼氏彼女の事情(以下、カレカノ)』を含むガイナックス作品ですね。
 『ウテナ』につながる話なんですけど、私は『ウテナ』のずいぶん前に『SLAM DUNK』にも参加していて、出向で東映アニメーションに入っていた時期があるんです。そのときに細田守さんや相澤昌弘さんたちと知り合ったんですね。

――のちに『ウテナ』に合流する方たちですね。
 そこで細田さんや当時の東映研修生の方たちの原画を見たんですけど、それがとにかくすごかった! 作風はもちろん、原画の描き方からしてそれまでの自分とは全然違う。パッと見て「レベルが段違い」というのを痛感しました……。その数年後に『ウテナ』のお仕事をいただいたんですけど、レイアウトを意識するようになったのは『ウテナ』の影響がすごく大きいと思います。それまでは原画のときも作画監督のときも、それほどレイアウトを重要視していなかったんです。でも、『ウテナ』のスタッフ陣はみんなレイアウトに対するこだわりが強くて。あとは演出というか、見せ方ですね。これはたぶん出﨑(統)さんにつながるところで――きっと幾原(邦彦)監督も出﨑さんがお好きだと思うんですけど、画面を構成するうえで必要のないものを描かない。見せたいものしか描かないっていうスタイルにすごく衝撃を受けました。

――レイアウトの段階で「何を観客に見せるべきか」が、すでに決まっているわけですね。
 そういうことですね。たとえば、BGオンリー(背景のみ)のカットにしても、その一枚だけで持たせられるレイアウトになっている。わかりやすいところで言えば、影絵少女もそう。いわゆる演劇的な演出だと思うんですけど、そういう演出が入ったアニメに参加するのは初めての体験で。とにかく最初は無我夢中でやっていました。

――とりあえず手を動かさなきゃ、と。
 今と違って、当時は作画監督をひとりでやるのは当たり前で、3カ月に1本、金銭的な意味合いでも作画監督をこなさなきゃいけない。加えて自分で原画も持っていたので、20~30カットの原画をこなしつつ、という。ただ、コンテの段階でカット内容のカロリーコントロールがしっかりされていたので、やってやれないことはなかったんですけど。……ただ、私は中心スタッフではなかったので、先の展開を知らないわけです。話の予想がまったくつかない。作画監督をやった第7話は、細田さん(橋本カツヨ名義)がコンテを担当されていたんですけど、最後のオチをコンテで読んで「そっちかよ!」って。

――わかります(笑)。
 とにかく『ウテナ』でコンテとレイアウト、あとは演出的な見せ方がすごく重要なんだなっていうのを痛感して。私の中では、いちばん大きな転換点になりましたね。

レイアウトを

意識するようになったのは

『ウテナ』の影響がすごく大きい

――もうひとつ挙がったのは『カレカノ』を含むガイナックス作品ですね。
 『フルーツバスケット』でご一緒した平松(禎史)さんから「もし、次が決まっていないんだったら」と『アベノ橋魔法☆商店街(以下、アベノ)』に誘っていただいたんです。その頃は原画の仕事を中心にやりたいなと思っていた時期で、それで「ガイナックスはどうですか?」と。……ただ、最初は「え? ガイナックスですか……?」という感じでした。徹夜しないと仕事していないって言われるとか、そういう噂を昔、聞いていたので(笑)。以前、長谷川(眞也)さんからも「朝、床で寝ている庵野(秀明)さんをまたいでスタジオに入ったことがある」みたいな話を聞いていたこともあり……。

――あはは。実際にはどうでしたか?
 全然大丈夫でした(笑)。当時、私と同年代の今石(洋之)さんや吉成(曜)さん、あとは高村(和宏)さんたちが現場のメインで、圧倒的に男性ばかりでした。私は『フルーツバスケット』のときの平松さんのコンテ&演出がすごく好きで、その流れで『アベノ』も平松さんがコンテ・作画監督を担当する回に入ることになったんです。そのコンテがまた面白くて、そこで学んだことも多かったです。

――平松さんのコンテはどんなところがすごいんでしょう? アニメーターとしての平松さんのすごさというのは、いろいろなところで感じるんですが……。
 うーん、難しいですね……。平松さん自身、もともと絵が描ける方なので、コンテの時点でレイアウトがもう決まっているんですよ。だから、パッと見て何がやりたいのかがわかりやすい。あとはやっぱり内容のコントロールがうまいんです。動かさなくていいところは無駄に動かさないし、レイアウトで見せるカットはしっかりレイアウトで見せる。そのメリハリですね。『ウテナ』とはちょっとテイストが違いますけど、共通する部分はあったと思います。

――当時のガイナックスというと、今、名前が挙がった方たちを筆頭に凄腕のアニメーターがそろっていましたよね。
 そうですね。当時は無名でも若くてうまい子――錦織(敦史)くんとか柴田(由香)さんなどがいたので、戦々恐々としていました。『アベノ』の平松話数に参加して、人間を描くのが楽しかったので、やっぱり私は芝居を描くのが好きなんだな、とあらためて思いましたね。その後、いくつかガイナックス作品にも参加していますが、メカには興味がないんだなって(笑)。そこから、今の自分のスタイルに近づいていったところはあるんじゃないかなと思います。endmark

KATARIBE Profile

林明美

林明美

演出家/アニメーター

はやしあけみ 愛知県出身。アニメーター、演出家。『少女革命ウテナ』『フルーツバスケット』『BANANA FISH』など、数多くの人気作にアニメーター、演出家として参加。ガイナックス、カラーに所属したあと、現在はフリーで活動中。

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