戦争ドラマの中で描かれる人の死のドライさ
――宮崎駿、出﨑統、と大監督が続いて、いよいよ『機動戦士ガンダム(以下、ガンダム)』ですね。
鈴木 これはあえて劇場版の三部作を選びました。『ガンダム』はとにかくドラマが好きなんです。アムロとシャアの人間ドラマであり、群像劇としてのドラマです。具体的に言うとアムロとシャアの関係性の変化が好きで、第一作ではとにかく赤い彗星のシャアが強いと。アムロもブライトたちも必死に生き延びようと抵抗していたのが、第三作の冒頭ではそれが逆転している。あのアムロが「連邦の白いヤツ」になっているわけです。このアムロの成長とシャアとの対比がとても気持ちよくて好きなんですよね。それと、戦争映画なのでどうしてもキャラクターが死んでいくシーンがあるわけですが、これがお涙頂戴的な描かれ方ではないんです。死の恐怖を感じさせる描写で、リュウにしろミハルしろ、本当に死んでほしくないキャラクターたちがあっけなく死んでしまう。とくに第二部となる『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』ではマチルダやランバ・ラルをはじめ戦死者が多いので、この抗えない怖さと悲しさにリアリティを感じて、それまでのアニメとは違うと痛感しました。
――富野由悠季監督が、ということではないんですか。
鈴木 そうなんです。『ガンダム』という作品はもちろん富野監督作品で富野演出ありきなのですが、安彦良和さんのキャラクターと作画、そして大河原邦男さんのメカデザイン、脚本や音楽の素晴らしさが絡み合ってこその作品だと思っています。この奇跡的なバランスで成り立っている『ガンダム』が好きなのであって、どれかひとつだけが突出して好きという感覚はあまりないですね。富野監督の映画が基本的には好きという部分はありますが、じつは私のアニメ遍歴がここで中断してしまうため、富野作品は『伝説巨神イデオン』とか『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』くらいまでしかちゃんと見ていないんです。のちに、すべて見ましたが(笑)。
――アニメから離れて実写の世界に傾倒したとか。
鈴木 当時のハリウッド映画といえば、『スター・ウォーズ』であり『ブレードランナー』や『インディ・ジョーンズ』といった特撮系の映画が流行していた時代でした。当時はCGがそこまで発展していなかったし、ミニチュアやプロップを撮影して合成する特撮技術が全盛期でした。私はアニメから映画的なものへの興味を持ちましたが、ここで実写映画に興味が向いたことでアニメから離れてしまうんです。特撮に興味が向いたきっかけはミニチュアの合成用背景として描かれるマットペイントをやりたかったからで、ここでも小さい頃から好きだった絵が動機となっているんですね。だから、中学校を卒業したらアメリカに行ってILMに入りたかった(笑)。これまで挙げてきた3作品のアニメをきっかけにして映像業界に興味が向いたけれど、それを決定的にしたのは『スター・ウォーズ』なんです。でも、当時の私には中卒で渡米はあまりにもハードルが高いわけで、そのあとは「映画好きの兄ちゃん」としてサラリーマン生活に突入してしまう。アニメに復帰したのは平成になってからです。
富野演出ありきなのですが
安彦さんのキャラクターと作画
大河原さんのメカデザイン
脚本や音楽の素晴らしさが
絡み合ってこその作品だと思う
――サラリーマン時代のあとにCG関連の分野で映像に関わっていますね。
鈴木 きっかけは『ジュラシック・パーク』ですね。あの恐竜の映像に衝撃を受けて、ここまでCGでやれるのかと。『トイ・ストーリー』や『ターミネーター2』も同時期で、やはり映画業界に行きたいと思いました。今の自分がやりたいのは特撮とは別に進化したCG分野だと思ってそちらを選びましたが、当時、CGをハリウッド映画のように制作するには日本国内では限界があったし、同時期に演出という分野にも興味が湧いてきたこともあり、渡米してCGをやるか、アニメを含む日本の映像業界で演出を学ぶか、悩みに悩んで。その結果、演出の道を選んだわけです。
――アニメに戻るきっかけとなった作品があったのでしょうか?
鈴木 映画好きの兄ちゃん時代に、友人と酒を吞みながらレンタルビデオを見るということにハマっていて、その中に偶然『魔女の宅急便』があったんです。あ、宮崎駿さんだなあ、くらいしか思わなかったのですが、これが本当に素晴らしい作品で引き込まれました。そこから、あらためて宮崎作品を見るようになって『千と千尋の神隠し』で演出の世界に興味が湧いてきました。そのあとはサンライズで働くことになって、『ガンダム』を本格的に勉強することになりまして(笑)、大人になってからその物語の構造だとかドラマツルギー(演劇論、作劇法)、メカデザインの秀逸さについて知ることになったんです。だから、私にとって最初の『ガンダム』以外は教材としての側面が強くて、その経験によって物語全部を作りたい、創作したいと思うようになっていきました。
――CGの知識は現在の監督業にも生かされているのでしょうか?
鈴木 そういった知識や経験は自分の創作にはずっと影響を及ぼしています。監督でありながらCGディレクターのような発言をするので、CGスタジオ的には面倒くさい存在かもしれませんね(笑)。現在のデジタル環境での撮影についても知識があるので、画面を作るための構造もわかります。そういう意味では、非常に役立っていると思います。
KATARIBE Profile
鈴木健一
アニメーション監督
すずきけんいち 1968年生まれ。千葉県出身。サラリーマンを経験したあとにゲーム会社、サンライズなどを経てフリーに。主な監督作品に『EVOLVE../14 頑駄無 異歩流武../十四 MUSYAGUNDAM』『SDガンダム三国伝Brave Battle Warriors』『はたらく細胞(第1期)』『DRIFTERS』『Fairy gone フェアリーゴーン』など。最新作は『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』(総監督)。