Febri TALK 2022.08.29 │ 13:30

小山恭正 音響効果技師

①音作りにもっとも時間をかけた
『ガールズ&パンツァー』シリーズ

生活音から爆発音まで、音楽とセリフ以外のすべての音を作り出している音響効果技師。今回は数々の人気アニメの音響効果を手がける業界トップランナーのひとり・小山恭正氏に、自身の作品から印象的な3作品を選んでいただいた。最初の作品はTVシリーズから劇場版、そして最終章まで10年以上の付き合いになる『ガールズ&パンツァー』。

取材・文/岡本大介

「戦車の音がリアル」と評価されて心中複雑でした(笑)

――『ガールズ&パンツァー(以下、ガルパン)』シリーズの最大の特徴と言えば、大迫力の戦車戦ですね。
小山 水島努監督とは以前から別の作品でご一緒していたので、そのときから「次は戦車の作品なので、お願いします」と言われて自分なりになんとなくイメージしていたんですけど、いざ打ち合わせで「女子高生たちが戦車で部活をする話です」と聞いたときには「この人は何を言っているんだ?」と(笑)。

――たしかに斬新な世界観ですよね。音響効果の方向性については具体的な要望はあったのですか?
小山 とくにはなかったですね。戦車の音についても「好きに作ってください」ということでしたので、わりと自由にやらせてもらいました。

――戦車の種類によって音が違っているなど、かなりリアルな印象を受けますが、これは実物の音を録音しているんですか?
小山 いえ、作中に登場する戦車の音はほとんどファンタジーです。最初は本物の音を忠実に再現してみようかと思ったんですが、実際の戦車の音を聞いてみると、ほぼエンジンの音しかしないんですよ。

――そうなんですか? 戦車と言えばキャタピラや砲塔の駆動音のイメージがあります。
小山 そうですよね。なぜなら映画やドキュメンタリー映像に登場する戦車のシーンは音が足されていることがほとんどで、それを我々が本物の音だと思い込んでいるからなんです。実際にはエンジン音しかしないんですが、映像として映えるように加工しているんですね。『ガルパン』もそれは同じで、エンタメ作品として成立させるため、ファンタジーとして音を作っています。

――そうだったんですね。てっきり本物の音かと思っていました。
小山 実際に多くの人から「戦車の音がリアル」と評価されてしまって、僕としては心中複雑でした(笑)。当時はあえてネタバラシはしないでおこうと思って黙っていたんですが、この際ですのでハッキリ「偽物」だと言っておきますね(笑)。

――ということは、戦車のキャラクター性に合わせてそれぞれ音を作っているんですか?
小山 そうです。まずは主人公機であるIV号戦車D型の音を決めて、それから他の戦車を順に決めていきました。自分なりにそれぞれの戦車の性格を考えて、キャラクター化している感覚ですね。エンジン音に関しては、ガソリンとディーゼルで音が大きく異なるので、そこに関してはわりと本物を忠実に再現していますが、それ以外は完全にイメージ重視です。

劇場版の決着シーンは

音楽やセリフの力を借りずに

効果音のみで表現したので

とてもプレッシャーを感じました

――TVシリーズ、劇場版と続き、現在はOVAシリーズ(『ガールズ&パンツァー 最終章』)も展開されています。この10年で音響は変化しているのでしょうか?
小山 もちろんです。音楽に流行があるように音響効果にもトレンドがあるので、10年前の音を今使うと、どうしても古臭く感じてしまうんです。方向性としては、劇場版はTVシリーズのグレードアップバージョンで、『最終章』についてはイチから新たに音作りをしています。

――具体的には何が違うのでしょう?
小山 わかりやすく言えば、劇場版までは盛り盛りでゴージャスな音作りだったのに対して、『最終章』はもっと鋭く研ぎ澄まされた音になっています。決めるところは決めますが、全体としての音圧はやや控えめな傾向があります。逆に言えば、劇場版はゴージャス志向のピークで、これまで僕が関わってきた作品中でも随一の手間ひまがかかっています。

――劇場版でとくにこだわったシーンはありますか?
小山 やはりクライマックスの島田愛里寿vs西住みほ&まほのバトルシーンですね。ここはもともとすべてのカットにBGMがついていたんですけど、水島監督に「全部に音楽が入っていると戦車の音が立ちにくいですよ」って言ったら「じゃあ、最後は音楽もセリフも抜きます」って(笑)。あの最後の決着シーンは、敵である愛里寿の強者感はもちろん、TVシリーズで激闘を繰り広げたみほとまほが見事なコンビネーションを見せるカタルシスも表現する必要があり、それを音楽やセリフの力を借りずに効果音のみで示さないといけなかったので、とてもプレッシャーを感じました。「自分の首を締めるようなこと言っちゃったな」とも思いましたけど、結果的には手応えを感じるシーンになって、苦労はしつつも楽しかったですね。

――あの決着シーンは、音楽が消えることで一気に緊迫感が増していますね。
小山 そうですね。ここに至るまでに音楽やセリフで大きな盛り上がりを作れているからこそできることではあるんですが、効果音にこういう役割があるというのはこのシーンで初めて実感しました。みほとまほの2輌がギャリギャリと丘を駆け上がっていき、愛里寿と対峙した瞬間は効果音すらも消えるんですが、そこは侍やガンマンの決闘シーンのようなイメージで、一瞬のブレイクを作ることで緊迫感をマックスまで持っていき、そこから一気に決着がつくという演出です。

――無音だからこそ生まれる演出があるんですね。
小山 それは僕自身もとても勉強になりました。音楽がつかない演出は他の作品でもやっていますが、もっとも重要なシーンを効果音だけにまかせていただいた作品は初めてだったので、水島監督には感謝しています。endmark

KATARIBE Profile

小山恭正

小山恭正

音響効果技師

1982年生まれ。愛知県出身。音響効果技師。現在はフリーで活動する。音響効果を手がけた主な作品は『シドニアの騎士』『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』『アルスラーン戦記』『この素晴らしい世界に祝福を!』『ベルセルク』『幼女戦記』など。