Febri TALK 2022.09.02 │ 12:00

小山恭正 音響効果技師

③「夢は叶うもの」と実感した
『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ

生活音から爆発音まで、音楽とセリフ以外のすべての音を作り出している音響効果技師。今回は数々の人気アニメの音響効果を手がける業界トップランナーのひとり・小山恭正氏に、自身の作品から印象的な3作品を選んでいただいた。3作目は、世界一好きなマンガだと公言してはばからない『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ。

取材・文/岡本大介

ディオの「時止め音」は思いのほか不評だった!?

――『ジョジョの奇妙な冒険(以下、ジョジョ)』については、Part2『戦闘潮流』から最新の『ストーンオーシャン』まで、シリーズに長く携わっています。
小山 『ジョジョ』は世界でいちばん好きなマンガで、まさか自分が関われることになるとは夢にも思っていなかったので、そういう意味で「夢って叶うんだ」と感じた作品です。もちろん、「仕事」として大切にやらせてもらっていますが、半分は「趣味」というか「ライフワーク」というか、とにかくひとりのファンとして「好き」を詰め込ませてもらっています。

――独特の擬音に加え無数のスタンドが登場しますから、やりがいがありそうです。
小山 最高です(笑)。とくにスタンドの効果音については、学生時代にマンガを夢中に読んでいるときに脳内で再生されていたスタンドの音をそのまま再現することも多いです。かつての「僕の考えた最強のスタンド音」が公式として堂々と発表できるなんて、この仕事をしていてこんなにうれしいことはないです。

――個人的にディオのザ・ワールドが時間を止める際の効果音がとても印象的で、あれは発明だと思っています。
小山 ありがとうございます。あれは僕自身もお気に入りなんですけど、オンエア当時の評判はあまり良くなかったんですよ。ちょうど某スポーツジムのCMが流行っていたので「ディオってダイエットしてるの?」って言われたり(笑)。悪いスピーカーで聞くと低音が鳴らずに「オナラの音みたい」と言われたり(笑)。僕としては大好きな音なんですけどね。

――『ジョジョ』には、普通のアニメ作品ではなかなか聞かない音がたくさん登場しますよね。小山さんがとくに好きなスタンドの音はありますか?
小山 たくさんありますよ。ディオの時止めも大好きですし、虹村億泰のザ・ハンドとかヴァニラ・アイスのクリームが空間をえぐり取る際の効果音も好きです。あとは広瀬康一のエコーズACT3が物を重くするときの音もいいですね。音って目には見えないものですが、こういう唸るような低音にはなんとも言えない圧力があって、実際に形があるような感覚になれるのが僕好みで、ついつい使いがちです。

――これらのスタンドに共通する極端に低いベース音というのは、音楽ジャンルで言うとダブステップやトラップなどのベースミュージックに使われるような低音ですよね。
小山 その通りです。今は一時期ほどではないものの、最近までとても流行っていた音楽ジャンルで、それってみんながこの低音を心地良いと感じているから聞いているんだと思うんですよ。

『ジョジョ』ではワザと

絵に合わない音をつけるなど

かなり実験的なことを

やらせてもらっています

――小山さん自身もこういった音楽が好きなんですか?
小山 好きですね。ビリー・アイリッシュが登場したときなどは「音楽にここまでの低音を取り入れてもいいんだ」と衝撃を受けました。僕はアニメをあまり見ないタイプで、それよりも洋楽や洋画を見ることが多いので、音響効果の方向性は海外の作品の影響が強いと思います。とくに『ジョジョ』は海外でも人気のあるコンテンツなので、流行の洋楽テイストというのは意識しています。最近だと80’sっぽい音楽がまた流行ってきているので、わざとシンセっぽい音を入れたりもしています。

――『ジョジョ』も長く続くシリーズですから、効果音もトレンドを取り入れているんですね。
小山 そうです。『戦闘潮流』の頃の音は『ストーンオーシャン』では一切使っていません。たとえば、『ジョジョ』はスローモーション演出が多いんですけど、昔は演出のための音をつけていたんですよ。でも、今のマーベル作品などを見ると、ほとんど音がついていないんです。その理由は、撮影技術的にスロー演出が特別な見せ場ではなくなってきているということだと思うんですけど、そういうところも意識しながらなるべく今っぽい音作りというのを心がけています。

――他にお気に入りのシーンはありますか?
小山 あの……またスタンドの音の話で恐縮なんですけど(笑)、自分でうまくいったなと思ったのは、『黄金の風』のアバッキオのスタンド(ムーディー・ブルース)の起動音なんです。彼のスタンドは額にデジタル表示のモニターがついていて、両目と両手が電話の受話器やスピーカーのようなものが埋め込まれているデザインだったので、音も電話の発信音のようにしたら面白いんじゃないかと思って入れてみたんですが、そうしたら思いのほか味のある音になったんですよね。ムーディー・ブルースに限らず、『黄金の風』の主人公チームのスタンドはどれも個性が強くて、音を作るのが楽しかったですね。

――『ジョジョ』は原作が持つパワーが強いですから、かなり思い切った音も使えそうですよね。
小山 その通りだと思います。『ジョジョ』ではワザと絵に合わない音をつけるなど、かなり実験的なことをやらせてもらっています。それは原作の強度や懐の深さやもちろんですが、菅野祐悟さんの音楽が最高に素晴らしいというのもあるんです。演出や盛り上げに関してはすべて菅野さんの音楽におまかせしている感じなので、その分、効果音は悪目立ちしても大丈夫だろうみたいな(笑)。思う存分に自分なりの『ジョジョ』を追い求めることができる環境は、あらためて夢のような仕事だなと感じます。endmark

KATARIBE Profile

小山恭正

小山恭正

音響効果技師

1982年生まれ。愛知県出身。音響効果技師。現在はフリーで活動する。音響効果を手がけた主な作品は『シドニアの騎士』『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』『アルスラーン戦記』『この素晴らしい世界に祝福を!』『ベルセルク』『幼女戦記』など。