Febri TALK 2021.10.27 │ 12:00

京極尚彦 アニメ監督

②作品世界のリアリティを出す手法
『機動警察パトレイバー2 the Movie』

京極尚彦が挙げた2本目は『機動警察パトレイバー2 the Movie』。しかし「最初は面白さが全然わからなかった」という。やがて「時間の操作」と「嘘にリアリティを持たせる手法」に作品の本質を見出した「映画青年」は、就職氷河期の真っただなかに映像業界の門を叩く。

取材・文/渡辺由美子

大きな嘘を成り立たせるために他の部分でリアリティを積み上げる

――前回、『機動警察パトレイバー2 the Movie(以下、パト2)』が、1作目の『機動警察パトレイバー the Movie(以下、パト1)』と合わせて、アニメ演出家になった原点だとうかがいました。
京極 1作目と同じ19歳で見たのに『パト2』は……最初は面白さが全然わからなかったですね(笑)。物語の終盤はイングラムがボロボロになってしまったりで「主人公もメカも活躍しないのかよ!」と腑に落ちなかったのをおぼえています。でも、数年後に見直したら発見がたくさんあって。この作品の本質は、そこじゃなかったんだなと。

――その本質はどんなものだと感じましたか?
京極 『パト2』では『パト1』で感じた「時間の操作」がさらに極まっていて、まるで時間が止まったみたいに、ものすごく止めるんですよ。押井さんがいうところの「ダレ場」ですね。映画の中にあえて間延びしているようなシーンを作って、映画を「停滞」させる。それは前回の『パト1』のときに話したように、お客さんがかったるく思ったあとに加速させて、開放感や気持ちよさを体感させる手法だったり、お客さんがシーンの意味を咀嚼したり、テーマを感じる時間を与えたり、ということなんですが、『パト2』ではさらに停滞させています。普通はアニメって「動いてなんぼ」だと言われるのに。玄人好みの作品だと思います。

――『パト1』では松井刑事が廃墟を巡るシーンを挙げていましたが、『パト2』ではどこに停滞を感じましたか?
京極 南雲さんが柘植と再会するときなど、雪が降っているシーンですね。自分の演出した作品でも『ラブライブ!』の「Snow halation」のMVで雪を降らせたり、影響を受けています。雪が降ることで情緒的にもなるし、映像の奥行も感じさせられる。『パト2』で降る雪は、降り方もかっこよくて、かなりゆっくりと、しかも、まっすぐに降りてくる。実際の雪は、風が吹いたりしてあんなに直線に降りてこないし、ビチャっと溶けて雨のようになったりもします。だけど作中では、まるで蛍のような、精霊が降りてくるような印象すらありますよね。まだCGが発達していないから、いくつもの雪のセルを1コマずつずらして撮影するなど相当大変だったと思いますが、実写では撮れないものだと思います。あれだけカメラを感じさせる実写のような画面構成をしているのに、そこは「嘘」をつくんだ、という。

『パト2』では

『パト1』で感じた時間の操作が

さらに極まっている

――「嘘」をつけるのは、アニメらしいと感じたのですね。
京極 実写では撮れない映像を出せる。アニメはそういうのが得意なんだと思います。『パトレイバー』でいえば、まずレイバーという設定が、大きな「嘘」じゃないですか。決して現実にはいないものだけど、あの映画を見たら、すごくかっこいいものに見えるし、それを通して僕たちが生きている日本の未来に関わるテーマを描いている。「レイバーというロボットが全国で稼働している世界」という大きな「嘘」を成り立たせているのは、その他の部分でリアリティをものすごく積み上げるからなんですよね。……というのは、押井さんから勉強させてもらったことです。

――リアリティはどんなところで感じましたか?
京極 テクニカルな面でいうと、画の説得力です。画面の作り方は完全に実写なのですが、そのなかに相当な予算がないと撮れないようなリッチな場面が連続している。たとえば、ヘリコプターが飛んで高架下を通り抜けるところなんて、もし、実写でやれば失敗したら死ぬような大スタントになってしまう。じつはアニメでしか成立しないシーンに、実写カメラ的なアングルを用いた臨場感やリアリティを持たせることができるのは、画力と画面の構成力があるからですよね。僕には一生描けないようなすごい画が毎カット描かれているし、レイアウトもキマっている。見た当時、「アニメは実写では撮れないことをし始めているんだな」と思いました。

――レイバーは実際にはいないけれど、映像としての説得力があるからリアリティが生まれる。だから私たち観客は、まるで本当に「パトレイバーの世界がある」と思って見ることができるのですね。
京極 そうだと思います。僕が演出するときも、たとえアニメの設定自体が「嘘」でできていても、その世界の中のリアリティを積み上げることで、見る人が自分とのつながりを感じられたら、そこが入口になってくれるような気がしているんです。『ラブライブ!』の「歌って踊ってスクールアイドルで学校を救うんだ」って文章だけを冷静に読んだらありえないじゃないですか。でも、主人公たちがやっている、体力をつけるために早起きして、みんなで神社の階段を駆け上がったり、汗を流したり、悔しい思いをしたりというのは、部活とかで誰もがしたことがある経験で、それを入れることで、スクールアイドルがいる世界のリアリティにつなげているんです。逆に、練習風景のような地に足をつけたシーンを端折ってしまうと、ただのかわいいアニメになってしまう。そこは意識しているところです。

――『パトレイバー』に衝撃を受けたあたりで、進路をアニメ業界の向けたのですか? 
京極 アニメを絶対やりたい、というわけではなくて、実写も視野に入れて、いろいろな制作プロダクションや広告代理店の採用試験を受けていました。このあたりのいきさつは、サンライズのHPにも載っています。だからもし、就職活動で実写の会社に受かっていたら、アニメの道には進んでいなかったと思います。なりゆきでこっちに来ちゃった、みたいな感じですね。endmark

KATARIBE Profile

京極尚彦

京極尚彦

アニメ監督

きょうごくたかひこ 1981年生まれ。兵庫県出身。CGエフェクト、演出家として『陰陽大戦記』『結界師』などの作品にたずさわったあと、『プリティーリズム・オーロラドリーム』で副監督をつとめ、初の監督作となる『ラブライブ!』で一躍その名を上げた。他の監督作に『宝石の国』『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』『ラブライブ!スーパースター!!』 など。

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