Febri TALK 2021.10.29 │ 12:00

京極尚彦 アニメ監督

③キャラを大事にする演出の原点
『プリティーリズム・オーロラドリーム』

京極尚彦が3作目に挙げたのは、女児向け作品の『プリティーリズム・オーロラドリーム』。『ラブライブ!』の監督として飛躍をするきっかけは、師と仰ぐ菱田正和監督の下で学んだ日々にあった。

取材・文/渡辺由美子

菱田さんに「女の子を描くことへの執着がすごい」と言ってもらえた

――3作目は『プリティーリズム・オーロラドリーム(以下、オーロラドリーム)』ですが、これまでに挙げた『パトレイバー』とはジャンルも作風も違いますね。
京極 サンライズに入って、初めてのCG演出的な仕事が『陰陽大戦記』でした。主人公たちが式神を呼び出して戦うアニメで、神操機(ドライブ)から文字が飛び出したりするんですが、最初は『パトレイバー』との落差にクラクラしていました(笑)。でも、この作品と『ケロロ軍曹』の演出をやったおかげで、子供に楽しんでもらえる気持ちよさを知ったんです。

――『オーロラドリーム』の監督・菱田正和さんとはここで接点ができるんですね。
京極 菱田さんは僕の師匠で、僕のCGを褒めてくれたり、『結界師』で初めて演出を担当するきっかけをくれた方です。『オーロラドリーム』には、TVアニメになる前の『ラブライブ!』のMVを作っていたときに声をかけてもらって参加しました。プリズムショーの演出やCG全般をまかせてもらえて、各話演出のメンバーにも入れてもらえたのですが、準備時間が全然なくて、毎日、普段の倍くらいの量を仕上げていかないと間に合わない状況でした。

――京極さんのダンス演出について、菱田監督が『プリティーリズム・レインボーライブ』のオーディオコメンタリーで「すぐに女の子の脚ばかり映す」という発言をしていますが、それはなぜでしょうか?
京極 なぜでしょうね……(笑)。言い訳をすると、ダンスで正面だけを撮っていると、シルエットの変化が少ないじゃないですか。カメラを引いてしまうと、人物の左右の画面がスカスカになってしまうし。人間の身体の中で、脚っていちばん動いて見える部分なんですよ。それに編集的にも、顔を入れたカットが続いたあとは何かしらのアクションを入れないといけない。そこで顔や全身のカットのあとに、脚のアップや腰回りのカットを入れると、動きが出てつなぎやすくなるんです。そうしたら菱田さんに「いつも脚ばっかり映す」とツッコまれるようになってしまって(笑)。

――『オーロラドリーム』の第40話からは副監督も担当しています。監督業は作画やアフレコなどすべてのセクションに関わると思うのですが、どんな工程が印象に残っていますか?
京極 副監督というよりはサポート業に近かったのかなとは思いますが、監督の仕事をそばで見るのは勉強になりました。とくに学びが大きかったのは「音響」と「編集」です。それまでは、きれいな画を作っていくことに気づかぬうちに意識が向いていたのですが、「作品作り」という点では、音響や編集が大事なんだと痛感しました。音響監督の長崎行男さんは「ここで切っちゃうんだ……!」と思うタイミングで劇伴を切ったり、逆に伸ばしたりするんです。おもいきりのよさがすごくて、メリハリをつけることで「感情の起伏」を作っているんだと感じました。たとえば、曲のラスト1音だけボリュームを上げて、見ている人の心にガツンと響くようにするとか。

――なるほど。編集はいかがでしたか?
京極 ……じつは、編集を始めた頃に「お前、編集下手だな」と菱田さんにボソッと言われて、傷ついて帰ったことがあります。でも、ここで数をこなして学べたのはよかったです。何コマ切って何コマ伸ばせばいいか、慣れるとわかるようになるので、10分の1秒のような陸上選手ばりに短い時間で切ったりします。ダンスシーンはとくにそうで、僕は1コマだけずらす、といったことをよくやるのですが、1コマ=24分の1秒なので、普通に見ている分には気づかないものですが、躍動感が大きく変わることに気づきました。

第1話を見るだけで

キャラクターのことがわかって

応援したくなることの

大切さを経験できました

――現場で得た、もっとも大きな学びはどんなことでしたか?
京極 尖ったこと、おもいきったことをやる方とずっと一緒だったので、自分もおもいきること対してためらいがなくなりました。たとえば、『ラブライブ!』の第1話のラスト、歌って踊るシーンは、最初、反対されたんです。「ギャグになっちゃうんじゃないか」って。でも、自分の中では、雲の上を散歩したり、流星群が落ちてきたりするシーンと比べれば「これくらいは普通でしょう」と思えました(笑)。

――『オーロラドリーム』を経て、ご自身の演出の持ち味など、気づいたことはありますか?
京極 菱田さんには「女の子を描くことへの執着がすごい」と言ってもらえることがたびたびありました。女の子に限らず「登場するキャラクターをどうやってお客さんに好きになってもらうか」は、当時から気にしていました。『オーロラドリーム』の第1話も僕が演出を担当したんですが「第1話を見るだけでそのキャラクターのことがはっきりわかって、応援したくなる」ことの大切さを経験できましたし、それが自分の持ち味にもなったんじゃないかと思います。

――「キャラクターが立つ」ポイントは、どんなところにあると思いますか?
京極 本人の動機、そして表情や仕草に、お客さんが共感できる現実味を入れることです。最新作の『ラブライブ!スーパースター!!』では、主人公のかのんを挫折を経験した子にしました。『ラブライブ!』はお客さんに元気を与えるアニメなので、基本的に元気で明るい子が主人公なのですが、最近の女性や若い子を見ていると「いけるよ! 大丈夫だよ!」というだけじゃなく、痛みに寄り添ってくれる主人公のほうが説得力があるんじゃないかと思ったんです。

――前回の『パトレイバー2』であった「作品に大きな嘘があっても、他の部分のリアリティを積み上げることで、全体としてリアリティをもたせる」というお話は、キャラクター造形にもあらわれているんですね。
京極 そうですね。キャラクターを大事にする演出の原点は『オーロラドリーム』にあるのかなと感じますし、この先も自分の柱として変わらないだろうなと思います。クールで難解な映画が好きな時期を経て、アニメの仕事をやって、お客さんに楽しんでもらえる面白さを知りました。ゆくゆくは、その「面白い」の中に「暗いテーマの作品を手がけること」が入る日がくるかもしれませんが、今は明るい作品に意識が向いています。僕は、人と人がハッピーになる作品を作って、僕自身もハッピーになりたいと思っているんです。endmark

KATARIBE Profile

京極尚彦

京極尚彦

アニメ監督

きょうごくたかひこ 1981年生まれ。兵庫県出身。CGエフェクト、演出家として『陰陽大戦記』『結界師』などの作品にたずさわったあと、『プリティーリズム・オーロラドリーム』で副監督をつとめ、初の監督作となる『ラブライブ!』で一躍その名を上げた。他の監督作に『宝石の国』『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』『ラブライブ!スーパースター!!』 など。

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