Febri TALK 2021.05.14 │ 12:02

齋藤将嗣 デザイナー

③レイアウトが生む絵力の強さ
『機動警察パトレイバー2 the Movie』

人気デザイナー、齋藤将嗣のアニメ原体験を聞く、全3回のインタビュー連載。最後に取り上げるのは『機動警察パトレイバー2 the Movie』。雄弁なレイアウトに対する思いは、自身の今後の仕事にもつながる。

取材・文/前田 久

レイアウトだけで、とてつもない緊張感がある

――最後の一作は『機動警察パトレイバー2 the Movie(以下、パト2) 』です。第2回で、小学生のときに『パトレイバー』のTVシリーズを見ていたという話が出ましたが。
齋藤 札幌だと日曜の朝に放送されていたのですが、それを見て、レイバーのデザインに衝撃を受けたんです。デザイナーの出渕(裕)さんの名前を認識するのは高校生になってからで、小学生の頃は、ただひたすらすごくカッコいいロボットだと思っていました。高さが8メートルぐらいなのも絶妙なんですよね。それでTVシリーズにハマって、ゆうきまさみ先生のマンガも買って、そして『パト2』も見たという流れです。

――それだけ思い入れのあるタイトルなのに『攻殻機動隊』と違って、シリーズではなく『パト2』だけを単独で選んだ。そこにはどんな思いが?
齋藤 『パト2』が好きな理由は、これまで話したような魅力とちょっと違うところにあるからです。1本目に選んだ『カウボーイビバップ』に通じるものがあるというか、これも大人の話なんですよね。ほとんどおっさんとおばさんしか出てこなくて、ひたすら、おっさん同士のやりとりで話が進む(笑)。

――TVシリーズでは脇役のひとりだった、特車二課の後藤喜一隊長が実質的な主役の作品です。
齋藤 TVシリーズを見ていたときから、後藤隊長はカッコいい大人だと感じていたんですけど、『パト2』で本当にすごい人だと思うようになりました。それから、この映画全体の雰囲気が大好きなんです。テロ組織が自衛隊機を偽装してベイブリッジを落とす事件を起こすところから始まって、大変なことが起こっているのに、ちゃんと日常を描いている感じ。現実で起こりそう……というか、もし現実にこんな事件が起こったら、日本人はこういう対応をしそうだな……みたいなことが、おそろしくリアルに描かれていて、SF的な要素がほとんどない。たまにレイバーが画面に出てくると「あ、これはSFアニメだった」と気持ちが引き戻されるぐらい(笑)。そうした内容をアニメでやってしまうのが驚きでした。押井(守)さんが本当に『パトレイバー』で描きたかったものが、滲み出ているような気がします。

――わかります。
齋藤 自衛隊と警察があわや全面衝突しそうになるシーンを、ただレイバー同士が並んでいるだけの絵で表現するんですよね。アニメとしての動きをつけていないのに、レイアウトだけでとてつもない緊張感がある。そして、次第にその緊張感が心地良くなってくる。押井さんの作品にはそういうところがあるんですよね。レイアウトだけじゃなく、間の取り方、セリフまわし、BGMの入れ方……どれをとっても、この作品は本当に心地良い。

押井さんが本当に

『パトレイバー』で

描きたかったものが

滲み出ているような気がします

――押井監督のファンはセリフに注目して作家性を語るケースが多い印象がありますが、齋藤さんが真っ先に挙げるのはレイアウトなんですね。
齋藤 そうなんです。押井さんのセリフまわしって、全部面白い。『イノセンス』のセリフなんて、一時期、友達とふたりでおぼえて、日常会話をそれだけでしていたことがあるくらいです(笑)。でも、僕のなかではどれが大切かといわれたら、押井さんの作る絵なんです。『パト2』の、自衛隊が出動して都内が厳戒態勢になって、いろいろな場所に自衛隊の戦車やレイバーが配置されて、そこにただ雪が降っているだけのシーンとか、すさまじいですよ。絵だけで全部を語っている。あの感覚は、押井さん以外には作れない気がします。美大で油絵を専攻して、今でもアート作品が大好きなこともあってか、やはりアート的な面白さ、絵力の強さでアニメを見ている部分が僕にはあって、押井さんの作品はその点で最高です。

――ご自分のお仕事への影響はありますか? 
齋藤 レイアウトで魅せるような絵を描いてみたい気持ちはあります。ですが、あまり仕事で描いたことはないので多少不安があります。そうした絵を描いてちゃんとお仕事になっているのは、吉田健一さんぐらいじゃないでしょうか。吉田さんは『エウレカセブン』シリーズのパッケージイラストなどで、風景がメインの、レイアウトで語るような絵を描かれています。僕は吉田さんのそういう絵が本当に大好きで、自分でも描いてみたいと思うんですが、お客さんから求められているものとは違うし、技術も足りないんですよ。

――でも、いつかは挑戦してみたい?
齋藤 そうですね! 趣味で写真を撮っているんですけど、それもレイアウトで何かを表現することを試してみたいからなんです。好きすぎることもあって、おいそれと仕事ではできない気持ちもありますが、いつかはそういう仕事もやってみたいです。endmark

KATARIBE Profile

齋藤将嗣

齋藤将嗣

デザイナー

さいとうまさつぐ。北海道出身。主な仕事に『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(キャラクター・メカデザイン)、『CYBORG009 CALL OF JUSTICE』(キャラクターデザイン)『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』(デザインワークス)など。

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