Febri TALK 2021.10.01 │ 12:00

田中将賀 アニメーター

③自分も出演したかった
『SHIROBAKO』

『君の名は。』や『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のキャラクターデザインで知られ、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では作画監督としても名を連ねるアニメーター・田中将賀が選ぶアニメ3選。3本目はアニメ業界の内幕を描いた『SHIROBAKO』。

取材・文/岡本大介

僕自身、白箱を見るときがいちばん興奮します

――2015年放送の作品ですから、これまでに挙げていただいた2作品と比べるとかなり最近ですね。
田中 僕は制作に関わっていないんですけど、ぜひともキャラクターとして出演したかったなと思って(笑)。よく一緒に仕事をする長井龍雪監督が「みじかい監督」としてタローのセリフに出てきたり、仲の良い音響制作の田中理恵さんも「中田恵理」というキャラクターで登場しているんです。僕も名前だけでも出られないかなと思って、Twitterで「今やっている『SHIROBAKO』って面白いよね」と、つぶやいていたんですよ。何かの間違いで水島努監督からLINEでもこないかなって(笑)。結果的には出演できませんでしたけど、面白いと思っているのは本当です。

――アニメ業界を舞台にしたお仕事もので、業界外の人間からするとかなりリアルに感じました。田中さんにはどう映りましたか?
田中 僕からしても、ほとんどが「あるある」だと思います。誇張はあっても虚構はない。監督や声優といった表舞台に立つ人たちだけではなく、いろいろな役職や立場からの目線も描かれていて、すごく質の高い群像劇だなと素直に感激しました。

――業界人だからこそ、クオリティの高さがよくわかるんですね。
田中 そうですね。あと大きかったのは、物語の舞台である「武蔵野アニメーション」のある場所って、おそらくアートランドがあったところだと思うんですよ。最寄り駅が武蔵境だし、スタジオに向かう道中のスーパーとかお弁当屋さんとか、僕がアートランド時代によく使っていたお店ばかりなんです。それもあって、かなり共感度高めで見ていたというのはありますね。

――ヒロインのひとりとして新人アニメーターの安原絵麻が登場しますが、ご自身と重なる部分もありますか?
田中 ありますね。ひとりでスタジオに残って黙々と作業して、気づいたら朝になっていたりとか、六畳一間のボロアパートに住んでいるあの感じとか、めちゃめちゃ懐かしいです。あと第22話(「ノアは下着です。」)で絵麻ちゃんが「私、アニメーターで食べていけると思う 。だからもう、心配しないで」って母親に告げるシーンがあるじゃないですか。僕の場合は親に連絡したりはしませんでしたけど、でもたしかに覚悟を決めた瞬間はあったんですよね。そんな風に、アニメを見ながら当時の自分のことを思い出すことは多かったです。

表舞台に立つ人だけでなく

いろいろな役職や立場からの

目線も描かれている

すごく質の高い群像劇

――絵麻はかなり内向的な性格でしたが、新人時代の田中さんはどんなタイプだったんですか?
田中 僕はかなり積極的にコミュニケーションをして情報をもらいまくるタイプだったと思います。「この人スゴいな」と思ったらすぐに飲みについていって聞きまくりましたし、机に向かって作業しているときも、先輩たちの会話にはめちゃくちゃ聞き耳を立てていました。先輩が帰ったあとは机に置いてあるラフをのぞき見たり、ゴミ箱を漁って消しカスの量をチェックしたりもしました(笑)。

――ものすごく積極的ですね。
田中 もとから才能があってうまい人というのは、内向的だろうと消極的だろうと関係なくやれちゃうんですが、僕は自分の能力や才能はいっさい信じていなかったので(笑)。だから少しでも早く成長するためにはどうしたらいいのか、アニメーターとしてこの先ずっと食べていくにはどうしたらいいのか、業界で生き残るためには何が必要なのか、それらを徹底的に探して、試行錯誤しながら身につけていった感じですね。

――とくに印象に残っているシーンはどこですか?
田中 1クール目の最後、第12話「えくそだす・クリスマス」で、みんなが居酒屋に集まって白箱を見るシーンです。僕自身、最初に白箱を見るときっていまだにすごく興奮するんです。この作品を世に送り出すんだというワクワク感だったり、こんなに素晴らしいものを作ったんだぞという誇らしい気持ちだったり、いろいろな感情が湧き上がるんですよ。

――それを仲間と一緒に見る、というのがいいですよね。
田中 これまでのすべては、こうやってみんなで美味しいお酒を飲むためにやってきたんだなと本気で思います。だからこそ、辛い瞬間があっても最後までやりきろうと思えるんですよね。そこで逃げて不義理をしてしまうと、けっして美味しいお酒は味わえないんですよ。結果的に自分が傷つくことになるというのは、若いアニメーターの子たちにはよく言うことですね。

――コメディな演出も多いですけど、基本的には泣けるお仕事もので、感動作ですよね。
田中 アニメ制作の現場って、本当にいろいろなことが起こるんです。でも、僕らはいつだってできる限りいいモノを作りたいと思っていて、一生懸命に取り組んでいるのはたしかだと思うんですよ。本編でも描かれていましたけど、結果として「原作レイプ」と言われることも現実としてはあって、それは言いわけはできないですし、自分たちの能力不足を認めるしかないんですが、でも原作を貶めたいと思って作っている人はいないんです。水島監督の言いたいのはそこだと思いますし、この作品には僕自身も励まされました。

――いろいろなテーマやメッセージがありつつも、それがしっかりとエンターテイメントとしてまとまっているのがこの作品の魅力ですね。
田中 そうですね。西部劇風の演出も面白かったですし、『劇場版 SHIROBAKO』では映画『キルビル』風の演出もありましたし。何度見ても楽しめますし、とくにアニメ業界を目指す人にはぜひオススメしたい作品です。endmark

KATARIBE Profile

田中将賀

田中将賀

アニメーター

たなかまさよし 1976年生まれ。広島県出身。原画、作画監督、キャラクターデザインと幅広く活躍するアニメーター。キャラクターデザインを務めた代表作は『家庭教師ヒットマンREBORN!』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『君の名は。』『空の青さを知る人よ』など多数。

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