Febri TALK 2023.02.06 │ 12:00

VaVa ラッパー/トラックメイカー

①脇役やヤラレメカに惹かれた
『機動戦士ガンダム』

アニメ『オッドタクシー』では劇伴や挿入歌の制作も担当したラッパー/トラックメイカーのVaVa。ゲームやアニメなどさまざまなカルチャーを自身の音楽にも反映している彼に、中でも影響を受けたアニメ3作を聞くインタビュー連載。1本目は、モビルスーツのかっこよさだけではなく、人間ドラマに惹かれたという『機動戦士ガンダム』について。

取材・文/森 樹

ロボットアニメへのイメージがガラッと変わった

――1本目に挙がったのは『機動戦士ガンダム』ですが、いつ見たのでしょうか?
VaVa 『ガンダム』という作品を認識したのは、中学生のときですね。プレイステーション2でリリースされていた『機動戦士Zガンダム エゥーゴvs.ティターンズ』というアクションゲームに触れたのがきっかけでした。なので、ゲームを通してモビルスーツについては知っていたのですが、実際に作品を見たのは4年前くらいです。そもそも、ロボットアニメのざっくりとしたイメージとして「男の子の夢」みたいなところがあるじゃないですか。

――憧れが詰まっているような。
VaVa もともと『仮面ライダー』や『ウルトラマン』といった特撮も好きなので、その流れで『機動戦士ガンダム』を見たんですけど、どちらかといえば、エグめの人間ドラマに惹かれましたね。「これ、めちゃくちゃ大人な作品だな」と。それまで抱いていたロボットアニメへのイメージがガラッと変わりました。

――単純な善悪のぶつかり合いではない描かれ方ですよね。
VaVa そうなんです。敵であるジオンが、主人公であるアムロ・レイの住んでいるサイド7を襲撃するところから始まるんですけど、ジオン側も単なる敵ではなく人間として描かれていて。悪人だけでなく善人もいるし、一方、アムロが所属する地球連邦軍にも悪人がいる。しかも、こういう戦争ものって終盤になるにつれて敵がどんどん強くなっていきますけど、最後までザク(=ザクⅡ)がずっと元気に出てくるのも衝撃で。

――たしかに、ジオン公国軍の主力機としてザクⅡは最後まで投入されています。
VaVa そういう設定にも、SFというよりは現代の戦争に近いリアルさを感じました。

――ちなみにTVシリーズと劇場版三部作がありますが、どちらを見たのでしょうか?
VaVa 見たのはTVシリーズですね。気分が高まって、その翌々日くらいには1/12スケールのシャア専用ザクを買っていました(笑)。たしか50~60万はしたと思うんですけど。

――家に置くのも大変なサイズですよね。
VaVa そうなんですよ。ものすごいデカい段ボールが5~6個、家に届いて(笑)。先日、恵比寿でワンマンライブをやったとき、完成品をステージに置きました。

ヒーローとして描かれない人たちにめちゃくちゃ共感した

――シャア専用ザクを購入したのは、ジオン側に思い入れがあったということでしょうか?
VaVa いえ、最初は連邦側に自然と肩入れするというか、アムロ側の視点から作品を追うところがありました。でも、ジオン側にも深い人間ドラマがあったりする。『機動戦士ガンダム』を見たことでいちばん大きかったのは、主人公だけじゃなくて、ほんの少ししか登場しない脇役たちにも目が行くようになったことですね。シャア専用ザクは衝動的に購入して、そこからガンプラやフィギュアにも興味を持ったのですが、僕はマゼラ・アタックや旧ザクといった劇中のヤラレメカに惹かれるんです。

――あの世界観の中でいちばん力を持たなそうなものに。
VaVa 勧善懲悪がもっとわかりやすい作品だったら、カッコいいヒーローのプラモデルやフィギュアを手にすると思うんですよ。でも、『機動戦士ガンダム』はアムロやシャアだけじゃなくて、それ以外の人たちにもスポットが当たっていて、彼らについて考える時間が用意されている。だから、ヒーローとして描かれていない人たちに惹かれていったし、そういう人たちにめちゃくちゃ共感するところもあって。

――共感するというのは?
VaVa 僕がやっているヒップホップの世界では、ラッパーがヒーローとして描かれることが多いんです。下剋上だったり、メイクマネーだったり。でも、自分はそういう「勝ち上がろう」みたいな境遇で生きてこなかった。自分を含め、そういう立ち位置だけどヒップホップが好きな人っていっぱいいるので、それを正当化するために音楽をやっているところも少しはあるんです。

――なるほど。
VaVa だから『機動戦士ガンダム』を見ていても、自分はアムロみたいなヒーローやニュータイプと呼ばれるようなひと握りの人たちではなく、もっと脇役の、普通の人間のひとりなんだろうと思うんです。そして、そういう人たちには、そういう人たちなりの生活がある。それに気づかせてくれた大事な作品ですね。

――ちなみに同年代の友人に『機動戦士ガンダム』を見ている方はいるのでしょうか?
VaVa 僕は今、29歳なんですけど、同年代だとほとんどいないですね。僕よりひと回り上の世代に話を振るとだいたいわかってくれます。レーベル(Vavaが所属するSummit)のA&Rである増田(岳哉)さんも、大量にガンプラを所有しているので譲ってくれたり(笑)。

――思い入れのあるモビルスーツはありますか?
VaVa 連邦だったら、ガンタンク、ガンキャノンはけっこう好きですね。ジオンだと旧ザク。洗練されていない、武骨で兵器感が強いところもいいですし、ガンタンクやガンキャノンはできないことがはっきりしているじゃないですか(笑)。得意なこともあるけれど、わかりやすくできないこともあるのが人間っぽいなと思います。そういう部分に、自分のコンプレックスを投影してしまうところはありますね。「僕らと同じだな」みたいな。

――モビルスーツにも人間味を重ねてしまうところがある。
VaVa そうですね。シーンとしては、黒い三連星が登場したときはめちゃくちゃ怖くなりました。ジェットストリームアタックには戦慄をおぼえましたね。「アムロ、大丈夫か?」と思いましたけど、あそこで彼が覚醒していくのもいいですよね。

――『機動戦士ガンダム』以外のガンダム作品は見ましたか?
VaVa まだなんです。『機動戦士ガンダム』を見たときに、これは「腰を据えて見なければ」という気持ちが強くなって、安易に手が出せていない状態で。『機動戦士Zガンダム』や『機動戦士ガンダムSEED』に登場するモビルスーツはゲームで知ってはいるのですが……今後の人生の楽しみにしています。endmark

KATARIBE Profile

VaVa

VaVa

ラッパー/トラックメイカー

ヴァヴァ ラッパー/トラックメイカー、プロデューサー。BIM、in-dらが所属するクリエイターチーム「CreativeDrugStore」のメンバーで、気鋭のヒップホップレーベル・Summitに所属する。これまでにソロとして3枚のフルアルバムをリリースしており、最新作は今年6月に発売された『VVARP』。『オッドタクシー』では、PUNPEE、OMSBとともに劇伴音楽を手がけている。

あわせて読みたい