Febri TALK 2023.02.08 │ 12:00

VaVa ラッパー/トラックメイカー

②他人の人生を知る面白さを知った
『CLANNAD』

ラッパー/トラックメイカーであるVavaに、人生に影響を与えたアニメ3作を聞くインタビュー連載。第2回でピックアップしたのは、「泣きゲー」として知られる恋愛アドベンチャーゲームを原作とした『CLANNAD(クラナド)』。ゲームもプレイしているVaVaは、人と人との絆が描かれるこの作品を通して、他人の人生を知る楽しみを知ったと語る。

取材・文/森 樹

みんな辛くて悲しい過去を抱えて生きている

――2本目は、恋愛アドベンチャーゲームを原作とする『CLANNAD』ですが、Vavaさんはゲームからプレイしたのでしょうか?
VaVa 最初はゲームをプレイしました。ネット上に「CLANNADは人生」という有名なキャッチフレーズがあるのは知っていたのですが、逆張りの精神というか天邪鬼な部分があって、これまではあえてやってこなかったんです。ただ、僕も大人になって、世間が評価する作品に理由があることがわかってきたので、ちょっとプレイしてみようとなったのが最初ですね。

――泣けるゲームとして知られていますよね。
VaVa そうですね。内容は、現状を退屈に思っている主人公が、さまざまなタイプの女性と出会って――みたいな恋愛ものの王道展開で。幻想的なシーンもありますけど、大げさなことは何も行われていないはずなのに、気づいたらポロポロと泣いている自分がいました。普段はまったく泣けない人間なので、悲しくても寂しくてもそれが泣くという感情に結びつくことがなかったのですが、『CLANNAD』は泣きました。自分で涙を拭っていたのに気づいて「うわ、マジか!」みたいな(笑)。ゲームでボロボロ泣いたから、アニメも見てみようと。それが『機動戦士ガンダム』と同じ時期、4年前くらいの話ですね。

――ゲームは恋愛ものも含めて、幅広くプレイしてきたのでしょうか?
VaVa 僕はRPGだけでしたね。世界に蔓延(はびこ)る悪を倒す主人公、みたいな壮大な世界観のゲームが好きなんです。『CLANNAD』のような、読み物がメインで選択肢を選んでいくサウンドノベル系は、RPGにハマっていた当時の僕からするとゲームだという感覚がわからなかった。だけど、そうした作品の面白さを教えてくれたのが『CLANNAD』でもありますね。RPGと違って、基本的に僕らが日々暮らしている日常と同じような世界観で進むじゃないですか。

――『学園編』は、主人公たちの学生生活がメインで描かれていますからね。
VaVa 『CLANNAD』を見て思ったのは、いわゆる偉人と呼ばれる人たちは、その人生を本だったり美術館だったりで振り返ることができますよね。だけど、たとえば、この記事を読んでいる人や満員電車の目の前にいる人、商店街で買い物しているおばちゃんにも、楽しくて美しいだけじゃない、辛くて悲しい過去もあったはずで。みんなそうした過去を抱えて今を生きているんだという事実をあらためて実感しました。大きな物語の中では主人公にはなれず、モブキャラのひとりだったかもしれないですけど、そういった普通の人の人生に対してものすごく興味を持つきっかけになりましたね。

――市井(しせい)の人々に思い入れを持つきっかけになったと。
VaVa それはラッパーとしての僕のポジションが異端だということも関係があるかもしれません。海外でヒップホップと言えば、お金と女の子とドラッグとお酒が大きなテーマになっていて、そういうものに憧れはありつつも、自分の人生がそうではなかったから同時に違和感もあるんです。だから、結局、ヒーローとして描かれていない、モブキャラっぽい人たちに共感してしまいますね。『CLANNAD』に登場する女の子たちも、過去を振り返るなかでけっこう辛い生い立ちが明かされていきますが、あくまで普通の高校生として描かれているので。

「CLANNAD=人生」という言葉の意味を理解できた

――Vavaさんは、自分は主人公ではないという意識が強いのですね。
VaVa そうですね。僕は中学~高校と引きこもりみたいな感じだったので、つい最近まで「自分さえどうにかなればいいや」という考えだったんです。お酒は好きですけど、他人に興味がなかったから、居酒屋で何時間も飲んで語り合っている人の意味がわからなかった(笑)。でも、「これはお酒を飲んでいるだけじゃなくて、飲んでいる相手の人生を知る機会になっているんだ」という当たり前のことを『CLANNAD』を見たあとに気づいたし、他人の人生を知っていくことの面白さを実感しました。

――『CLANNAD』の場合は、ヒロインごとにしっかりとしたストーリーがありますからね。
VaVa アニメ版ではそれをどのように表現するのか心配なところもありましたけど、物語の展開については腑に落ちるところがありましたね。当時の流行りの絵柄なので、パッと見で苦手意識がある人もいると思うのですが、そういう人ほど見てもらいたいと思わせる普遍的で素晴らしい作品だと思います。

――アニメでは本編となる「学園編」のみならず、「アフターストーリー」も含めて見たのでしょうか?
VaVa もちろんです。『CLANNAD』はアフターストーリーも込みでひとつの作品だと思いますし、大好きですね。あのクライマックスまで見て、ようやく「CLANNAD=人生」という言葉の意味を理解できました。お子さんを育てている友人から「(子育てで)もう一度人生をやり直している感じがする」という話をよく聞くんですけど、子供も妻もいない僕からすると、それは「『CLANNAD』を見ているときに思った感情に近いのかな」と感じています。

――ちなみにVavaさんには「渚」という曲があって、選択肢にまつわるリリック(歌詞)も出てきますけど、これは『CLANNAD』のヒロインである古河渚をモチーフにしているのでしょうか?
VaVa あ、それはまったく関係ないですね。当時はまだ『CLANNAD』を知らなかったので、そこは偶然が重なった感じです。ただ、選択肢の話もそうですけど、『CLANNAD』に思い入れを持つような感性は当時からあったんだと思いますね。endmark

KATARIBE Profile

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ラッパー/トラックメイカー

ヴァヴァ ラッパー/トラックメイカー、プロデューサー。BIM、in-dらが所属するクリエイターチーム「CreativeDrugStore」のメンバーで、気鋭のヒップホップレーベル・Summitに所属する。これまでにソロとして3枚のフルアルバムをリリースしており、最新作は今年6月に発売された『VVARP』。『オッドタクシー』では、PUNPEE、OMSBとともに劇伴音楽を手がけている。