Febri TALK 2022.11.30 │ 12:00

山口貴之 音響監督/録音調整(ミキサー)

②歌を物語に寄り添わせた最初の作品
『覆面系ノイズ』

数々の作品でピーキーな音響を支える腕利きのミキサーであり、また『うたわれるもの 二人の白皇(ハクオロ)』などの人気作で音響監督としても活躍する山口貴之。そのキャリアを振り返るインタビュー連載の第2回は、バンドものアニメでの、こだわりの音作りを語る!

取材・文/前田 久

「音楽を汚すけどいいですか?」と聞いたら、大いに乗ってくれた

――2作目は『覆面系ノイズ』です。イノハリ(in no hurry to shout)というバンドの物語を描いた作品ですが、この作品を選んだ理由は?
山口 この作品には音響監督として関わったのですが、お話が来たときは『マーメイドメロディー ぴちぴちピッチ』の頃とは状況が変わっていて、「歌もの」のアニメが数多く作られるようになっていたんです。そうした状況でどういう音響演出をするのがいいのか、いろいろと考えた結果、当時「歌を歌として見せる」作品はすでにたくさんあったので、それに対して「歌を物語に寄り添った形で見せる」アニメを作ろうと思いました。ミュージカル作品とまではいかないものの、日本のアニメでしかできない形で、歌を物語に寄り添わせることにチャレンジした作品が、『覆面系ノイズ』だったんです。

――具体的にはどんな工夫をしたのでしょう?
山口 音源をそのまま使わず、たとえば、ライブシーンでは音の響きをライブ会場で鳴っているように調整して、さらに客席からの歓声を混ぜたり、モノローグも入れてしまう。音楽を舞台装置というか、ドラマを引き立てる小道具のように使っているんです。使っている楽曲は現実にもリリースされているけれど、アニメを見ているあいだは、あくまで作品の世界に存在するバンドが発表した楽曲として、現実からフィルターを一枚介して違う世界に根付いているように感じてほしいというか……説明するのが難しい感覚ですが、そんなことを考えていました。

――音源を大きくいじるということは、楽曲制作側のスタッフとのすり合わせが大変だったのでは?
山口 この作品は当時ワーナーにいた澤田圭一郎さんというプロデューサーが、映像と音楽の両方を仕切っていたんです。これはけっこう珍しい形なのですが、そうした事情もあって、映像と音楽が別々のプロデューサーだと頼みにくいことを相談しやすかったんです。しかも、澤田さんは「音楽を汚すけどいいですか?」と聞いたら、大いに乗ってくれて。実際に音楽を制作されるNARASAKIさんも、まったく問題にしなかった。だから臆することなく、原音がわからなくなるぐらいエフェクトをかけたり、がっつり電気的なノイズを混ぜたり、他のアニメーションではありえないぐらい音楽を汚させてもらったんですよ。ディストーション(音の歪み)は当たり前で、ギターをアンプにつないだみたいな音をあとから足しています。技術的にも新しいことをした記憶がありますし、それが演出に乗ったとき、そこで描こうとしていた感情が映像になじんだ記憶もありますね。その辺はすごくうまくいったなぁ、と。

シンプルだけど新しい曲に

――そもそもイノハリ(in no hurry to shout)は楽曲も演奏も最高でした。
山口 ですね。NARASAKIさんの書いてくれた曲が、そもそもすごくよかった。プログレっぽい音楽を作らなきゃいけないところがあって、「シンプルだけど、新しくないとダメなんです」とオーダーしたら、まさにその通りの曲を書いてきてくれたのには驚きました。早見沙織さんのボーカルも、ご自身名義の音楽活動ではああいう曲って、当時はあまり歌っていなかったと思うんです。それがまた、すごく新鮮で。曲自体もとても心に残っていますし、作り手として工夫したことも心に残っていますし、楽しい作品でしたね。「普通のアニメと違うぞ」みたいな雰囲気をずっと最後までまとっていた作品で、髙橋秀弥監督はすごいなぁ……と出来上がった映像を見ながらいつも思っていました。

――音と映像のマッチングでいうと最終話が圧巻なのですが、あの最終話のボーカルは加工でどうにかしているんですか?
山口 いえ、あれはアニメのためにボーカルトラックを新しく収録させてもらったんです。感情ラインに乗っけたテイクがほしいので、アフレコをやったあと、その足で近くの音楽スタジオに行ってもらったんです。そこに僕も付いていって、音楽のディレクターさんが後ろにいるなかで、僕がディレクションして録りました。

――なんて贅沢な。
山口 それもあって、僕の中では完全にミュージカルというわけではないものの、半分くらいはミュージカルなんですよね。感情がシームレスに歌に乗ってほしかった。その目標を、日本のアニメの制作フォーマットに乗っけて、なんとかやろうとした作品です。その狙いという意味では、ベストな音声と歌の録り方をしたんじゃないかなと思っていますね。ちなみに、じつは歌だけではなく、ギターも録り直してもらっているんですよ(笑)。

――ええっ!? そこまで?
山口 「このシーンでは弾いている人の感情がブレているので、弦をきれいに押さえてほしくないんです」と言ったら、わざわざ用意してくださったんです。そうしたことにこだわり抜いたのは、原作が少女マンガなのも大きかったですね。やはり少女マンガは心情の揺れ幅が細やかなんです。その繊細さは、お芝居は当然として、そのまわりの要素全部で支えていかないと出せない。そのあたりをミュージカル的な手法を駆使しながら突き詰めた、僕にとって思い出の作品です。endmark

KATARIBE Profile

山口貴之

山口貴之

音響監督/録音調整(ミキサー)

やまぐちたかゆき 1977年生まれ、千葉県出身。株式会社もぶわぶ代表。関わった主な作品に『エロマンガ先生』『ブルーサーマル』『夫婦以上、恋人未満。』(以上「音響監督」)、『PSYCHO-PASS サイコパス』『シドニアの騎士 あいつむぐほし』(以上「録音調整」)など。

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