Febri TALK 2022.05.23 │ 12:00

吉野弘幸 脚本家

①「僕たちのアニメ」と感じた
『超時空要塞マクロス』

数々の人気アニメで脚本を手掛け、またアニメ化もされた『聖痕のクェイサー』をはじめ、マンガ原作者としての顔も持つ吉野弘幸が影響を受けたアニメを語る全3回のインタビュー連載。初回は代表作のひとつ、『マクロスF』につながる歴史的作品の体験を語る!

取材・文/前田 久

この作品と出会って、人生で最初に道を踏み誤った

――1作目は『超時空要塞マクロス(以下、マクロス)』ですが、選んだ理由は何でしょう?
吉野 人生でいちばんどハマりした作品ですね。家にビデオデッキが来てから初めて第1話から全話録画して、繰り返し見た作品でした。

――ビデオテープの値段がまだ高い時代ですよね。
吉野 高かったですねぇ。一生懸命買いましたけど、それでも3倍モード録画でした(笑)。作品の向こう側に、初めて「人」を意識した作品だったんですよね。『マクロス』は各話の作監(作画監督)さんによって絵のばらつきがあったので「やっぱり美樹本(晴彦)さんが入ると絵がカッコいいな!」みたいに自然と意識するようになりました。

――それ以前のアニメ体験はどんな感じだったのでしょう?
吉野 1970年生まれなんですが、1974年放送の『宇宙戦艦ヤマト』は見ていなくて、劇場版(1977年)はリアルタイムで見ています。『アニメージュ』の創刊号も買っていました。その後、ガンプラブームにも乗りましたけど、『機動戦士ガンダム』に最初に触れたのはおそらく再放送からで、映画にも行きました。でも、『ヤマト』も『ガンダム』も、少し乗りきれない部分があったんです。後追いでブームになってから乗ったものだったから。『マクロス』は「アニメーション研究同好会」みたいなものに入っていた姉から「すごいアニメが始まるらしいよ」と放送前に情報を聞いて、だから最初からビデオで録って見ようと決めていたんです。そうやって最初から乗れたのも、ハマった理由として大きいと思います。

――もうすでに「名作」「人気作」として世間の評価が固まっているものと、ゼロから見つけた作品だと感覚が違いますよね。
吉野 そうそう。同時代感というか「これが僕たちのアニメなんだ!」という感覚があって、当然『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』も劇場に見に行きましたし、ガンプラ以外のアニメのグッズを初めて買いました。人生のどこで最初に道を踏み誤ったかと考えたら、ここなんですよね(笑)。

主役ロボットが

戦略に合わせて3形態に

シームレスに変形するのは

今でもそんなに見ない表現

――アニメは子供のもの、いつか卒業していくものという意識がまだ強い時代に、深入りするきっかけになった。
吉野 VF-1 バルキリーが破綻なく変形する、しかも「変形をためない」ところもよかったんですよね。それまでのロボットアニメは変形や合体そのものが見せ場だったのが、『マクロス』では戦略にあわせてファイター、ガウォーク、バトロイドの3形態にシームレスに変形する。これって今でもそんなにない表現です。そういうところがそれまでのロボットアニメに不満を抱えていた自分にものすごく突き刺さったんだろうなと。コン・バトラーVのおもちゃで、合体させるとパーツがあまるのが許せない子供でしたから(笑)。

――アニメとおもちゃで同じ変形ができるのは、子供にとっては一大事ですよね。
吉野 そして……これも重要なことですが、ミンメイか未沙かでいうと、僕は未沙派でした(笑)。

――たしかにそこも大事ですね(笑)。子供心に未沙のどんなところが魅力的だったのでしょう?
吉野 ミンメイって、ちょっと浮気な感じで描かれているじゃないですか。やっぱりオタクの素養があったから、美沙みたいに「僕だけを見ていてくれそうな子」が好きだったんでしょうね。あまり分析したことはなかったですが。とはいえ、今、あらためて考えるとミンメイのほうがかわいいかなと思います。……だって未沙ってめちゃくちゃ面倒くさそうじゃん!!(笑)

――重いですよね(笑)。そんな思い入れのあるタイトルのシリーズ作『マクロスF』に参加したときは、どんな気持ちだったのでしょうか?
吉野 その前に『機動戦士ガンダムSEED』の脚本をやっていたので、「自分が育ててもらったものに手をつける」覚悟は出来上がっていました。オリジナルスタッフの河森正治さんが総監督として立たれていたので、それだけで『マクロス』になるのは確実でしたし、僕は『マクロス』が好きな人間として、あえて『マクロス』っぽくないことをしようと考えて参加しました。富野由悠季監督と組んだことのある大河内一楼さんに相談したら、「戦え!」とアドバイスをもらったのも大きかったです。相手は自分よりもずっと上にいる存在で、いろいろな経験をしているので、自分たちみたいな若造はいかに監督の言いなりにならないで抵抗し続けるか、どこまで戦い続けられるかが勝負だ、と。「わかった! 俺も河森さんと戦うよ!」と答えて、少なくともTVシリーズは戦いきれたと思っています。

――来年(2023年)には15周年を迎え、今でも根強いファンがいるタイトルですが、吉野さんにとって『マクロスF』はどんな意味を持つタイトルになっていますか?
吉野 当時、一生懸命VHSのビデオテープを巻き戻しながら見ていた自分に「お前は25年後、バルキリーを描いた河森さんと新しい『マクロス』を作るんだぞ」と伝えたら、本当に驚くでしょうね。河森さんとお仕事を一緒にしてみたい、バルキリーを飛ばしてみたいという漠然と抱いていた夢がかなった作品です。だから終わった今でも、いまだに夢心地というか。しかもシェリルとランカは去年も『劇場短編マクロスF ~時の迷宮~』で映画に出てきて、自分が作ったヒロインたちの中でも抜群に長生きです。ありがたいですね。これはもちろん僕だけの力ではなくて、菅野よう子さんの楽曲だとか、いろいろなものの巡り合わせがよかったおかげです。endmark

KATARIBE Profile

吉野弘幸

吉野弘幸

脚本家

よしのひろゆき 1970年生まれ、千葉県出身。脚本家。シリーズ構成を手掛けた主な作品に『舞-HiME』『マクロスF』『ギルティクラウン』『ストライク・ザ・ブラッド』など。また、マンガ原作者として『聖痕のクェイサー』『神呪のネクタール』などの作品がある。現在、シナリオを手がける漫画『機動戦士ガンダム ラストホライズン』が連載中。

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