Febri TALK 2022.05.25 │ 12:00

吉野弘幸 脚本家

②ロボットアニメの教科書
『新世紀エヴァンゲリオン』

『マクロスF』『ギルティクラウン』などの人気作で知られる脚本家・吉野弘幸が影響を受けたアニメを辿る、全3回のインタビュー連載。第2回は、一度離れていたアニメに戻るきっかけになった大ヒット作を語る。もちろん、その影響が色濃く出たデビュー作の話題も……。

取材・文/前田 久

自分のキャリアのトリガーになった作品

――2本目は『新世紀エヴァンゲリオン(以下、エヴァ)』です。こちらはどういった理由で選んだのでしょうか?
吉野 アニメに戻ってくるきっかけになった作品です。僕は大学に入ったタイミングでアニメをぱったりと見なくなったんですよ。手品サークルに入って、手品と麻雀にのめり込んだ。同じサークルに初回に名前を出した大河内一楼さんと、のちにカプコンで『逆転裁判』を作る巧舟(たくみしゅう)もいて、当時、大河内さんが富士見書房でバイトをしていたのは知っていたけれども、アニメの話を大学時代にしたことは一度もなかったですね。大学を卒業したあとは出版社に入ったものの女性誌の編集部に配属されたので、二度とアニメとは関わらないだろうと感じていました。子供の頃に僕とアニメの接点を作ってくれた姉も、社会人になって彼氏ができたりするとオタク的素養をまったく失っていたので、「自分もこんな風になるのかな」と。

――90年代だとまだオタク趣味を「卒業」する空気がありましたよね。
吉野 ところが、いろいろあって出版社をあっという間に退職したとき、大学時代にできた唯一のオタクな友達から「吉野氏!」――彼はフィクションに登場するような、知り合いを「○○氏」と呼ぶタイプのオタクだったんですが(笑)――「今、『新世紀エヴァンゲリオン』というアニメが壮絶にアツいのですよ! これは見なければダメですよ!」と言われまして。会社を辞めて暇だった僕は、素直にそれに従ったわけです。最初に見たのは1996年の1月……第拾七話「四人目の適格者」だったような気がします。とにかく言われた時間にテレビを点けたら、なんだか今までのアニメとは違うものを感じました。『トップをねらえ!』は見ていたので、「あの作品のスタッフたちが作っているんだ」という感覚はあったんですけどね。それで続けて見るようになって、あとで第1話からちゃんと見て、がっつりハマったんです。自分の中のオタク心が久々に沸き立つのを感じて、熱中しました。

――まさに「戻ってきた」。
吉野 ちょうどその頃、姉の友人で僕にとっては高校・大学の先輩にあたる人が『アニメージュ』の編集者をやっていたんです。彼女と話す機会があったときに『エヴァ』の話題を出したら「編集の経験があってアニメも詳しいなら『アニメージュ』の仕事をしない?」と言ってくれて、そこからライターの仕事を始めて、さらに転がっていって、気がついたら脚本家になっていた。そうしたキャリアの第一歩というか、トリガーになってくれた作品でもあります。

1話ごとのエピソードの面白さや

今までのロボットものにはない

敵の存在の新しさが響いた

――作品の何が深く響いたのでしょう?
吉野 『機動戦士ガンダム』以降、ロボットもののターゲティングする年齢層は上がりましたが、それでもやはり子供を狙いに行きがちだったんです。そんななか、そこを全力で振りきってハイエンド層を狙っていた。衒学(げんがく)的な単語を散りばめて、ロボットものではあるけれども神話ものとしても組み立てられていて、さらにはベッドシーンもある。そもそもプラグスーツがエッチですよね(笑)。

――冷静に眺めるとかなりセクシーな衣装ですよね。
吉野 もちろん、単純にエヴァンゲリオンがロボットアニメの主役機としてカッコいいというのもありました。ただ、これは脚本家になったからこその後付けの目線かもしれませんが、『エヴァ』という作品があそこまでウケた原因、自分にも響いた最大の理由は、中盤の1話完結のロボットものとしての面白さだったように思います。伏線が前半で張ってあって、ピンチがあって、キャラクタードラマがあって、そして伏線を回収する形で逆転する。第拾話の「マグマダイバー」なんて、脚本の教科書に載せたいくらいに綺麗に作られていますよ。そういう1話ごとのエピソードの面白さ、楽しさや、今までのロボットものにはなかった敵の存在の新しさが大事だったんじゃないかなと。……あ、ちなみに僕は、アスカ派でした(笑)。

――質問しようと思っていたら、先にありがとうございます(笑)。やはり『エヴァ』ファンの方にはレイ派かアスカ派かは聞きたくて。
吉野 アスカは登場回のインパクトがすごかったですよね。あと、レイはちょっと付き合うのが大変そうじゃないですか(笑)。オタクの男の子らしく受け身なところがあるので、引っ張ってくれる子のほうが良いなというのもあって、アスカ派でした。……でも、今だとどうだろう? レイを愛でるほうが楽しいのかなぁ。ミサトさんとリツコさんは絶対に嫌だなぁ……怖いので(笑)。

――自身が関わった作品の中で、『エヴァ』からもっとも影響を受けているのはどの作品ですか?
吉野 『GEAR戦士電童(以下、電童)』ですね。いちばん色濃く出ています。

――こう言ってしまっていいのかわかりませんが……やっぱり! 
吉野 日本中の電力を集めて敵を撃ったりしているしね!(笑) 『電童』は僕だけではなく、現場全体にそんな空気がありました。最近の作品ではさすがに薄れていると思いたいですが、『電童』に限らず、ロボットものをやるときはどうしても『エヴァ』の呪縛が強いですね。それくらい強烈な内容でした。endmark

KATARIBE Profile

吉野弘幸

吉野弘幸

脚本家

よしのひろゆき 1970年生まれ、千葉県出身。脚本家。シリーズ構成を手掛けた主な作品に『舞-HiME』『マクロスF』『ギルティクラウン』『ストライク・ザ・ブラッド』など。また、マンガ原作者として『聖痕のクェイサー』『神呪のネクタール』などの作品がある。現在、シナリオを手がける漫画『機動戦士ガンダム ラストホライズン』が連載中。

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