無限に続く日常ものにはならないようにした
――第9話の取り立て屋の退場には驚きました。
比企 中間管理職として頑張っていた取り立て屋が失敗するという裏ストーリーですね。いい意味での驚きになっていればうれしいですけど、そりゃそうなるよねというところもあります。
――そうだったんですね。第10話では末広さんから御徒町さんの存在につながり、第1話(「ブヒれ!今日からアキバの新人メイド!」)の冒頭1985年ともリンクして……いよいよクライマックスへ畳みかけていきます。毎話、本当に驚きの連続ですが、全体の構成でとくに気を配った点は何でしょうか?
比企 1話完結型のアニメだと自覚しつつも、話数と同時に物語の世界も進んでいくように、“無限に続く日常もの”にはならないように意識しました。
――和平なごみと万年嵐子、ふたりの関係も進んでいきますね。
比企 最初に決めた物語の着地点へ向けて、現状維持の回を作らず、必ず変化させています。第4話(「実録!豚の調教師だブ!!」)では、なごみは「メイド楽しいですね」とシンプルに思っているし、嵐子はしぃぽんの「この腐ったアキバの中でも、楽しいと思える瞬間があるから」というセリフに共感する。ふたりのメイドに対する考えが徐々に近づいていく。第7話以降は、なごみが文字通り「いけいけどんどん」状態になり、嵐子は人を殺めることに疑問を持つようになって関係が逆転します。
――それで嵐子は御徒町さんを殺さないんですね。
比企 嵐子は15年前に敵対グループを襲撃して捕まったわけですけど、そのときに復讐は終わっているんです。美千代さんは大事だけど、復讐のためにアキバに帰ってきたわけではないし、第10話までの変化もあって、殺さないという選択肢を選べるようになったのかなと。
――そういう風にキャラクターの心情がつぶさに描かれているから、見るほうも納得できるんですね。どういう順番でキャラクターは立ち上がっていったんですか?
比企 僕が入ったときにはなごみと嵐子はすでに決まっていた気がします。あとはチーム感と任侠っぽさを考えてゆめち、しぃぽん、ゾーヤの3人を配置していきました。それからダメなオジキ感を持ったキャラクターとして店長がいて、あとラーメン屋の大将も最初からいました。昔を知っているキャラクターということと、とんとことんメンバーが気合いを入れる場所が店外にもあると面白いよね、というのも手伝って生まれたのが1階のラーメン屋の大将です。
――ラーメン屋と大将のモデルはあるんですか?
比企 最初に取材させていただいたメイド喫茶の1階がラーメン屋だった気がします。誰も気づいていないと思うんですけど、大将ってドラマ『HERO』のバーのマスター(演・田中要次)をちょっと意識していて。あのマスター、何を聞かれても「あるよ」って答えるんです。だから大将の最初のセリフは「ねえよ」にしました。
――なるほど(笑)。ラーメン屋は盃を交わす場所にもなりますね。
比企 第6話と第7話(「獣抗争史!秋葉外生命体血戦!!」)、米内山(陽子)さんの脚本回ですね。第6話で愛美と嵐子が出会ったラーメン屋で「変わっちゃいけない、変えちゃいけないものがある」という話をしつつ、第7話で「じつはけっこう味を変えてんだよ」という大将の言葉が、なごみの奮起するきっかけにもなったりとラーメン屋の使い方がめちゃくちゃ上手です。
真面目に生きているだけのメイドたち
――比企さんが造詣にこだわったキャラクターはいますか?
比企 店長ですね。女の子だけのお店で仕事をするなかで、本物のクズ、笑えないクズ、愛でられないクズがほしいなというのがあったので。
――はははは。
比企 店を背負っている自覚があるからけっこういいことを言おうとするし、自分はクズだと思っていないところもすごく好きです。というか、店長のおかげで他のメンバーの悪行もマイルドになっていますよね。
――お気に入りのキャラクターも店長ですか?
比企 それでいうと、しぃぽんか愛美ですね。しぃぽんは第4話(比企脚本回)で芯の強い部分を書かせてもらったのもあって思い入れがあるし、「あーしはこのメイクが最強で最高なの」というセリフも好きです。愛美は、音で聞いたときの広島弁のかっこよさ! もうそれで好きになっちゃいました。
――すごくわかります。さて、第10話まで放送されました。ここまで見ていかがですか?
比企 やっぱり面白いなあと思います。詰め込んだアイデアの量は他のアニメと比べても一線を画しているんじゃないかという自負があったんですけど、絵で見るとあらためて驚かされますね。みんなでアイデアを出し合ったのは楽しい記憶です。思えば、主人公たちをブタに、他のメイドたちを別の動物に、というアイデアも第1話の脚本を脱稿した時点ではまだなくて、みんなで考えました。その動物のモチーフが全体でうまくハマッたなと思っています。
――いよいよ放送は第11話と第12話を残すのみとなります。
比企 そうですね。僕としてはどちらも最終回のつもりで書いたので、そのつもりで見てほしいです。キャラクターたちは一見ふざけているようですが、全12話を通すと、じつは必死に、真面目に生きてきただけというところがわかるんですよね。そこがすごく好きです。そして最後はやっぱりキャッチコピーにもなっている「萌えと暴力について」。そのひと言に尽きるかもしれません。
- 比企能博
- ひきよしひろ 株式会社ピタ所属。東京都出身。脚本、マンガ原作、映画監督。主な作品に『ナリカワリ』(マンガ原作)、『混血のカレコレ』(原作・YouTubeアニメ脚本)など。TVアニメの脚本・シリーズ構成は『アキバ冥途戦争』が初となる