TOPICS 2024.06.25 │ 18:00

『響け!ユーフォニアム3』
黒沢ともよに聞いた久美子の3年間①

吹奏楽青春アニメ『響け!ユーフォニアム』シリーズのTVアニメ第3期『 響け!ユーフォニアム3』が4月より放送中。高校3年生となり、吹奏楽部部長として悲願の全国金賞を目指す黄前久美子の奮闘を中心に、さまざまなキャラクターたちのドラマが描かれている。残すところ最終話のみとなり、ファンの盛り上がりも最高潮に達しているなか、今回は久美子を演じる黒沢ともよさんのインタビューを前後編でお届け。前編は、キャラクターの成長や関係性の変化を中心に聞いた。

取材・文/岡本大介

じっくり丁寧に描かれた久美子の3年間

――最終章となる第3シーズンですが、どんな気持ちで収録を迎えましたか?
黒沢 3年生編の制作が発表されたのは2019年。それからいろいろなことがあっての今回だったので、終わっちゃうんだなという寂しさはありつつも、ここまでたどり着けてよかったという気持ちのほうが強かったですね。自分の気持ちがどうこうよりも、とにかくシンプルにいいものにしたいなと思って収録に臨みました。

――久美子も3年生となり、部長を務めるまでに成長しました。この3年間の久美子の変化や成長はどう感じていますか?
黒沢 受け身だった久美子が、麗奈という「劇薬」のような存在を取り込んだことで激しく沸騰して、そのあとで次第に自分が生きやすい温度を見つけていく様子がじっくりと丁寧に描かれた3年間だったんじゃないかなと思います。

――部長としての奮闘も印象的ですね。
黒沢 祭り上げられると、それ相応に振る舞えるというのは彼女の得意技ですよね。まあ、熱しやすく冷めやすいので、その状態が長続きするかどうかはまた別物なんですけど(笑)。

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

――黒沢さんが久美子の立場なら、どのように振る舞いますか?
黒沢 部長に選ばれたらですか? うーん、やっぱり久美子みたいになるんじゃないですかね。麗奈はもちろん、葉月も緑輝(さふぁいあ)もスペシャルでファンタジックな存在だと思うんですよ。その中で久美子はどちらかといえば主体性がなく、多くの人が感じることをそのまますくいあげて言ってくれるタイプ。私もそこは共感できますし、なるべくその場を円滑におさめようって振る舞うと思います。

――今シーズンはキーパーソンとして黒江真由が新登場しました。久美子と真由の関係性については、どう思っていましたか?
黒沢 私個人の感覚としては、久美子と真由は「対立」というよりも、単純に出会うタイミングが悪かっただけなのかなと思っています。久美子は最後の大会に向けて自分の演奏技術を磨きつつ、部長としていろいろな問題に対処し、かつ卒業後の進路に悩んでいるという状態。そんな久美子からすると「今はそういう話はいいよ」とか「ちょっと大人しくしていてくれる?」っていう感じ。手いっぱいすぎて、真由としっかり向き合ったり、彼女の気持ちを慮(おもんぱか)るだけの余裕がないだけなのかなと。ただ、映像ではわりとしっかりと久美子が怒っている表情が描かれていたりもして、よりわかりやすい対立構造になっていたんですよ。石原(立也)監督の中の久美子像はそっちなのかと思い、お芝居はそちらに寄せていきました。

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

――真由のキャラクター像はとても絶妙なので、感じ方は人それぞれかもしれません。黒沢さんは真由についてはどんな印象を持ちましたか?
黒沢 じつは最終話の収録が終わったあと、石原監督から「真由のこと、嫌いになりましたか?」って聞かれたんです。彼女は演出的なミスリードも多いですし、たしかに見る人によって受け止め方は違うかもしれませんけど、その質問って裏を返せば「でも、嫌いにならなかったですよね?」という監督の自信の裏返しのような気もして(笑)。実際、私は最初から真由のことは嫌いじゃないし、むしろ共感できるくらいでしたね。

――久美子自身も、真由は自分と似ていると感じていましたね。
黒沢 私も、真由は属性的には久美子と同じだと思います。出会い方はよくなかったけれど、最終的には仲良くなるんじゃないかなとさえ思っているんです。これは完全に私の妄想ですけど、社会人になってもちょこちょこ会っていて、お酒を飲みながら「あのときはウチらが仲良くなるなんて思わなかったよね」と言いあってそうだなって(笑)。

久美子と麗奈の「ゆるやかな別れの物語」

――本作の大きな柱でもある、久美子と麗奈の関係性の変化についてはいかがですか?
黒沢 これは見てくださった方、それぞれに想像していただきたいですし、私が断言できることでもないんです。だからあくまで私の意見にはなりますが、今回のシーズンで感じたのは「ゆるやかな別れの物語」なのかなっていうこと。第9話での橋の上での喧嘩が決定的で、あの瞬間から久美子は学生から大人への道を歩き始めて、麗奈は学生のまま、そしてプロの道へと歩き始めたのかなと感じています。第11話では和解してハグをしたり、あらためて麗奈に「特別」と伝えたりもしましたけど、久美子的にとっては橋の上で「特別」な時期はもう終わっていて、そのあとは麗奈のことをなだめているような気もするんです。

――そういえば、以前のインタビューで「麗奈はちょっとめんどくさい彼女のようなもの」と言っていましたね。
黒沢 そうそう。ふたりが同棲中だとしたら、久美子はもう別れることを決めていて、ただ部屋の契約更新まであと半年あるから2カ月前までは黙っておこう、みたいな(笑)。

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

――心変わりしたのは久美子のほうなんですね。
黒沢 そうですね。麗奈は最初から何も変わっていなくて、最後まで久美子への気持ちを貫き通したような気がします。久美子的にも、なにも麗奈のことが嫌になったというわけではなく、それまでの「特別」が「共依存」のような異常な関係性であることに気づいて、それを健全な「友情」の方向にシフトさせようとしていたのかなとも思うんです。それは、大人になることを決断した久美子だからこそ気づけたことですし、久美子の成長でもあると思います。

――ファンからするとちょっとショックな解釈かもしれませんね。
黒沢 だから「どの神を信じるか?」ですよ(笑)。私はそう思って久美子を演じていましたけど、この解釈を石原監督と共有していたわけでもないですし、武田先生に確認したわけでもないですから。そこに正解はないと思うので、皆さんにはどうぞ自由に想像して楽しんでいただきたいなと思っています。

――ありがとうございました。後編ではここまでの振り返りと最終話の見どころを聞いていきます。
黒沢 お願いします。endmark

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024
黒沢ともよ
くろさわ ともよ 埼玉県出身。東宝芸能所属。幼少時より子役として活躍し、2010年に劇場アニメ『宇宙ショーへようこそ』(小山夏紀役)で声優デビュー。声優としての代表作は『アイドルマスター シンデレラガールズ』(赤城みりあ役)、『魔女の旅々』(サヤ役)、『アークナイツ』(アーミヤ役)などがある。
作品概要

TVアニメ『響け!ユーフォニアム3』
NHK Eテレにて 毎週日曜午後5時より好評放送中!

  • ©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024