TOPICS 2022.04.13 │ 12:00

Febri RECOMMEND
「週刊少年サンデー」の学園コメディの遺伝子を感じる 『古見さんは、コミュ症です。』

面白いマンガをアニメ化すれば、そのまま面白いアニメになる……とは限らない。そんなことはご承知の方が多いでしょうが、しかし、それってなんででしょう? ここ最近の「面白いマンガ原作アニメ」を代表する一作、TVアニメ『古見さんは、コミュ症です。』を題材に、あらためて考えてみたい。

文/前田 久

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

マンガとアニメの違いを踏まえた巧みな映像表現

古見さん、サイコー。黒髪ロング無口清楚系美人スタイル抜群魅惑の黒スト(黒ストッキングの略)、字も綺麗。あんまりしゃべんないけど声もかわいい。性格も優しくて繊細。只野くんに恋する乙女っぷりもキュンキュンしちゃう。好きだ。

というわけで、この説明にピンときたら見てください。1期から見るのがベストだけれど、単話完結型のコメディだし、基本設定も「人とうまく話せない極度の人見知りである古見硝子(こみしょうこ)さんが、高校入学をきっかけに友達を100人作ろうとするのを、クラスメイトの平凡過ぎるほど平凡な少年である只野仁人(ただのひとひと)くんがサポートするお話」くらいのシンプルなものだし、この春から始まる2期からいきなり見てもまったく問題ないと思います。脇役たちもアクの強い変人ぞろいでにぎやか。『うる星やつら』から脈々とつながる、「週刊少年サンデー」の学園コメディの遺伝子を感じる。

声優陣もはまり役ぞろいだ。少ないセリフで見ている人の感情をグッと持っていく古見さん役の古賀葵さんの破壊力たるや。只野くん役の梶原岳人さんのツッコミも冴えている。コミュ力おばけで学校の誰とでも「幼なじみ」な長名なじみ(そうそう、この作品、「名は体を表す」系ネーミングなのもわかりやすい)役の村川梨衣さんの中性的なしゃべくり芝居も強烈。ここに名前を挙げていない人たちだってスゴいぞ。2期を見たら、自然と1期も見たくなるんじゃないかな。じゃっ、そゆことで。さよなら!! アデュー!!

……ってな感じでこの作品の紹介は終わっていい気もするんだけれど、せっかく機会をいただいたので、もう少しアニメ『古見さんは、コミュ症です。』の魅力を語ってみます。

 マンガ原作のアニメを見ていて、原作と同じ構図、キャラクターも似せて描かれているのに、画面の収まり方に違和感をおぼえたことはないだろうか。その理由は、ひとつは「コマ」というフレームで伸縮自在に区切られたマンガと違って、アニメのフレームが一定であるからだ。テレビやモニタは伸び縮みしない。中にはフレームの中でフレームを区切ることで、マンガの「コマ割り」的な表現を映像で擬似的に再現している作品もあるが、それにも限度はある。そしてもうひとつの理由が、フキダシとオノマトペ(擬音)が、一般的にアニメでは描かれないからだ。どちらも通常、役者の声や効果音に置き換えられる。そもそもフキダシやオノマトペは、音を紙の上で擬似的に表現するためのものなので、音が使えるアニメでは、それで表現しようと考えるのが普通だろう。

しかし、フキダシやオノマトペがマンガに描き込まれる際には、キャラクターや背景とのバランスをとって配置される。つまり、それは単に音の代替表現ではなくて、絵の一部として構成されているのだ。だからそれを外したアニメでは、マンガとの違和感が生じてしまう。近年は、アニメでもフレーム内に擬音を描き込むことで、その違和感をクリアする作品も出てきた。ゴゴゴゴゴ……そこにシビれる! あこがれるゥ! ってなもんだが、『古見さんは、コミュ症です。』もそのパターン。そして、その処理が抜群にうまい。キャラクターを演じる役者のセリフ、効果音による通常の処理に加えて、カットによってはフキダシがドドンと、たしかな存在感を放ちながら画面に鎮座する。カットによってはパースがついていたりもして、明確に画面内のオブジェクト(物体)として扱われていることも。ナレーションにベテラン・日髙のり子さんが配されており、やろうと思えば日髙さんが名調子で読み上げることで処理できるものでも、ときにはあえてフキダシが画面内に配されている。それは冒頭に描いた“画面の収まり”を考えた判断だろう。

こうした工夫に加えて、映像の緩急も巧みだ。原作読者であれば、この作品のポイントが、ここぞというところで披露される、古見さんの繊細な表情をページぶち抜きで描いた大ゴマなことに同意してくれるだろう。先述したとおり、アニメはコマを変形させることができない。原作の小さなコマも、見開きも、同じサイズの画面に置き換えられるのがアニメという表現だ。そのなかで大ゴマのインパクトをどう表現するか。さまざまな工夫の仕方があるものの、基本的には映像の緩急、間のコントロールを適切にとることが大事で、これがまあ、この作品はうなるほどうまい。

原作の絵にある要素を、音にするか、絵にするか、それとも削るか。絵にするとしたら、それは作画か、美術か、はたまた撮影で貼り込むか。何をどういうマテリアル(素材)に置き換えることで表現しているのか。そしてコマの大小変形が生み出す緩急を、映像においてはどのように表現しているのか。何気なく見ても楽しめる作品だが、細部に注目しながら見ると、マンガとアニメの表現特性の違いについての理解をグッと深められる。2周目以降はそんな楽しみ方をしてみるのもオススメ。深く味わい尽くす価値のあるアニメです。endmark

作品情報

TVアニメ『古見さんは、コミュ症です。』2期
絶賛放送・配信中!

  • ©オダトモヒト・小学館/私立伊旦高校