TOPICS 2022.04.05 │ 12:00

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野次馬根性がくすぐられる! 『オッドタクシー』の魅力を考察

幾重にも仕掛けられた謎と巧みな会話劇が話題を呼び、SNSでの考察も大いに盛り上がったミステリー・サスペンスアニメ『オッドタクシー』。TVシリーズを新たな視点で再構成し、衝撃的な最終話の「その後」を描く『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』の上映が開始されたばかりだが、群像劇としての驚異的な完成度を誇る本作の魅力を、「タクシー」という舞台装置をモチーフに解説する。

取材・文/森 樹

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

タクシーという舞台装置を活かした、都会的で濃厚なミステリー

モラルが欠落した、狂気を孕んだ人物のことを「人間の皮を被ったケモノ」と評することがある。であるならば、さしずめ本作のキャラクターたちは「動物の皮を被った現代人」であり、そのかわいらしいデザインに「こんな話だとは」「騙された」と嘆く視聴者も多くいることだろう。少なくとも、『しろくまカフェ』の再来ではなかった。シリアスなヒップホップ・サウンドに彩られた、都会的で濃厚なミステリードラマだったのだから。現代の東京を舞台に、動物の姿をしたキャラクターたちがやたらとリアルな会話を繰り広げる群像劇『オッドタクシー』。アイドルとマネージャー(とそのおっかけ)、マッチングアプリに虚偽の年収を登録する40代独身男性、解散寸前の漫才コンビ、バズに執着する動画配信者、反社会勢力(と癒着を持つ警察官)、SSRのレアキャラに囚われる青年など、本来なら交わることがなかったであろう者たちが、とある女子高生が失踪した事件を機に「赤の他人」から「容疑者」へとラベリングされていく。失踪事件の真相を知るのは誰なのか――その答えを巡って物語が展開していくスリリングな構成となっており、最終話に向けてジワジワと上がり続けるテンション、重要な謎が見事に解き明かされていく気持ちの良い伏線回収など、幾度も作品を見直したくなる仕掛けが随所に施されている。

そんな赤の他人たちを集約する重要な舞台装置として機能しているのが、セイウチの姿をした主人公・小戸川 宏(おどかわひろし)が運転するタクシーだ。よく考えてみれば、タクシー自体がスリリングな商売である。赤の他人を偶発的な出会いから車内に招き、目的地までの一定時間を同じ密室空間で過ごさねばならない。もちろん、運転手は相応の金銭を得るわけだが、素性を知らない者と時をともにするのは、いつだって緊張感が伴うものだろう。『オッドタクシー』では、小戸川のタクシーにさまざまなキャラクターが乗車する。乗客との他愛のない会話を交わすなかで点と点がつながり、小戸川(と視聴者)は、客の素性を少しずつ知り、じりじりと失踪事件の真相に迫っていく(そして、小戸川本人はガッツリ当事者として巻き込まれていく)。興味深いのは、素性を知らないゆえの緊張感だったはずが、小戸川を通してそれぞれの素性が明らかになるにつれて事件の気配が強くなり、さらに緊張感が増していくことだ。それは膨大な情報に翻弄されがちな現代人に対する風刺のようにも見えるし、そこから正解だけを選び取ることの難しさも同時に語られているように思える。

そんな現実と地続きの『オッドタクシー』の世界を、視聴者である我々は小戸川の「視点」でラストまで駆け抜けることになる。唯一、差異があるとすれば、小戸川は当事者であり、危ない橋を渡ることになるが、ありがたいことに我々は傍観者でしかない。当事者ではないトラブルや厄介事に対し、どうしても惹かれてしまい、ああだこうだと野次馬根性を発揮してしまうのは人間の性(さが)である。そんな人間の性と、謎を解明したいという原始的な欲求を本作は十分に満たしてくれる。そして、何度も繰り返し、その世界の住人に会いたくなるのだ。「あのとき、彼(彼女)は、何を考えていたのだろうか」と。
ヘイ、タクシー。次は映画館まで。endmark

作品情報

『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』
大ヒット公開中!

  • ©P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ