TOPICS 2021.07.22 │ 12:00

異色アニメ『オッドタクシー』はこうして作られた
メインスタッフ座談会③

最終話までさまざまな謎が緻密に展開され、じわじわとバズが広がった『オッドタクシー』。主要スタッフがその制作経緯を語る座談会の第3回は、本編をさらに魅力的にしたサブコンテンツの存在や、放送が始まってからのリアクションについて。想い入れのあるキャラクターなども交えて語ってもらった。

取材・文/森 樹

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

ほんの一瞬ですけど『オッドタクシー』を嫌いになりかけました(笑)

――作品全体の話に戻ると、本編の他に『Quick Japan』で前日譚が書き下ろされていたり、YouTubeで各話の間を描くオーディオドラマが配信されていたりします。こういったメディアミックスの展開は当初からあったのでしょうか?
此元 いや、じつはなかったんですよ(笑)。
平賀 脚本を上げてもらったあとに、前代未聞の量の書き下ろしを此元さんにお願いしています(笑)。作品の評判が良くて「ウチでも何かできないか?」とメディアからお声がけが増えたのもあり、サブコンテンツを充実させたいと。そうしたなかで、本編に入り切らなかったエピソードをプラスアルファする形で書き下ろしていただいています。それがオリジナル作品の良さだと思っていますが、数が増えすぎて、此元さんへの負担が予想以上に膨らんでいるという。
此元 そうですね。一瞬、ほんの一瞬ですけど『オッドタクシー』を嫌いになりかけました(笑)。
平賀 すみません(笑)。狙いとしては、作品の考察が盛り上がるイメージはあったので、それを補完するものを用意できればと考えていました。

――もともと本編で入れたかったアイデアやエピソードを、サブコンテンツで生かすような流れもあったのでしょうか?
平賀 ありましたね。ただ、本編とのつながりだったりサブコンテンツが作品を補完したりする流れの辻褄は、此元さんがほとんど合わせてくださいました(笑)。

此元さんとの仕事は「よくこんなことを思いつくな」ということの連続

――此元さんとの仕事はいかがでしたか?
木下 「よくこんなことを思いつくな」ということの連続だったので、刺激的でしたね。たとえば、第4話の「田中革命」のシナリオとか。
平賀 僕も、あれは話数が飛んだのかなと一瞬思いました(笑)。なので、最後にちゃんと本編につながったところで「ヤバい!」となったのをおぼえています。第3話まできちんと本編を掘り下げていたのに、急にバツンと違う話が入ってくる構成は衝撃でした。
木下 田中というひとりの平凡な社会人の人生を、小学生の頃から丁寧に描いて、社会人になってからどんどん闇落ちしてしまう顛末が見事に書かれていて。しかも、ちゃんと人間としての変化、ドラマが感じられるところには感動しました。最後に本編につながったのは本当に衝撃的で「これは間違いなく面白くなる!」とワクワクしましたね。

――此元さんは、田中の人物像からあの話を構成していったのでしょうか?
此元 正直、もうあんまり記憶がないですね(笑)。
木下 田中という平凡な名前から着想が始まったりするんですか?
此元 うーん、まったく思い出せない(笑)。

――(笑)。ちなみに、みなさんの想い入れのあるキャラクターはいますか?
木下 小戸川はやはり想い入れがありますね。小戸川に似た部分を自分も持っているし、彼に感情移入して作っていったので。あとは樺沢です。承認欲求だけで突き進んでタガが外れちゃう人ですけど、彼の気持ちもすごくわかる。僕はYouTubeをよく見るので、樺沢を描くのは楽しかったです。あと映像になってからキャラが立っているなと思ったのは、関口ですかね。脇役なのですが、ヤノに忠誠を尽くす真面目なヤンキーキャラがけっこう面白いなと。
平賀 僕は大門兄弟が好きなんですよ。弟のあの感じが他にいないですよね。バカっぽいけど小戸川が言うように鋭い部分もあるし、かわいらしい部分もある。『Quick Japan』の前日譚に彼らが登場するのも、僕のリクエストです(笑)。それくらい、彼らには愛があります。放送が始まってから意外だったのは、山本の人気が出たことですね。ちょっと地味めなキャラだと思っていたのですが、やり手っぽいのに上からも下からも挟まれるあの立場に同情が集まるのはわかります(笑)。
此元 僕も山本は好きですね。自分が脚本を書いていますけど、声も含めてあまりセリフを読んでいる感じがしなかったというか。山本という人がきちんとしゃべっている感じがしました。

――「このキャラを書いているときは筆が乗る」というキャラはいましたか?
此元 ホモサピエンスの柴垣ですね。僕もマインドが柴垣なんで。
平賀 ああ、わかる気がします。柴垣、ツッコミの内容もすごく面白いですし。此元さんの思いが、全部ではないにしろ部分的に入っているんだろうなと。

――世間はわかってくれない、みたいなマインドが此元さんのなかにも?
此元 そうですね。それもありますし、流行っているものの何が面白いのかわからないと悩んでいる一方で、それもこちら側がズレてるんやろなっていうのも理解している。その感じです。

ミステリー要素だけでなく、第10話以降は物語の面白さから目が離せなくなる

――放送後のリアクションが回を増すごとに大きくなっていきましたが、みなさんにとって想定内でしたか? 
平賀 ミステリー色が強い作品になったので考察で盛り上がってほしいと思っていましたが、想像以上に考察してくださる方々のモチベーションが高いのは驚きでした。
木下 でも、視聴者のみなさん、めちゃくちゃ鋭いですよね。第1~2話の段階でけっこう考察が進んでいて、ほとんど解釈が当たっているような人もいて。
平賀 最後の最後まで謎めいている作品ですけど、見終わったあとは「これがこうだったね」と考察で盛り上がるだけではなく、キャラクターの物語にグッと惹き込まれる内容だと思います。僕も途中までは「この伏線は」みたいな形で過去回を見直したりしましたが、第10話以降は物語の面白さから目が離せなくなる。それが『オッドタクシー』のいちばんの魅力だと思っています。謎の解決や伏線の回収もとことん楽しめますが、小戸川をはじめ、いろいろな人たちのトラウマや問題が次々とフィーチャーされていく第13話は、その物語に視聴者も圧倒されたのではと。

――最終話では、小戸川と同じく視聴者も「人間」として世界を見ることになりますが、描き方は難しくありませんでしたか?
木下 あそこはあまり苦労しなかったですね。タクシーが橋から飛び出して月と重なるシーンがシナリオ段階から圧倒的にドラマチックでカッコよかったので。あのシーンがあれば、そのあとの理屈はそんなに気にならなくなるんじゃないかなって。

――此元さんは世間の盛り上がりをどのように見ていましたか?
此元 感想を見ていると、「〇〇に似ている」とか「△△を彷彿とさせる」とか具体的な作品名を挙げてもらっていることも多くて。ただ、僕はほぼどれも見たことがない(笑)。
平賀 (笑)。僕も『セトウツミ』を読んだとき、此元さんは映画とかマンガとかめちゃくちゃ見たり読んだりしているマニアの方なのかなと勝手にイメージしていましたけど、全然そうじゃないんですよね。それはけっこう衝撃的でした。その分、いろいろな小説を読まれているという。
此元 最近は映画なんかも見るようにしています。そこにしか伸びしろがないと思って(笑)。
木下 (笑)。でも、此元さんのアンテナの張り方がすごいんだと思いますよ。オンラインサロンをモチーフに入れたり、人を傷つけない笑いが流行っているとか、そういうアンテナが。

――ぺこぱの本格的なブームが来る前に執筆されていますよね。
此元 書き始めたときは、まだそこまでじゃなかったですからね。そういう風潮はあったかな、くらいの感じで。
木下 だから、2~3年先に目線があるんだなと思いました。

――木下さんと平賀さんは、今回の経験はいかがでしたか?
木下 オリジナル作品だったので、ものすごく時間がかかりましたし、一本作り切るのは本当に大変でした(笑)。ただ、TVアニメとして世の中に出してみたら、いろいろな反響があって、まだまだTVコンテンツの波及やそのパワーがあるのを実感しましたね。
平賀 僕らは実写ドラマも制作するのですが、アニメのノウハウはあまりなかったので、逆にそのあたりを意識せずに作ることができたのが、視聴者の方々に興味を持ってもらえた部分のひとつかなと思っています。あとは作品が海外にも配信されていて、その反応がダイレクトに見えたのは面白かったですね。インスタライブをしていても、海外の視聴者がけっこう入ってきたりして。誇張されたものではなく、リアルな日本が描かれた作品だと思うのですが、海外の人に受け止めてもらえたのはうれしかったです。じつのところ、制作側としても海外での人気は視野にあまり入れていなかったのですが、国に関係なく、構成やストーリー展開の面白さを楽しんでもらえたのかなと思います。

――これから取り組んでみたい作品はありますか?
木下 『オッドタクシー』をノワール系として見てくださる方や、バイオレンス描写がリアルで面白いと言ってくださる方が多かったので、ノワール感を自分の作家性として突き詰めて作っていきたいなと思っています。

――此元さんは、アニメ制作に携わっての感想はいかがですか?
此元 自由度で言えば、マンガのほうがあるかなと思います。ただ、実写をやらせてもらったらアニメよりさらに制約があったので、アニメの自由さは理解しました。

――今後のマンガ制作や脚本作業に影響がある部分も?
此元 ありますね。確実に……ただ、どこがと言われるとわからないです(笑)。endmark

木下麦
きのしたばく。P.I.C.S. management 所属のアニメ演出家、イラストレーター。自身がキャラクターデザインも務める『オッドタクシー』で監督デビュー。
此元和津也
このもとかずや。マンガ家、脚本家。代表作にマンガ『セトウツミ』がある。2018年からP.I.C.S. management に所属し、脚本家として実写、アニメ作品にも参加し、その活動の幅を広げている。
平賀大介
ひらがだいすけ。P.I.C.S.所属のプロデューサーで、創業メンバー。オリジナルコンテンツの企画開発/制作を中心に手がけており、木下監督と『オッドタクシー』を作り上げた。
作品情報

アニメ『オッドタクシー』
ビジュアルコミック【DVD付き特装版】1~3巻好評発売中

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