TOPICS 2021.07.21 │ 12:00

異色アニメ『オッドタクシー』はこうして作られた
メインスタッフ座談会②

謎が謎を呼ぶ展開、またネット上での炎上やそこで生まれる集団心理を巧みに描き、大きな反響を呼んだ『オッドタクシー』。その主要スタッフが作品の制作経緯を語る座談会の中編。今回は、SNSというツールや炎上を作品に組み込んだ意図、また劇伴やトリッキーなキャラ、ヤノに導入されたラップ/ヒップホップテイストを中心に話を聞いた。

取材・文/森 樹

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

若者が抱えるコンプレックスや社会問題を、現代的なツールを用いて描く

――SNSやライブ配信、そこにまつわる炎上など、現代の若者像がそのツールとともに描写されています。そのあたりは意識的に加えたものだったのでしょうか?
木下 樺沢みたいな迷惑系ユーチューバーの存在や出会い系アプリといった今どきのモチーフは、当初の構想にはありませんでした。これも此元さんから出てきたアイデアです。
此元 現代社会の抱える闇、というコンセプトをリアルで描くうえでは欠かせない要素だと思いました。あと群像劇をまとめるにあたって、すごく使いやすいという理由もあります。ただ、この作品の脚本を書き始めたのが2~3年前だったので、放送時にはツール的に古くなってしまう可能性もありました。そうならないように、時代に左右されない普遍的な見せ方にすることには気を遣いましたね。
平賀 有名になりたい、名声を得たいという誰もが持つ承認欲求を、ユーチューバーという形で表現するのは、記号としても非常にわかりやすいと思いました。
此元 それが特別な感情ではなく、若者だったら誰もが持つものとして見えるようにしたかったんです。

――此元さんの脚本が固まってきたことで、物語の骨格が見えてきた部分はありますか?
木下 そうですね。企画書を作っているときに、ディズニー映画の『ズートピア』とかマンガ原作の『BEASTARS ビースターズ』とか、社会問題にも切り込んだ作品が流行っていたこともあって、いわゆる“動物アニメ”も少しずつ間口が広がってきているのは感じていました。此元さんの脚本をもらうたびに『オッドタクシー』も動物アニメとしてどんどんオリジナリティや個性を帯びていくのが感じられましたし、作品としての強度が増しているなと思いました。

――ただ、これだけ見た目と物語のギャップがあると、デフォルメする部分とリアルな部分のバランスが難しくなると思います。木下監督は、どのあたりに判断基準を置いていましたか?
木下 基準と言われると難しいですけど……たとえば、ヤノがしゃべりだすとき、シーンとしては環境設定を無視していきなりラップのビートが流れます。そこはまったくリアルではないですけど、ユニークな演出として割り切って見せていますね。一方で、ここは真剣に映像を見せたいというシリアスな場面では、音楽的な個性は控えめにして、シーンやセリフに集中できる状況を整えることでバランスを取っていきました。でも、根底にあるのは、アニメっぽい誇張した表現は排する方向でしたね。

――あくまでリアルな会話劇を目指していると。
木下 リアルな会話劇ですし、カメラワークも実写ドラマ寄りです。それは見た目とのギャップがあればあるほど面白くなると確信していたので。

プレスコでやっているので、もっとナチュラルな会話でもよかった

――それは花江さんなど、キャストの演技に関しても徹底したのでしょうか?
木下 はい。声だけ聞くと実写ドラマが思い浮かぶ映像にしたいと思っていたので、できるだけナチュラルな演技、普段しゃべっているような声のトーンでお願いしますとキャストのみなさんには伝えていました。小戸川の声も低めでお願いしていたのですが、最初は花江(夏樹)さんがデザインから声を拾ってくださって、実際に放送されているものよりもさらに低かったんです。それが花江さんの地声と比べると低くなりすぎていたので、今回はナチュラルな、より自然な方向にしていただきました。

――ミステリーキッスなど、アイドルに関してもリアル寄りですよね。
木下 アイドルの本当の顔、裏の顔というか(笑)。舞台の上に立っているときはキャピキャピしていてもいいのですが、楽屋のシーンに関しては、素の女の子のトーンでお願いしましたね。

――此元さんは、キャストの声を聞いてどう思いましたか?
此元 演技どうこうというのは別として、せっかくプレスコでやっているので、もっとナチュラルな会話でもよかったのかなと思いました。たとえば、ちゃんと交互に話さなくても、言葉がかぶっていたり詰まったりしてもいいのかなと。極端な話、セリフを別に言わなくても問題ない(笑)。オーディオドラマでも、アドリブがひと言だけ入っているところが印象的だったので。
木下 オーディオドラマ第9.9話のMETEORさんのところですよね。ヤノがラストに「関口ィ~」っていう(笑)。あれはたしかによかったです。
此元 あとは山本さんの「秒で落ちた~」とか(オーディオドラマ第10.10話)。

――脚本に書かれた一字一句を丁寧にやってもらうよりも、アドリブを入れてもらうほうがいいのでしょうか?
此元 どんどんやってほしかったですね。そういうセリフのほうが、言葉にウェイトが乗っているんですよ。

ヤノはPUNPEEさんから「METEORくんがいいと思う」と提案してもらった

――音楽面では、ヒップホップレーベルであるSUMMITのメンバーが劇伴に参加しています。
木下 最初から「ヒップホップじゃなきゃ」ということはなかったです。スタッフと話していくうちに、デフォルメされたキャラクターが活躍する世界観なので、ユニークでポップ、ちょっと奇妙な音楽が合うかもしれないと思ったんです。ヤノみたいなラップ口調でしゃべるキャラクターが登場することもあり、ヒップホップだったら物語全体がポップになるし、温度感もちょうどいいかもしれないと。それからSUMMITさんにご相談しました。

――SUMMIT内のみならず、ヒップホップ界で確固たる地位を築いているPUNPEE、VaVa、OMSBの3人ですが、劇伴を担当するのは初めてだったと思います。どのようなやり取りを行ったのでしょうか?
木下 僕も監督として劇伴をお願いするのが初めてだったので、音響監督の吉田光平さんにアドバイスをいただきながら進行しました。PUNPEEさんたちももちろん最初はとまどった部分もあったと思うのですが、何度かやり取りを重ねるうちに、だんだんと劇伴っぽくなっていきましたね。

――ヒップホップ的と言えば、ヤノをラッパーのMETEORが演じています。もともとラップ調でしゃべるという設定はあったのでしょうか?
木下 ヤノに関しては此元さんのオーダーで「ドブと敵対するギャングをひとり追加で作ってほしい」と言われたんです。それでヤマアラシのキャラクターを新たに描き起こしたのですが、それを此元さんがラップ口調のキャラに仕上げてくださいました。
此元 木下さんからもらったキャラクター表のなかに、ヤノという名前の小さいネズミのキャラがすでにいました。あのキャラクターが気に入ったので「これをベースに悪そうなヤツを描いてほしい」とリクエストしたら、ヤマアラシになって出てきたので、これはラップで話をさせようと。ラップをさせたのはとくに理由はなくて、デザインを見ての直感ですね。

――ヤノは第7話から登場しますが、後半から登場したのには何か意図があったのでしょうか?
木下 此元さんが脚本を執筆されている段階で、ヤノに該当するキャラを作ってほしいと言われた記憶があるんですよ。たしか第5話くらいまで脚本が進んでいたタイミングだったと思います。
此元 あ、そうだった気もします。だから、序盤は出てこなくて、第7話くらいのタイミングでしか登場させられなかったという(笑)。

――キャストとしてMETEORさんを選んだのは?
平賀 ラップ口調のキャラということで、ヤノのキャスティングには苦労するだろうというのは監督も僕も思っていて(笑)。もちろん、此元さんからも「本物のラッパーがいいですよね」という話はいただいていましたし、それは共通の認識としてありました。その頃は並行してPUNPEEさんたちと劇伴を制作していたので「誰かいい人いないですかね?」と相談したんですよ。そうしたら「METEORくんがいいと思う」と提案してもらって、ラップを聞いたらめちゃくちゃ良くて。「もうお願いします!」と頼み込みました。

――求めていたヤノ像に近いものだったと。
此元 そうですね。イメージとしてはもっと声が低いかなと思っていたのですが、あの声を聞いてしまうと彼がヤノだなと。
平賀 METEORさんも「もうちょっと低くてもよかったかもしれない」と収録されたのを聞いておっしゃっていましたね。でも、今の声はかわいらしさもあって、バランスはよかったと思います。
木下 最初のプレスコのときは、もっとラップ調、ヒップホップ感が強かったんですよ。
平賀 収録前から役を作ってくださっていたんです。PUNPEEさんとふたりでヤノをどう表現するか考えてくださって、PUNPEEさんのスタジオで事前に収録したデモもありました。それを参考に本番のスタジオでも参考用に一度録っています。そこから、もうちょっとナチュラルに、ポエトリーリーディングに近い形で調整してもらいましたね。
木下 かなり難しい要求をしているという自覚はありました(笑)。でも、結果的に音楽としてのラップと会話口調のちょうど中間あたりのものに行き着いて、あのギリギリ聞き取れる感じになりましたね。

――此元さんの脚本から、ラップの部分も一字一句変わっていないのでしょうか?
平賀 此元さんからも「言い回しで言いづらいところは変えてもらっていいです」と言われていましたが、本当に一部、語尾が変わったくらいでしたね。endmark

木下麦
きのしたばく。P.I.C.S. management 所属のアニメ演出家、イラストレーター。自身がキャラクターデザインも務める『オッドタクシー』で監督デビュー。
此元和津也
このもとかずや。マンガ家、脚本家。代表作にマンガ『セトウツミ』がある。2018年からP.I.C.S. management に所属し、脚本家として実写、アニメ作品にも参加し、その活動の幅を広げている。
平賀大介
ひらがだいすけ。P.I.C.S.所属のプロデューサーで、創業メンバー。オリジナルコンテンツの企画開発/制作を中心に手がけており、木下監督と『オッドタクシー』を作り上げた。
後編(③)は7月22日公開
作品情報

アニメ『オッドタクシー』
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