TOPICS 2022.02.18 │ 12:00

『グッバイ、ドン・グリーズ!』
監督・いしづかあつこインタビュー①

高校1年生のロウマ、トト、ドロップの3人が繰り広げるひと夏の大冒険を描く映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』。今回はいしづかあつこ監督をお迎えして、すでに映画を見たファンに向けたネタバレありのインタビューを実施。前編はシナリオとテーマについて。読んだらきっと、もう一度劇場へ足を運びたくなります。

取材・文/岡本大介

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

ヒロインを救う物語から男の子の成長物語へ

――女の子4人のキラキラした成長物語だった前作『宇宙よりも遠い場所(以下、よりもい)』から一転、本作の主人公はちょっと冴えない男の子3人組です。
いしづか 『よりもい』でできなかったことのひとつに、「フィジカル的な試練」というものがあったんです。やっぱりアニメーションで描く際、女の子には痛くて苦しい思いをさせにくいですし。でも、男の子はその逆で、身体的に追い込まれたり無茶なことをすると、もれなくひと回りかっこ良くなると思っていて(笑)。なので、今回は最初からそういうお話にしたいなと考えていました。

――感動的だったのは、中盤で描かれる3人の冒険が、近所の山で展開されているということです。言ってしまえば「裏山への小旅行」を、これだけのスペクタクルとして描けるものなんですね。
いしづか ありがとうございます。じつは最初はもっとスケールの大きな冒険にしようとも考えていたんです。それこそSFやファンタジー要素も盛り込んで、チボリを救うために大冒険に挑む!みたいな。でも、それを考えれば考えるほど、ロウマたちの人間性ではなく、出来事そのものを描く感じになってしまうんですよね。私の力量不足もあるとは思うんですが、どうしてもキャラがプロットに踊らされてしまう感覚があって、あまり面白いと感じなかったんです。

――もともとはヒロインを救うために冒険するお話だったんですね。
いしづか 「ヒロインのために頑張る少年たち」というのも、それはそれでとてもかわいらしくて素敵なんですけど、そうして得られる成長は、世界の広さを知るということとはまた別のような気がしたんです。それよりも、ふと出会ってしまった大好きな友達とのかけがえのない体験を通じて、図らずも地球を丸ごと見下ろしていたというほうが、男の子の成長として素敵なんじゃないかと。

――それで冒険のスケールをより等身大にしたんですね。
いしづか はい。世界の広さやスケールの大きさを感じるフィルムにしたくて、そこは大事にしていたところなんですけど、それはロウマたちが世界を股にかけなくても表現できるだろうと思い直して。地に足のついた設定に戻すと、それまでプロットに振り回されていたロウマたちが急にイキイキと動き始めました。それでドロップがいなくなる設定を漠然と考えたとき、 これならロウマたちの心情を狭く深く掘り下げることができるぞと、ある種の手応えを感じたんです。

青春映画でつかんだ、ちょっと馬鹿らしく、愛おしい男の子たちの描き方

――本作は男の子3人による軽妙な掛け合いが印象的です。男子ならではの雰囲気を描くために参考にしたものはありますか?
いしづか 青春映画はたくさん見ましたね。もちろん『スタンド・バイ・ミー』や『グーニーズ』といった定番の名作も大好きで何度も見返していますが、個人的にいちばん刺さったのは『ゾンビーワールドへようこそ』っていうゾンビコメディ映画なんです。男の子たちのちょっと馬鹿らしく、愛おしい感じがたまらなく好きで、ロウマたちのイメージをつかむ参考になりました。自分たちにチーム名を付けるのっていいなと思ったのも、この作品の影響です。

――ロウマのナレーションで過去を振り返る手法は『スタンド・バイ・ミー』を彷彿とさせますが、大人視点で語っているわけではないところが違いますし、それでいうと『グーニーズ』に近い気もします。
いしづか そうかもしれません。ロウマのナレーションはあくまで本編の時間軸の中でしゃべっているんですよね。私が描きたかったのは、むしろ『スタンド・バイ・ミー』の冒険を終えたあとの彼らなんです。そこをロウマたちに問いかけたのがこの作品だと思っています。

二度目はドロップになったつもりで見てほしい

――TVシリーズではなく、劇場作品というところでとくに意識したことはありますか?
いしづか ひとつのシーンの長さや展開のタイミングなど、いわゆる尺の使い方はかなり意識しました。最初は3人の出会いから時間軸に沿って一気にシナリオを書き上げたんです。でも、そうすると舞台や人間関係の説明などを含め、冒険のスタート地点にたどり着くまでがすごく長くなってしまって。これがTVシリーズであれば、ロウマとドロップの出会いを山場にして第1話とする構成もアリなのですが、劇場に足を運んでくださるお客さんは3人そろっての冒険やその先の結末が見たいわけじゃないですか。なので、ロウマとドロップの出会いをはじめ、序盤のドラマはバッサリと落としました。

――ドロップの描写や説明の少なさが、彼の神秘性にもつながっていますよね。
いしづか ロウマにとってのドロップって、まさにそういう存在だと思うんです。ロウマが何十年後かに当時を振り返ったとき、ドロップという存在はとても生々しく鮮明に脳裏に焼き付いているのに、でも本当にいたのかどうかわからない。そういう不思議な感覚になるんじゃないかと思っています。

――だからこそ、ドロップに注目しながらもう一度見直すとまた違った感情に包まれますね。
いしづか そうなんですよ。ぜひドロップになったつもりでもう一度ご覧になっていただきたいです。ロウマたちとの旅路で、このシーンではドロップはどんなことを考えていたのかを想像しながら見ると、きっとまったく違う景色が見えるはずです。endmark

いしづかあつこ
1981年生まれ。愛知県出身。アニメーション監督。マッドハウス所属。大学在籍中よりアニメーション作家として活動を開始。主な監督作品に『さくら荘のペットな彼女』『ノーゲーム・ノーライフ』『ハナヤマタ』『プリンス・オブ・ストライド オルタナティブ』『宇宙よりも遠い場所』など。映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』は自身初の劇場オリジナル作品となる。
作品情報

映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』
絶賛公開中!

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