TOPICS 2023.11.23 │ 12:00

監督が語る
劇場版『攻殻機動隊SAC_2045 最後の人間』の制作秘話(前編)

士郎正宗原作によるコミック『攻殻機動隊』を原典としたアニメの最新作、劇場版『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間(以下、最後の人間)』。全24話からなる壮大な近未来SFアニメ『攻殻機動隊 SAC 2045』のシーズン2(第13話〜第24話)を120分にまとめた劇場版がいよいよ公開。ここではシーズン1の劇場版『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争(以下、持続可能戦争)』から続投となった監督・藤井道人のインタビューをお届けしよう。前編は映画化にあたってのこだわりについて聞いた。

取材・文/岡本大介

シーズン2はシーズン1よりもまとめるのが圧倒的に大変だった

――前作『持続可能戦争』から引き続いての監督となりました。オファーを受けたときの気持ちはどうでしたか?
藤井 素直にうれしかったです。じつは『持続可能戦争』の編集が終わったとき、プロデューサーに「シーズン2もぜひやらせてほしい」と訴えていたんです。だって、後編だけ別の誰かにやられたらショックじゃないですか。ただ、実際にオファーをいただいたときは僕が別の作品制作でとても忙しい時期で「今ですか? マジで?」ってなりました(笑)。

――藤井監督から見た、シーズン2の魅力は?
藤井 Netflixシリーズ版の監督である神山(健治)さんと荒牧(伸志)さんからのメッセージというか、伝えたいことの濃度がとても濃くなっていると思います。シーズン1は、キャラクターたちのセットアップをしっかりするという意図も含んだ展開でしたけど、シーズン2は物語の結末に向かってまっしぐらで、思わずイッキ見しちゃうような面白さがあります。

――240分のNetflixシリーズ映像を120分の劇場版として再編集したわけですが、シーズン1と比べて何か違いは感じましたか?
藤井 とにかく、尺が全然収まらなかったです。『持続可能戦争』も尺との戦いでしたが、今回はそのとき以上に難しかったです。シーズン1では3人いるポストヒューマンの登場順を変更するなど、構成そのものに手を加えることで大きく尺を縮めているのですが、シーズン2はそれができないくらいにストーリーラインが固まっていますし、情報量も多い。(江崎)プリンのエモーショナルなエピソードも削ることはできないですし、どのカットを残すのかは最後まで悩みました。

――編集作業は『持続可能戦争』と同じく撮影技師の古川(達馬)さんとの二人三脚で行ったんですか?
藤井 そうです。古川は『攻殻機動隊』シリーズの大ファンなので、彼にはファン目線で編集してもらい、僕はシリーズをよく知らない人の目線に立って編集するというのも前作と同じですね。

――藤井監督はもともと『攻殻機動隊』シリーズを見たことがなかったんですね。
藤井 そうなんです。僕は実写畑の人間ですし、アニメについては素人なんです。でも、そんな僕にオファーが来たということは、これは「あえて」だと思い、面白そうだから受けることにしたんです。

――実写監督の藤井さんに編集してもらうことで、従来のアニメファンやシリーズファンの枠を超えて作品を届けたいということですよね。
藤井 僕はそういうことだと認識しています。とはいえ、既存ファンの方々の鑑賞にも耐えうるものにしなくてはならないので、そこは古川にかなり助けてもらいました。僕の立場としては『攻殻機動隊』ファンの彼氏に誘われて、何も知らずに映画館に連れてこられた彼女みたいなもので(笑)。ファンにとっては当たり前のことでも、僕が理解できないならそれはダメというのは、前作から通じて第一鉄則としていました。

映画的な余白をいかに生み出すかが大切

――今日(取材日)が編集の最終日とのことですが、手応えはどうですか?
藤井 試行錯誤を重ねたおかげで、納得のいくものになったと思います。個人的に助けられたのは「最後の人間」というサブタイトルの存在ですね。これは古川がネーミングしたんですけど、このタイトルに決まった瞬間、結末へと向かう道が見えた気がしました。シーズン2って、かなり難解なお話ではあるんですけど、突き詰めれば「社会」と「個人」の関係性の話なんですよね。とある社会システムは、誰かにとっては天国で、別の誰かにとっては地獄なわけで「あなたならどちらを選びますか?」という問いかけでもある。自分の中でそういう考えがフワフワと漂っているときに「最後の人間」というタイトルを見て「なるほど、そういう話か」と合点がいったんです。じゃあ、そういう話として描こうと覚悟が決まった気がしました。

――120分の映画を貫く「芯」ができたんですね。
藤井 そうですね。もともとはNetflixシリーズという大前提はありますが、映画には映画の論理というものがあって。配信ドラマや劇場映画など、いろいろな媒体で作品を作っていますが、アプローチはそれぞれでやっぱり違うんです。

――どのように違うのでしょう?
藤井 女性との交際でたとえるなら、配信作品って「交際前」なんですよね。一瞬でも飽きられてしまったら、そこで見てもらえなくなってしまうので、とにかくプレゼントを贈り続ける必要があるんです。対して劇場作品は「交際後」。よっぽどのことがない限り、2時間はその席にいてもらえる保証があるので、ひっきりなしにプレゼントを贈る必要はないんです。ときには沈黙もありですし、それが映画的な余白につながる。今回のように配信作品を映画に再編集するときには、単純にシーンをカットして尺を縮めていくだけではなく、そういった映画的な余白をいかに生み出すかが大切になるので、そこを常に意識しながら作業していました。

――映画ならではの映像体験ができる作品になっているんですね。
藤井 そのつもりです。Netflixシリーズ版を見ていない人にも楽しんでいただけると思いますし、そもそも『攻殻機動隊』をよく知らないという人でも大丈夫です。本作をきっかけに、過去のさまざまなシリーズ作品に触れていくのも面白いんじゃないかなと思います。あ、ただし、前編の『持続可能戦争』だけは見てください。さすがに後編から見て理解するのは難しいですから(笑)。

――それはそうですね。では、インタビュー後編ではさらに深くお話を聞いていきます。
藤井 お願いします!endmark

藤井道人
ふじいみちひと 東京都出身。映画監督、脚本家、映像作家。2014年『オー!ファーザー』で商業映画監督デビュー。主な監督作は『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』『余命10年』『ヴィレッジ』『最後まで行く』など。
作品概要

劇場版『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』
2023年11月23日(木・祝)より劇場公開中!

  • ©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会 | ©Shirow Masamune, Production I.G/KODANSHA/GITS2045