TOPICS 2023.11.24 │ 12:00

監督が語る
劇場版『攻殻機動隊SAC_2045 最後の人間』の制作秘話(後編)

士郎正宗原作によるコミック『攻殻機動隊』を原典としたアニメの最新作『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間(以下、最後の人間)』。全24話からなる壮大な近未来SFアニメのシーズン2(第13話〜第24話)を120分にまとめた劇場版がいよいよ公開。シーズン1の劇場版『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争(以下、持続可能戦争)』から続投となった監督・藤井道人のインタビュー後編では、実写映画の監督から見たアニメーションの世界について聞いた。

取材・文/岡本大介

実写とアニメーション作品で大きな違いはない

――前作『持続可能戦争』で初めてアニメーション作品に携わった藤井さんですが、実写映画との違いや共通点はどう感じましたか?
藤井 アニメーション作品に関わってよかったなと思ったのは「思っていた以上に実写とアニメーションの間に境界線はない」ということを知ることができたことです。もちろん、それぞれに特性があって、アニメで表現したほうが伝わりやすいものもあれば、生身の人間がお芝居したほうが伝わるものもあるとは思います。でも、どちらも最終的には作り手の伝えたいメッセージが入った作品になるわけで、そこに大きな違いはないのかなと思いますね。

――実写での映像制作に活かせそうな知見は得られましたか?
藤井 途切れの少ないシームレスなカメラワーク、ビジュアル的な装飾や適度なデフォルメなど、今の技術をもってすれば実写作品でも撮れるんじゃないかと思わせてくれるシーンは多かったです。長年実写作品を作っていると自分たちの手で表現の幅を狭めている感覚があったのですが、今回の経験はその枠を飛び越えるひとつのチャンスでもあるのかなと感じています。さすがに『攻殻機動隊』レベルのアクションを実写で作るには莫大な予算と人員と工夫が必要ですけどね(笑)。技術的にどこまで現場に落とし込めるかというのはともかく、自分たちで実写の可能性にフタをするようなことはしないでいこうとあらためて思いました。

――とくに好きなシーンを挙げるとすると、どこでしょうか?
藤井 序盤に繰り広げられる高速道路での銃撃戦は大好きです。ド派手なアクションシーンはどれも好きなんですけど、それは「実写では難しい表現」に対する憧れの気持ちが強いのかもしれません。壊してもいい高速道路とか、日本にはまずないですから(笑)。

――では、アクション以外ではどうですか?
藤井 中盤以降、舞台を東京に移してからはどこかポエティックな映像に変化してきて、それが素晴らしいなと思います。映像がそのまま物語のテーマや結末に呼応するかのようで、映像の機微も細かく考え抜かれているなと感じます。

シーズン2は江崎プリンのドラマともいえる

――個人的に好きなキャラクターはいますか?
藤井 いちばんは草薙素子なんですけど、彼女を殿堂入りとするならば、(江崎)プリンが好きです。明るくて元気な女の子がじつは暗い過去を持っているというのは、わりと王道ではあるんですけど、やっぱりグッと来ちゃいますね。とくにシーズン2は彼女のドラマといえるほどに存在感があるので、強く印象に残っています。

――詳しくは言えませんが、プリンはシーズン2でかなり衝撃的な結末を迎えますよね。
藤井 あれは僕もショックでした。ただ、こうした揺さぶりこそが監督たちの狙いなのかなとも思うんです。これは結末にも絡んでくるテーマですけど「人間とはこうでなければならない」という既成概念が揺らぐじゃないですか。前編でも少しだけ触れましたが「社会」と「個人」の在り方や関係性、さらには「人工知能」についても考える材料になればいいですよね。それこそが、神山(健治)さんや荒牧(伸志)さんが投げかけたかったものなんだと思います。

――ただ、Netflixシリーズ版のクライマックスはかなり難解な展開が続くので、『攻殻機動隊』そして『持続可能戦争』を今作で初めて見た人が理解できるのか、ちょっと心配になります。
藤井 それは同感です(笑)。僕自身、一度では理解できずに何度か見返して考えましたから。なので、クライマックスについてはちょっと変更を願い出て、新規カットをお願いしたんです。

――よりわかりやすい描写になっているということでしょうか?
藤井 そうですね。伝えたいメッセージはNetflixシリーズ版と同じなのですが、よりお客さんがすっきりと受け止めてもらえるようなシークエンスに作り変えているので、『攻殻機動隊』という作品をしっかりと持ち帰っていただけるんじゃないかなと思います。

――ちなみに、もし「理想的な虚構」と「過酷な現実」の二者択一なら、藤井監督はどちらを選びますか?
藤井 「過酷な現実」一択です(笑)。僕は辛いことを体験しないと、そのあとにある幸せを噛み締められないタイプなんです。悔しさや痛みがあるからこそ、それに対して努力ができる。そうするとその先に目標ができて、最後には果実を得ることができるというサイクルでしか頑張れないし、それを信じているんですね。もちろん、無条件に幸せを感じられる人もいるとは思うんですけど、僕は無理かもしれません。なので、少なくとも30代のうちは茨の道を選んでトライ&エラーをしていきたいなと思います。まあ、80歳くらいになったら話は別かもしれませんけど(笑)。

――では最後に、読者にメッセージをお願いします。
藤井 本作では『持続可能戦争』で散りばめられていた伏線をしっかりと回収して、そのうえでサブタイトルの「最後の人間」というところに帰結する流れが作れたと思います。また、Netflixシリーズ版をご視聴済みの方の中には、結末が消化しきれなかったという人が多いのではないかと思います。映画では新規カットを追加したことで、そこがより具体的に明示できていると思いますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけるとうれしいです。endmark

藤井道人
ふじいみちひと 東京都出身。映画監督、脚本家、映像作家。2014年『オー!ファーザー』で商業映画監督デビュー。主な監督作は『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』『余命10年』『ヴィレッジ』『最後まで行く』など。
作品概要

劇場版『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』
2023年11月23日(木・祝)より劇場公開中!

  • ©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会 | ©Shirow Masamune, Production I.G/KODANSHA/GITS2045