16人のアイドルが出演するライブそのものをしっかり魅せたい
――まずは皆さんがどのようなかたちで『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD(以下、劇場版アイドリッシュセブン)』に関わっているのかを教えてください。
若林 僕は総撮影監督とルック開発を担当しました。今回はグループごとに撮影監督を設けているので、そのトータルのバランスを見たり、初期のボード(※イメージをもとにしたアイデアスケッチ)を作ったりというのが総撮影監督の仕事です。ルック開発に関しては、アイドルの衣装の質感などをセルルックのアニメーションで仕上げて制作会社のオレンジさんに提出し、3Dモデルで再現していただいたものをもとに撮影していく作業を担当しました。
山本 僕は錦織さんとダブル監督という体制で、今回のライブの指揮を執らせてもらいました。明確に作業分担をしているわけではありませんが、これまでの経験から演出面を錦織さんに引っ張っていただき、それに関して補佐的にアイデアを出すことが多かったと思います。現場に近いところで画作りを担当するのがメインでした。
錦織 山本さんのお話にもありましたが、僕は主に演出面を担当しました。今回は「アイドルたちのストーリーやバックボーンを描くのではなく、16人のアイドルたちが出演するライブそのものをしっかり魅せていきたい」とバンダイナムコオンラインさんの方からお話があったので、そのためにはどうすればいいのかということを、みんなで相談しながら一から考えました。
――普段のアニメーション制作とは作業内容も大きく異なりそうですね。
錦織 普段であれば作業の分担を考えるところから始めますが、今回はどうすれば理想のライブを作れるのかいうことを、まずひたすら話し合いました。スタッフそれぞれが得意分野の知見を活かして意見を出し合う時間が長かった気がします。
直接的には描かないまでも、アイドルたちの内面に寄り添う演出
――皆さんが『アイドリッシュセブン(以下、アイナナ)』に出会ったのは、今回のお仕事が初めてだったのでしょうか?
山本 僕は4年前にIDOLiSH7が歌う「Mr.AFFECTiON」のMV監督を担当させていただいたのが出会いになります。当時は存在こそ知っているものの詳しくないという感じだったのですが、社内にいる熱心な”マネージャー” に教えを乞い、勉強させてもらいました(笑)。今回の制作を始めるにあたって、そのときの経験が下地になったと思います。
錦織 アイドルアニメの話をすると、代表的な作品のひとつとして『アイナナ』は必ず名前が挙がるタイトルです。僕もそういった作品を作ることがあったのでチェックしていました。『アイナナ』は、アイドルの活躍というよりはお仕事アニメに近い切り口だったこともあって、物語や展開そのものを楽しませてもらっていましたね。その中で、アイドルたちにも自然と親しみを感じていたこともあって、今回のお話をいただいたときに「彼らが輝いているところをどう見せようか?」とすんなり考え始められた気がします。幸い初期の段階から「直接的には描かないまでも、アイドルたちの内面に寄り添った演出ができたらいいよね」という話になっていたので、そういった部分をちょっとした動きの演出ににじませることができたのはよかったかなと思っています。
若林 『アイナナ』の仕事をやらせていただくのは今回が初めてでした。もちろん、以前から存在は存じ上げていましたが、制作にあたってはアニメやアプリをなるべく意識しないようにしました。今回はライブという形式でしたし、そこを意識してしまうと画作りも引っ張られてしまうので……。
――あえて深く知ろうとはしなかったんですね。
若林 そうですね。各アイドルの特徴やグループのカラーなどは調べたのですが、生の質感を大事にしたいという話もありましたので、あえて視界のスイッチをオフにしていたと言うほうが正しいかもしれません。役目を終えた今、ようやく彼らのアニメやアプリでの活躍を安心して観られるので楽しみです!(笑)
グループらしさを端的に感じてもらえる楽曲を選択した
――<DAY 1>、<DAY 2>で変化するセットリストも『劇場版アイドリッシュセブン』の醍醐味です。こちらについてはどのようなイメージで作業に取り組んだのでしょうか?
錦織 セットリストを決める場に同席させてもらったのですが、4つのアイドルグループのこれまでの活動を振り返って、どんな曲を持ってくれば皆さんに喜んでもらえるのか、というところから考えていきました。セットリストが固まっていくのはワクワクしましたし、驚きもありました。
山本 企画が動いた段階ではアプリの第5部と第6部が制作中で 、まだ発表されていない曲もセットリストに含まれていたので「こんな曲がこれから出てくるんだ!」ってちょっとテンションが上がりました(笑)。
錦織 セットリストの組み方としては、IDOLiSH7の「MONSTER GENERATiON」のあとに<DAY 1>では「RESTART POiNTER」、<DAY 2>では「PARTY TIME TOGETHER」が続きます。これらの楽曲は世界観を強く押し出した「MONSTER GENERATiON」とセットになるような、グループらしさを端的に感じてもらえる楽曲として選んでいます。これはIDOLiSH7に限ったことではなく、当初から4グループすべてのセットリストをこういった構造にしようという話になっていました。
- 錦織博
- にしきおりひろし 1966年、京都府生まれ。日本アニメーションを経て、現在はフリーのアニメーション監督、演出家、脚本家として多くの作品に携わる。代表作はアニメ『あずまんが大王』、『天保異聞 妖奇士』、『とある魔術の禁書目録』、映画『マジック・ツリーハウス』など。
- 山本健介
- やまもとけんすけ VFX、CGを得意とするクリエイター。1994年に高校時代の同級生らとともにアクワイアを設立、同社にてゲームCG制作に携わり、フリーランス期間を経てから有限会社オレンジに所属。代表作は『トライガンスタンピード』、『ゴジラS.P<シンギュラポイント> 』、『宝石の国』など。
- 若林優
- わかばやしゆう ENISHIYAに所属するクリエイター。『ブルーサーマル』、『ゴジラS.P<シンギュラポイント> 』、『Princess Principal Crown Handler』など数多くの作品で撮影、撮影監督などを手がける。