TOPICS 2024.05.17 │ 18:00

祝・放送十襲年! 今石洋之と中島かずきが振り返る
TVアニメ『キルラキル』③

『キルラキル』の放送開始十襲(周)年を記念してお届けする今石監督&脚本・中島かずきによる対談。最終回では、中島が選んだベストエピソードをご紹介。それぞれのエピソードの思い出に加えて、ふたりにとって『キルラキル』はどんな作品になったのか。その想いを聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

第三話を見て「これはすごいものになるぞ」と思えた(中島)

――一方、中島さんのベストエピソードは?
中島 第二十八話かな。皐月が買い物に出かけるんだけど、財布を忘れて、店の人から万引きの疑いをかけられる。で、仕方がないからその店で働き出すんだけど、全然慣れていなくて、そこに麻薬の密売人が絡んでてんやわんやの騒動になるけど密売人を捕まえてめでたしめでたし、という。
今石 あはは。

――ちなみにサブタイトルは?
中島 和田アキ子の「その時わたしに何が起こったの?」。……じゃなくて、ちゃんとツッコんでよ(笑)。

――すみません(笑)。では、気を取り直して、中島さんのベストエピソードを。
中島 今石さんと被っちゃうんですけど、僕が見てきたアニメの中でいちばん興奮したし、今でもいちばん好きなのが『トップをねらえ!』の第五話(お願い!! 愛に時間を!)。バトルシーンで「トップをねらえ!~FLY HIGH~」がかかるところなんです。「ノリコ、合体しましょう」というセリフから曲が流れて終わるまでのシークエンスが本当に好きで。最初に見たときも「俺が見たかったアニメはこれだ!」と思ったし、あまりのカッコよさに何度見ても気分が上がるんです。

――なるほど。
中島 要するに、ドラマ的な心情のピークが合体というかたちで表現されている。そこで一気に局面がひっくり返って、しかも圧倒的に強い。圧倒的に強いまま、戦闘のカタルシスを存分に楽しめるんです。『トップをねらえ!』の第五話で、初めてそういうシーンを目にした気がしたんですね。そこから『キルラキル』に話を戻すと、第二十四話のAパートのラスト。流子の「もどきだからだ」から始まる、吉成(曜)さんのコンテパートが本当に好きで。あの一連の流れは『トップをねらえ!』と同じ快感を与えてくれるんです。セリフと画と曲が一体になったカタルシス、と言えばいいのかな。自分の見たかったものがここにある。そういう感覚がありました。

――脚本上でも、ある程度、曲を想定しながら書いているんですか?
中島 いや、曲は考えていないですね。もちろん、セリフは書いてあるんですけど、あそこまで気分が上がるシーンになるかどうかは、書いている段階ではわからない。書いているときは、尺に収めるのに一生懸命ですから。あと、同じ第二十四話で笑ったのは、蟇郡(がまごおり)の縛解傲擲(ばくかいごうてき)かな。腹から自分の顔のかたちをしたビームを放つってコンテで見たときに「今石さん、これはやりすぎだよ」と思いました。石破天驚拳(せきはてんきょうけん)かよ、って(笑)。
今石 石破天驚拳(笑)。
中島 で、今石さんに「やりすぎだよ」って言ったら「シナリオに書いてありますよ」と。で、読み直したら、俺がト書きに書いていたんですよ。
今石 ありましたね(笑)。

中島 俺だったのか!って。それくらい、今石さんか俺なのか、どちらの色が出ているのかわからなくなっている、そういうシンクロが第二十四話にはあったかなと思います。あと「これはいける」と思ったのは第三話「純潔」のBパート、皐月と流子の最初のバトルシーンですね。第三話のBパートはかなり先行して制作が進んでいて、あのバトルシーンも画が入った状態で、わりと早いタイミングで見ることができたんです。しかも、そこに若林(広海/クリエイティブオフィサー)くんが曲をつけてくれて。それを見て「これはちょっと、すごいものになるぞ」と思えた。だから、とりあえず第三話のBパートまで見てくださいと。それでダメだったらしょうがないけど、好きな人は絶対ここでハマる。そう胸を張って言えるな、と。

――シリーズの最初のポイントになったシーンですね。
中島 あともうひとつ挙げるなら、第八話(「俺の涙は俺が拭く」)かな。流子がバイクに乗って焼け落ちた自分の家に行くシーンがあるんですけど、あのバイクを薔薇蔵がどうやって手に入れたかというのをト書きで書いていて。実際、脚本にも「本編では一切触れることがない」と書いてあるし、本編にはまったく出てこないんだけど。
今石 もし、やっていたら1分くらいオーバーしていましたよね(笑)。
中島 でも、すしおくんがちょっと設定を描いていたっていうのがおかしくて。

――そうなんですか!?
中島 とはいえ、やっぱり、どうして満艦飾(まんかんしょく)家にこのバイクがあるのかとか、リアリティラインとして考えておかなきゃいけない。

――そういう部分がフィルムを豊かにするという。
中島 そうなんですよね。作品のトーンとして「こういうことですよ」みたいなものを書いておきたかった。というか、思いついたらやっぱり書きたくなるんですよ。

「そうか!人は人、服は服か!」と思ってもらえたら我々の成功(中島)

――『キルラキル』のあと、おふたりは『プロメア』で再びタッグを組んでいるわけですが、何度か一緒にやっていると、ツーカーでいける部分もあるんでしょうか?
中島 いや、意外とツーカーではいけないですね。やっぱり、次に一緒にやろうとしたら、自分たちが楽しいと思えるものじゃないとダメで。じゃあ、自分たちが今、楽しいと思えるものって何だろう?っていうのを淡々と探す感じで。

―――なるほど。
中島 頭で考えたものって、やっぱり途中で止まっちゃう、というか。そこに気持ちが乗っかって「よし、これは面白い」という感覚がないと、どっかで行き詰まるんですよ。
今石 実際、『キルラキル』は最初、結構やりにくかったんですよ。「とにかく最高のものを作ろう」と言って『天元突破グレンラガン』を作っちゃったんで。じゃあ、それ以外に何ができるのか。「それ以上のものって何だろう?」って考えると、ハードルがどんどん上がっていく、という。

中島 結果、頭でっかちになっちゃう。
今石 そう、頭でっかちになって「単純に面白い」みたいなものから遠ざかっていく。そこで開き直って「ただ面白いものやろうぜ!」となって出てきたのが『キルラキル』だったんです。
中島 ぐるっと一周している(笑)。「お前たちの手癖だな」って言われると、たしかにその通りなんだけど、でも手癖でやろうとしてこのかたちになっているわけじゃなくて。紆余曲折があって「やっぱりこのかたちだね」と納得してやったところがあるんですよね。なので、皆さん、どうか許してくださいという。

――では最後に、あらためて『キルラキル』を見る人に向けてメッセージをお願いします。
中島 僕たちがやりたいことの、いちばんの原液っぽい作品が『キルラキル』なんです。『天元突破グレンラガン』には「少年の成長物語」みたいな、わかりやすい軸があるんですけど、『キルラキル』はもうちょっと違う、本当に何だかわからないものに挑戦したところがあって。そういう「何だかわからないもの」を、楽しく見ていただければありがたいかなって思います。
今石 たしかに、どこに行くのかわからない話かもしれないですね。見始めたときは何をしているのかもわからないアニメかもしれないですけど、でもキャラクターに入っていけば楽しめるかなと思うし。「どこに行く気なんだ、これ」みたい感じで楽しんでもらえたらなと思いますね。

中島 「人は人、服は服」って前提なしで言われたら「うん、知ってる」ってなるけど、見続けてもらえればそこが感情のピークになる(笑)。
今石 当たり前のことが、なんだか急にいいことのように思えてくる(笑)。
中島 そう思っていただければ、我々の成功かなっていう。「そうだったのか! 人は人、服は服か!」と思ってもらえれば、ありがたいです(笑)。endmark

今石洋之
いまいしひろゆき 1971年生まれ、東京都出身。大学卒業後、ガイナックスに入社し、アニメーターとして活躍。2004年に公開された劇場作品『DEAD LEAVES』で初監督を務め、その後も『天元突破グレンラガン』『プロメア』『サイバーパンク: エッジランナーズ』など、数多くの話題作を手がける。
中島かずき
なかしまかずき 1959年生まれ、福岡県出身。2010年まで編集者として働くかたわら、劇団☆新感線の座付作家としても活躍。2004年に『Re:キューティーハニー』で初めてアニメの脚本を手がける。最近の主な参加作に『BNA ビー・エヌ・エー』『バック・アロウ』など。
作品概要

『天元突破グレンラガン 対 キルラキル 展』
2024年夏に開催決定!!

  • ©TRIGGER・中島かずき/キルラキル製作委員会