「ゲーム発」に由来する独自性
『ラブライブ!サンシャイン!!』や『ラブライブ!スーパースター!!』と並ぶラブライブ!シリーズの柱のひとつである『虹ヶ咲』だが、シリーズ他作品との大きな違いに、「ゲーム発」の企画であったことが挙げられる。2017年3月にスマートフォン向けアプリゲーム『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』内で、新プロジェクト「PERFECT Dream Project」の発表とともに、現在の『虹ヶ咲』メンバー数名のビジュアルがお披露目となった。その後、段階的に9人のメンバーが発表され、「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」が発足する。この時点ではあくまでゲーム内でのプロジェクトだったため、TVアニメの制作予定はなかった。
こうした出自の特殊性もあってか、『虹ヶ咲』はTVアニメ化に至っても、スクールアイドルたちの群像劇というラブライブ!シリーズの世界観を継承しながら、他の作品にはない性格や特徴を持つ作品となった。
ひとりひとりの「大好き」を大切に
『虹ヶ咲』のTVアニメ1期のキャッチフレーズは、「「仲間」で「ライバル」!?」(2期では「「ライバル」だけど「仲間」!!」)となっている。このことからもわかる通り、メンバーたちがグループではなく、ソロでの活動を中心としている点がもっとも大きな特徴だ。チームとしてまとまる過程を描くこと以上に、ソロアイドルとしてそれぞれのやりたいことや、各自の別様の「大好き」にこだわる気持ちがクローズアップされている。1期第2話の中須かすみのモノローグ「いろんなかわいいもカッコいいも、一緒にいられる、そんな場所が本当に作れるなら、そこは絶対、世界でいちばんのワンダーランドです」は、それぞれ自分の「大好き」を表現するスクールアイドルがひとつの場所に共存できる「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」を象徴する前向きなメッセージだ。
一方でそれに続く第3話では、優木せつ菜は「私は自分の大好きを他人に押し付けてしまっていたのではないか」と葛藤し、「誰かの『大好き』が、別の誰かの『大好き』を否定してしまわないか」を問うている。このことからも、『虹ヶ咲』の世界観において、各自の「大好き」の気持ちがいかに尊重されているかがわかるだろう。
また、各々がやってみたいことを発表する際などに「みんな、本当にバラバラだね」といった言葉がよく出てくるのも印象的だ。その台詞を受けたメンバーたちもどこかうれしそうで、「バラバラ」という言葉がまったくネガティブなニュアンスで用いられていない。それぞれの個性を尊重しながら話し合ったり、協力しながらステージを作りあげていく模様を描いた『虹ヶ咲』は、多様性包摂(※)にまつわる物語でもあると言えるだろう。
- ※包摂(ほうせつ)。一定の範囲の中に包み込むこと。翻ってこの文脈では、いかなる属性も排除されない状況のこと。
「ラブライブ!」に出場しない『ラブライブ!』の物語
同好会がスクールアイドルの全国大会である「ラブライブ!」に出場しない道を選ぶことも『虹ヶ咲』独自の路線だ。これは他のシリーズ作でストーリーのポイントとなっている「学校の存続」を目標にする必要がないことにも起因するのだが、ともかくこの選択によって同好会は「勝ち負け」とは別のモチベーションで活動していくことになる。そして「ラブライブ!」出場に代わって目標となるのが「スクールアイドルフェスティバル」の開催である。
お台場の街全体を使って、近隣の東雲学院や藤黄学園など他校で活動するスクールアイドルをも巻き込み、さらにそれらを応援している人たちのやりたいことまで一緒に叶えることを目指して開催される「スクールアイドルフェスティバル」は、同好会が培ってきたスタンスをさらに拡大させたものだと言える。形式やコンセプトがまったく異なるステージが一堂に会する、その多様性と祝祭感(近江彼方のステージでは観客も一緒に「すやぴ(=眠る)」するシーンさえあった)は、まさにひとりひとりの「大好き」をとことん尊重してきた同好会の活動の集大成だった。
「応援すること」を可視化した高咲侑
もうひとつ、『虹ヶ咲』を特異なものしている要因として、高咲侑(たかさきゆう)の存在が挙げられる。ゲームにおいてプレイヤーにあたる「あなた」を具現化したメンバーであり、スクールアイドルとしてステージに立たない主要登場人物という、ラブライブ!シリーズ全体を見渡しても唯一無二の立ち位置を務めている。彼女は同好会に籍を置きつつも、他のメンバーの夢を応援するというかたちで、スクールアイドルへの「大好き」を表現している。この姿はストーリーや楽曲を楽しんだり、ライブに足を運んだりしている、ラブライブ!シリーズを応援するファンとも重なるのだが、それが主体を持ったひとりの人物として作品に登場するのも『虹ヶ咲』の特筆すべき点だろう。
第1話では「夢を追いかける人を応援できたら、私も、何かが始まる」と語っていた侑だが、同好会で活動しているうちに自らも「音楽」という夢を見つけ、第13話では音楽科への転科試験を受ける。その結果、他者の夢を応援することと、自分の夢の追うことを両立することになった2期では、同好会をやめて自分の夢に向き合うようにと諭されるシーンもある。これからの高咲侑の生き様を通して、筆者もファンとしてできること、自分自身がやりたいことといった実存的問題(※)に向き合うことになるのかもしれない。
- ※自己の存在の根幹に関わるような問題のこと。
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『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 5th Live! 虹が咲く場所』
<Colorful Dreams! Colorful Smiles!公演>
Day1: 9月10日(土) 開場17:00/開演18:00
Day2: 9月11日(日) 開場15:00/開演16:00
会場:東京ガーデンシアター
<Next TOKIMEKI公演>
Day1: 9月17日(土) 開場17:00/開演18:00
Day2: 9月18日(日) 開場15:00/開演16:00
会場:武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナ
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